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第6章 最後の戦いへ
総力戦
しおりを挟む「この若造が! やれるものなら、やってみるがいい!!」
飛びかかってくるレティシアを迎え撃つように、レクトは大きく腕を振りかぶる。
互いの爪が鈍い音を立ててぶつかり合い、それぞれの皮膚を傷つけながら離れる。
「うっ…」
「くっ…」
凄まじい激痛に、レティシアもレクトも呻き声を噛み殺すことができなかった。
レティシアが言うように、お互いに限界が近い。
全身から止めどなく血が流れ出ていて、いくらドラゴンほどの巨体とはいえ、失血による酸欠が肉体の機能を邪魔してくる頃だった。
「このぉっ!!」
渾身の力を掻き集め、レクトはレティシアの首を目掛けて爪を振り下ろす。
何が、ロイリアの幸せを壊そうとする自分が憎いだ。
ならば、自分の幸せを壊そうとするレティシアを憎んだっていいだろう。
そうさ。
人間もドラゴンも関係ない。
自分のリュドルフリアを奪うというならば、どんな存在だって根絶やしにしてやる。
「………っ」
先ほどの相討ちのダメージが抜けきらないのか、レティシアの動きが鈍い。
この一撃が致命傷になるかと思われたが―――
「焔!!」
この展開を見越していたかのようなタイミングで炎の壁が立ちはだかり、振り下ろした爪はキリハの剣によって軌道を逸らされる。
キリハを乗せたまま素早く旋回したロイリアは、その勢いのままレティシアに体当たりをし、彼女を安全圏へと。
「くそ…っ。ここぞとばかりに邪魔を…っ」
レクトは歯噛みする。
体格や力強さであれば、自分はレティシアに快勝できたはずだった。
それなのに、肝心な時ほどキリハとロイリアが彼女のフォローに入り、勝敗を決する一撃が決められずにいる。
(何か……こいつらの意識を逸らすものは……)
攻撃体勢を整えながら、忙しなく周囲を見回す。
目についたのは、遥か森の奥に広がる人間の街だった。
(レティシアを確実に仕留めるには、人間には人間の相手をさせた方がいいか。)
思い至った瞬間に行動へと移る。
レティシアとキリハたちに威嚇程度の炎を吐きつけ、その隙をかいくぐって進行方向を変更。
「させるか!!」
次の瞬間、眼下の森から大量の弾丸が襲い来る。
とっさの判断で上昇したが、弾の一部が翼を貫通し、尻尾にも何発かが的中してしまった。
「オレらだって、伊達に学んじゃいねぇぜ! 街になんか行かせるかっての!」
「ドヤ顔はいいから、次の指示を回さんかい!! 今はジョーが救護に回ってていねぇんだぞ!?」
レクトに通じないことに構わず拡声器で叫ぶディアラントに、ミゲルがいつもの調子で怒鳴る。
(くっ…。まずは、こいつらを潰すのが先か。)
後退した自分に体勢を立て直したレティシアが迫るが、それは翼のはためきから感じ取っていたので回避。
その間に、キリハとロイリアがディアラントたちを守るように位置取る。
レティシア攻撃をかいくぐりながら、レクトは炎を吐く準備を整える。
《焔乱舞》の炎は脅威ではあるものの、所詮はリュドルフリアの分身だ。
真正面からぶつかったところで、自分の炎と長く拮抗することはできまい。
少しの時間でも、《焔乱舞》の勢いを上回れればいい。
その隙に周辺の木々に炎が燃え移れば、下の人間たちは機能しなくなるはずだ。
キリハはこちらの意図を察しているのか、大量の炎をまとって迎撃態勢。
―――と、その表情が変わった。
「レティシア!! 上か後ろに思いっきり引いて!!」
彼は突然、どこか焦ったようにそう言った。
そしてロイリアを急がせた彼も、その場から逃げるように勢いよく横へ。
次の瞬間、上空から槍の雨がレーザーの勢いで降り注いできた。
「ぐう…っ」
まさかの攻撃に、回避が間に合わなかった。
鋭い切っ先が体にいくつも突き刺さり、なす術もなく地面に叩きつけられてしまう。
「はっはっはぁ!! だから言っただろう? 上空からの援護なら、私たちはどこにも負けないと!!」
「ノア様ーっ!?」
無線から大音量で響く笑い声に、ディアラントが素っ頓狂な声をあげて飛び上がった。
「あなた、なんでこんな所にいるんですか!?」
「緊急助っ人だとも!! ターニャに要請されて、対ドラゴン用ジェットで駆けつけたのさ!!」
「そりゃありがたいですけど、いきなりぶちかましすぎですよ!! 誰かに当たったらどうしてくれるんです!?」
「心配無用!! あらかじめ防衛ラインの展開図はもらっておいたし、キリハには避けろと無線を飛ばしたからな!!」
ディアラントの抗議もなんのその。
ジェット機のノアは、ご機嫌で口笛を吹くだけだ。
「くそ……おのれ…っ」
体を震わせて邪魔な槍を振り落としながら、レクトは立ち上がろうとする。
しかし……
「ぐっ…!!」
もたげたはずの首を上から強く掴まれ、そのまま地面に倒されてしまった。
「ほらね? だから言ったのよ。あんまり、人間を甘く見るもんじゃないって。」
レクトを地面に押さえつけたレティシアは、深々と息を吐く。
そこには、大きな疲弊が滲み出ていた。
「三百年前とは、何もかもが違うのよ。前みたいに裏に隠れておけばよかったのに、ルカに乗せられて、のこのこと出てきちゃってねぇ? 三百年前からまるで成長してないあんたが、成長し続けている人間に勝てるとでも思ったの?」
「この…っ」
「これ以上は無理しない方がいいわよ? さっき受けた薬……さすがのあんたにも効いてきてるでしょ?」
「………っ」
悔しい限りだが、レティシアに反論できる余地がない。
これだけ傷だらけのところに、弾丸と槍の攻撃は強烈すぎた。
先ほどから、体が痺れて動きにくくなってきている。
しかし……
それでも……
「誰が……お前らなどに…っ」
ここで身を折ってなるものか。
まだこの願いを叶えていないのに、このまま朽ち果てるなど、自分には容認できない。
「―――安心しなさいよ。私は、あんたを殺さない。」
ふとその時、レティシアがそんなことを告げた。
「私の役目もそろそろ終わり。ロイリアの仕返しも、満足する程度にはできたしね。あんたをどうするかは……これから目覚めるお方が決めるでしょう。」
まるで、レティシアの言葉を肯定するように。
断続的に起こっていた地響きが、一気に大きくなる。
あまりの揺れに、地上のディアラントたちがたたらを踏んだり、座り込んだりした。
そんな眼下の様子を見つめていたキリハは、次にレティシアが仰ぐ方向へと視線を滑らせる。
退避した焔の洞窟が大きく揺れている。
土砂崩れでも起こったかのように、木々を巻き添えにしながら岩肌がバラバラと落ちていく。
皆が凝視する中で、どんどん形を変えていく山の一部。
岩肌に一番の大きな亀裂が入って、そして―――
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