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第6章 最後の戦いへ
人間に感化されたからこその感情
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戦況は、五分五分といった様子だった。
忌竜であるレクトと、眷竜たるレティシアのぶつかり合い。
体格にこそ多少の優劣はあれど、そこに込められた敵意は互角。
―――いや、それに関しては、レティシアの方に軍配が挙がっていたと言うべきか。
(く…っ)
レティシアの鋭い爪が鱗の隙間を縫って、皮膚を深く切り裂く。
それに怯むことなく、レクトは彼女から一気に距離を取る。
どれだけの間、こうして攻撃を交わし合っていることだろう。
並大抵のドラゴンの血には耐性があるからなのか、もしくはあの知将がバックについているからなのか、レティシアはこちらが血を流したところで止まらない。
こちらを屠ろうとしてくる気迫には、暗に自身のことなどどうでもいいというような、完全に捨て身とも受け取れる気概が滲んでいる。
「……何よ。自分はユアンに猛烈な怒りを抱いておいて、自分が怒りを向けられることには免疫がないわけ?」
こちらの戸惑いを感じ取ったのか、レティシアがそんなことを言ってくる。
「そうね。これは、縄張り争いとは違うものね。私たちドラゴンは、自分の縄張りを侵されること以外で、怒りという感情を持たなかった。そういう生き物じゃなかった。だからこれは、私やあんたみたいに、特別な立場にいるドラゴンが持てる怒り……もしくは、人間に感化されたドラゴンだからこそ持てる怒りなのかもしれないわ。」
「人間に、だと…?」
「だってそうでしょう?」
レクトの不可解そうな言葉に、レティシアはそう返す。
「いくら最強の種族だっていっても、私たちはいつ命を落とすかも分からない世界で生きているわ。利害が一致すれば手を組むけどその場限り。知り合いが死んでも、それが運命と割り切って悲しまない。私たちはいつも、相手を手放しても傷つかない程度で馴れ合ってきた。そうでしょう?」
「私は―――」
「違う? リュード様に会うまでのあんたも、そうだったはずよ。そうじゃないなら、あんたは生まれながらの異端者ね。」
鋭い攻撃を繰り出しながら、レティシアは言葉を紡ぐことをやめない。
「でも、人間に触れ合ってからはどう? 私たち一人ひとりに、存在する意味が生まれた。そこに生まれた命じゃなくて、そこにある心を見ることを知った。だからこそ―――怒りや憎しみが生まれるほどの執着心だって生まれた。」
「―――っ」
レティシアの言葉が、胸に深く突き刺さる。
「あんたはさっきから、私があんたと同じだったはずだと言ってたわね。リュード様みたいに行きすぎた執着を持たれても迷惑だから、今ここではっきりと否定しておくわ。」
レティシアの尻尾が猛スピードで体を叩く。
その勢いに負けて、彼女との距離が開いた。
「私は、事あるごとにうじうじと悩む人間の生き方がめんどくさいと思った。そして、それと同時に……そうなるのが、怖いとも思った。」
「怖い…?」
「そうよ! あんたには、一生分からないかもしれないけどね!!」
こちらの攻撃を間一髪で避けて、レティシアは流れるように足蹴りを見舞おうとしてくる。
「人間が誰かとの別れをいちいち悲しむ理由を、私は知りたくなかった。だって……そうしたら、ロイリアとの別れが来た時に、自分が壊れちゃいそうだったんだもの。同じように、その気持ちを知ったロイリアだって、普通には生きられないと思った。だから距離を置いたの。」
そこまで語ったレティシアは「でも…」と続ける。
「それでも私は、知ること自体からは逃げなかったわ。リュード様やユアンが長話をしてくるってのもあったけど、その時間は……今までとは違って、私とロイリアだけを見てもらえるって、そう感じられる時間だったから! だから私は、人間と距離を置きながらも……―――人間を拒絶してはいなかった!!」
「なっ!?」
「分かったかしら!? これが、私とあんたの大きな違いよ!!」
