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第7章 戦いの終わり
〝友達になろう〟
しおりを挟む「―――終わりは、あっけないものだね……」
黒煙が空に拡散していく様を見つめながら、ユアンはぽつりと呟いた。
リュドルフリアと《焔乱舞》の炎は、あっという間にレクトの体を焼き尽くした。
その影響で周辺の木々にも炎が燃え移ったが、幸いにもこの山脈は植物の生育が芳しくない岩山だ。
連日の雪で木々が湿っていることもあり、被害はそこまで大きくならなかった。
今は念のために、宮殿とノアのジェット機が消火剤を散布している。
「あんなに喜んで死んでいくとは…。もっと早く……シアノたちが死ぬよりも早く、こうしてやればよかったな。」
リュドルフリアの声も、ひどく寒々としていた。
そんな親友の首を、ユアンは優しく叩く。
「僕たちは……往生際が悪すぎたね。いつかみんなで笑い合えるようになろうって、必死に足掻いて……本当に多くの犠牲を出してしまった。そこまでのことが起きないと、レクトを切り捨てられなかった。僕も君も……通り名が立派なだけの、ただの臆病者さ。」
「ああ……そうだな。」
互いにそう言って、目を閉じる二人。
寄り添う二人に残っているのは、因縁に決着をつけた達成感ではなく、ただただ深い傷だけのように見えた。
「ユアン……リュドルフリア……」
そんな二人に何を言ったらいいのか分からず、キリハは眉を下げる。
そんなキリハに気付いたリュドルフリアが、ふと身を屈めた。
キリハに首を近づけた彼はその体の至る所を眺めて、最後に頬をぺろりと舐めていく。
「こんなに傷だらけになってしまって…。我が目覚めるまでの間、とてもよく頑張ってくれたのだな。すまない。」
「あ…」
リュドルフリアが頬から流れていた血を舐め取ってくれたのだと悟り、キリハは思わずそこに手をやった。
「焔を通して、お前の嘆きや苦しみを全て見てきた。我が意志の代弁者として、何度もつらい思いをさせてしまったが……お前を選んでよかった。本当にありがとう。―――キリハ。」
そう言ったリュドルフリアは、小さく笑う。
その金色の瞳には先ほどまでの厳かさはなくて、とても優しい光に満ちていた。
「俺も……俺も、ありがとう。俺を選んでくれて。」
リュドルフリアの頭を両手で抱いたキリハは、その冷たい鱗に頭を預ける。
「リュドルフリアが選んでくれたから、俺はドラゴンのことをたくさん知れたよ。レティシアたちとも友達になれた。それでね、この先やりたいことも、ちょっとだけど見えた気がするんだ。つらいことだけじゃない。リュドルフリアが俺を選んでくれたから得られた楽しさや嬉しさも、ちゃんとあったんだからね。」
ぎゅっと、めいいっぱいにリュドルフリアを抱き締めて。
その力に、言葉以上の想いを込める。
「ねぇ、リュドルフリア。」
一度体を離して、金色の双眸を真正面から見つめる。
「ユアンとおんなじように……―――俺とも、友達になってくれる?」
リュドルフリアに会ったら、真っ先に言いたかった言葉。
自分は、ユアンやレティシアの昔話で聞いたリュドルフリアしか知らない。
それでも、彼がとても優しくて慈愛に満ちた存在であることは十分に伝わってきた。
だから今度は、そんな彼を自分で知っていきたい。
そして許されるなら、命ある限りは共に同じ世界を見ていたい。
「ユアンが死んじゃった時のことを考えたら、俺と友達になるのが怖いかもしれない。でもね……そんな怖さも霞むくらい、思い出したら思わず笑っちゃうくらい楽しい思い出を、リュドルフリアと作れたらって思うんだ。」
キリハは笑みを浮かべて、リュドルフリアの前に手を差し伸べた。
大切な人を失うのはつらい。
それは、両親を早くに亡くした自分にも痛いほど分かる。
でも、そんな人たちとの思い出が幸せなものだったなら、失った後もその思い出が自分を支えてくれる。
寂しくて涙することがあっても、その思い出たちが、最後には自分を笑わせてくれる。
だから自分は、自分が先に死んでしまうと分かっていても、リュドルフリアと友達になりたいと願う。
そしてできることなら、この絆を次に繋いでいきたいと思うんだ。
リュドルフリアは大きく見開いた目を、パチパチとしばたたかせている。
どうやら、何かにひどく驚いているらしい。
「……お前は、まるでユアンの生き写しだな。」
やがて彼の口から漏れたのは、失笑めいた溜め息。
「―――喜んで。三百年も眠っていたからな……友として、今の人間やお前のことを、たくさん教えておくれ。」
ちょっと泣きそうな声で、リュドルフリアはそう言ってくれる。
「うん!!」
無邪気に頷いたキリハは、もう一度リュドルフリアの頭を抱き締める。
そして、二人でくすくすと笑い合った。
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