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第7章 戦いの終わり
純粋な想いを
しおりを挟む「―――俺は、リュードと血を交わした。こうやって両目が赤くなったのは、そのせい。」
初めに、キリハは自分の変化について簡単に説明した。
「俺は知りたかった。三百年前のドラゴン大戦はどうして起こったのか……そして、ユアンとリュードはどうして血を交わしたのかを。」
そっと。
自分の目元をひとなで。
「きっかけは小さかった。些細な嫉妬と、ちょっしたすれ違い。それを修復しようと頑張っても無理で、溝を埋めようとしても逆に広がってしまって……それが、戦争にまで発展してしまった。俺はそれを知って、他人事だとは思えなかった。だって……俺たち竜使いとみんなの関係も、もっとこじれればそうなるだろうから。」
キリハがそう言うと、それを聞いていた皆が息を飲んだ。
おそらく、彼の言葉を否定できなかったのだろう。
「ドラゴンの封印が全部解けて、最後に目覚めたリュードは、とても悲しそうだった。我が眠っている間に、人間とドラゴンの関係性は大きく変わってしまっただろう。昔のように友として語らって、協力しながら生きていきたいと願うのは……我のわがままであろうな……って。リュードは、俺にそう言った。」
キリハはそこで、沈痛な面持ちをして目を閉じる。
「俺はそれに、何も言えなかった。それが事実だから、こうして不可侵規定ができたわけだし……俺も、もう一度ドラゴンと一緒に暮らそうってみんなに言うのは、ひどい押しつけだと思う。」
この事実を認めるのは、少しばかりつらい。
でも、これが現実。
テレビを見ているたくさんの人たちが経験として知っているのは、壊れたドラゴンの恐ろしさだ。
いくら自分とロイリアが無邪気にじゃれあっている姿を映像越しに見ていたとしても、その恐怖は和らがない。
「それでも俺は―――ユアンと同じように、リュードと友達でありたいと思う。」
しっかりと目を開いて。
キリハはそこにいる人々とカメラをまっすぐ見つめる。
「俺の言葉を信じてほしいとは言わない。ドラゴンの言葉が実際に分からないと信じられないだろうし……言葉が分かったとしても、怖くて信じられないってこともあるだろうから。」
そう。
こればかりは無理強いできない。
世の中の〝普通〟を変えるのは、一朝一夕にはできなくて。
中には、この想いがどうしても届かない人だっている。
『確かに僕たちの中には、竜使い以外の人を憎んでる人も多い。そういう人たちが今までのことを水に流せるかと言われたら、やっぱり無理だと思うし、それを強要するのも酷なことだと思う。きっと、みんなが許し合って手を取るのは不可能だ。』
かつて、エリクが言った言葉。
それを噛み締めた上で、自分はやっぱりこう願う。
「俺は、これからもドラゴンたちと接していようと思う。ドラゴンたちとたくさん話をして、少しでも多くの絆を作っていこうと思う。そして、ターニャたちと協力しながら……よりよくなった人間とドラゴンの関係性を、次に繋いでいけたらと思う。それが、人間とドラゴンの絆を示す《焔乱舞》に選ばれた、俺の役目なんだ。」
キリハはそこで、表情を柔らかくほころばせる。
「もし……もし、少しでも興味を持ってくれたなら、その時はドラゴンのことを知ってくれると嬉しい。俺もリュードたちも、そんなみんなを歓迎するよ。」
最後に軽く頭を下げたキリハは、すぐにその場から踵を返した。
彼が向かう先には、リュドルフリアを始めとしたドラゴンたちが。
「リュード、ごめんね。俺たちの都合に付き合わせちゃって。」
「いいや。このくらい、造作もないことだ。」
「そっか。他のみんなもありがとね。俺とリュードに協力してくれて。」
「気にしなくていいわよ。こいつらは、ついてきたくてついてきたんだから。」
次にキリハに答えたのはレティシアだ。
彼女がそう言うと、他のドラゴンたちもうんうんと頷く。
「久々に生身の人間が乗り込んできたと思ったら、これまた随分と可愛い坊やなんだもんなぁ。」
「本当に。ユアンみたいないやらしさがなくて、つい構いたくなっちゃうのよね。」
「ちょっとー? 僕のどこがいやらしいのさ?」
聞き捨てならない、と。
リュドルフリアの後ろから姿を現したユアンが、可愛らしく頬を膨らませる。
「お前にはもう、純粋さが欠片もないんだよ。」
「あ、そう言うってことは、僕を純粋だって思ってた時があったんだね~? ありがと♪」
「そういうとこだよ。」
「えぇー、いいじゃん。ちょっとのいやらしさくらい、大目に見てよー。どうせこれから、消えるまではそっちで暮らすんだし。」
「あんた、最後の最後まで消えなさそうだけどね。」
「やっぱり? 僕もさ、結局リュードが死ぬまで生きてる気がしてきたんだよねぇ?」
「うざぁ……」
「こいつさ、三百年の間に性格変わってないか?」
愉快な掛け合いをするユアンとドラゴンたち。
色んなことがあったけれど、彼らの友情は三百年前と何も変わっていないらしい。
なんだか、ちょっぴり羨ましい。
自分も、こんな絆を作っていけたらと思う。
「キリハー!!」
ほんわかとしていたキリハに、ロイリアがご機嫌で飛びかかる。
「ぼく、これからもここにいていいの!?」
「うん、もちろんいいよ。でも、レティシアと一緒に西側に戻らなくていいの?」
「ええぇー…。ぼくはキリハと一緒にいたーい……」
「まあ、俺はいいんだけど……」
ちらりと、レティシアを一瞥するキリハ。
「私は別にいいわよ。」
レティシアはあっさりとそう言った。
「様子が気になったら、私からこっちに来ればいいんだし。ロイリアも、たまには西側に戻ってくるのよ? 私とおじいちゃんに、元気な姿を見せてちょうだい。」
「うん! おじいちゃんもそれでいい?」
「ああ。もちろんだとも。」
無邪気なロイリアに頭をすり寄せて、リュドルフリアはご機嫌だ。
どのくらいの濃さで血が繋がっているか分からないから、とりあえず〝おじいちゃん〟でいいでしょ。
そんなざっくりした考えで、レティシアは昔から、ロイリアにリュドルフリアをそう呼ばせていたそうだ。
リュドルフリアとしてはそれが嬉しくてたまらなかったのか、ロイリアをいたく溺愛しているよう。
ここ数日でよく分かったが、本当に仲睦まじい二体である。
「みんな、これからもよろしくね。」
キリハが笑顔で言うと、リュドルフリアたちは大きく頷いてくれる。
そんなキリハたちの様子を、ターニャやディアラントも微笑みを浮かべて見守っていた。
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