大きな咆哮をあげたレティシアは、全力を込めてレクトに突撃していった。
忌竜であるレクトと、眷竜たるレティシアのぶつかり合い。
体格にこそ多少の優劣はあれど、そこに込められた敵意は互角。
―――いや、それに関しては、レティシアの方に軍配が挙がっていたと言うべきか。
(く…っ)
レティシアの鋭い爪が鱗の隙間を縫って、皮膚を深く切り裂く。
それに怯むことなく、レクトは彼女から一気に距離を取る。
どれだけの間、こうして攻撃を交わし合っていることだろう。
並大抵のドラゴンの血には耐性があるからなのか、もしくはあの知将がバックについているからなのか、レティシアはこちらが血を流したところで止まらない。
こちらを屠ろうとしてくる気迫には、暗に自身のことなどどうでもいいというような、完全に捨て身とも受け取れる気概が滲んでいる。
「……何よ。自分はユアンに猛烈な怒りを抱いておいて、自分が怒りを向けられることには免疫がないわけ?」
こちらの戸惑いを感じ取ったのか、レティシアがそんなことを言ってくる。
「そうね。これは、縄張り争いとは違うものね。私たちドラゴンは、自分の縄張りを侵されること以外で、怒りという感情を持たなかった。そういう生き物じゃなかった。だからこれは、私やあんたみたいに、特別な立場にいるドラゴンが持てる怒り……もしくは、人間に感化されたドラゴンだからこそ持てる怒りなのかもしれないわ。」
「人間に、だと…?」
「だってそうでしょう?」
レクトの不可解そうな言葉に、レティシアはそう返す。
「いくら最強の種族だっていっても、私たちはいつ命を落とすかも分からない世界で生きているわ。利害が一致すれば手を組むけどその場限り。知り合いが死んでも、それが運命と割り切って悲しまない。私たちはいつも、相手を手放しても傷つかない程度で馴れ合ってきた。そうでしょう?」
「私は―――」
「違う? リュード様に会うまでのあんたも、そうだったはずよ。そうじゃないなら、あんたは生まれながらの異端者ね。」
鋭い攻撃を繰り出しながら、レティシアは言葉を紡ぐことをやめない。
「でも、人間に触れ合ってからはどう? 私たち一人ひとりに、存在する意味が生まれた。そこに生まれた命じゃなくて、そこにある心を見ることを知った。だからこそ―――怒りや憎しみが生まれるほどの執着心だって生まれた。」
「―――っ」
レティシアの言葉が、胸に深く突き刺さる。
「あんたはさっきから、私があんたと同じだったはずだと言ってたわね。リュード様みたいに行きすぎた執着を持たれても迷惑だから、今ここではっきりと否定しておくわ。」
レティシアの尻尾が猛スピードで体を叩く。
その勢いに負けて、彼女との距離が開いた。
「私は、事あるごとにうじうじと悩む人間の生き方がめんどくさいと思った。そして、それと同時に……そうなるのが、怖いとも思った。」
「怖い…?」
「そうよ! あんたには、一生分からないかもしれないけどね!!」
こちらの攻撃を間一髪で避けて、レティシアは流れるように足蹴りを見舞おうとしてくる。
「人間が誰かとの別れをいちいち悲しむ理由を、私は知りたくなかった。だって……そうしたら、ロイリアとの別れが来た時に、自分が壊れちゃいそうだったんだもの。同じように、その気持ちを知ったロイリアだって、普通には生きられないと思った。だから距離を置いたの。」
そこまで語ったレティシアは「でも…」と続ける。
「それでも私は、知ること自体からは逃げなかったわ。リュード様やユアンが長話をしてくるってのもあったけど、その時間は……今までとは違って、私とロイリアだけを見てもらえるって、そう感じられる時間だったから! だから私は、人間と距離を置きながらも……―――人間を拒絶してはいなかった!!」
「なっ!?」
「分かったかしら!? これが、私とあんたの大きな違いよ!!」
大きな咆哮をあげたレティシアは、全力を込めてレクトに突撃していった。
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