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第6章 最後の戦いへ
司令塔としての役目
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突然起こった大きな地震。
そして、過去最大級のドラゴンがなんの前触れもなく出現したこと。
この双方に、宮殿はパニックの渦中に突き落とされていた。
「ターニャ様!!」
作戦本部となっている会議室に、慌ただしく駆け込んでくる人物が二人。
「これはどういうことですか!? 本日ドラゴン討伐が決行されるなど、宮殿の誰もが聞かされておりませんぞ!!」
宮殿の誰もが、か。
彼らにとって、宮殿本部にいる人々は〝宮殿の人間〟には入らないわけだ。
国民には協力体制を見せつけておいて、その裏では常に自分たちを追い出す算段を立てている。
こんな時にもその姿勢を崩さないのだから、その一貫性には拍手を送りたい気分だ。
「いいのです。この作戦は、最低限の体制で動く必要がありましたので。下手な噂が広がらないよう、情報規制は念入りにさせていただいたのです。討伐場所も問題ないでしょう。セレニア山脈付近には人が暮らしておりませんし、重要な施設があるというわけでもないのですから。」
「そういう問題ではございません! 何か問題が起こったらどうするのですか!? 国民の混乱を招いておいて、どう責任を―――」
「どう、とは?」
タン、と。
キーボードを強く叩いたターニャが、物静かな瞳で前に立つ人物を見上げる。
「何故、あなた方がそこまで慌てておられるのですか? 責任問題が生じた際には、私とドラゴン殲滅部隊がその責を問われます。……まさか今になって、共に責任を負う覚悟でも決まったのですか?」
その問いかけを受けて、ターニャに詰め寄ろうとしていたジェラルドが息をつまらせる。
「………」
ちらりと、ジェラルドの後ろに控えているランドルフに目配せ。
彼はこちらの視線に気付くと、一度ゆっくりとまばたきをしてから目を閉じた。
〝好きなようにやりなさい。〟
言葉のない後押しが、こんなにも心強い。
「まあ……心配にはなりますか。戦場がセレニア山脈からフィロアにでも移れば、避難が間に合わなかったあなた方もただでは済みませんしね。それに、フィロアが壊滅なんてことになれば、仮に私たちを宮殿から追い出せたとしても、抱える負債の方が大きいですから。」
どうやら図星らしい。
そう告げると、ジェラルドが露骨に肩を痙攣させるのが分かった。
ターニャは大仰に溜め息をついてみせ、次にジェラルドを鋭い眼力で睨んだ。
「ご心配なく。私の元には、この程度の障害など簡単に越えられる人々が揃っておりますので。」
そう言い放ったターニャは、次にランドルフを意味ありげに見つめる。
「申し訳ないですね、ランドルフさん。あなたがスパイとして送り込んだジョーさん……いえ、アルシードさんは、最終的に私の味方についてくださったようですよ?」
「……そのようですね。」
ランドルフは大袈裟な反応をせず、小さく肩をすくめるだけ。
「私も想定外です。あれだけの報酬を支払っていたにもかかわらず、最後の最後で総督部を裏切るなんて…。ロイリアを治療なんかせずに暴れさせてくれた方が、私としては都合がよかったんですがね。あれは、あなたの指示で?」
「いえ。」
ランドルフの問いに、ターニャは首を横へ。
「ロイリアを助けてくれたのは、誰の介入があったわけでもなく、アルシードさん個人の決断です。過去に多くの方を助ける偉業をなした者として、ロイリアを見捨てることはできなかったのでしょう。」
「見捨てることができなかった……ですか。あの彼に限って、そんなことはないと踏んでいたのですが。」
「それでも……アルシードさんは過去の傷を乗り越えて、人々を救う道を再び選んだのです。私はそれを評価して……―――心から、彼を信頼します。」
これは嘘じゃない。
自分は、ずっと彼を信じていた。
ディアラントと同じく、曇りのない瞳で自分に手を差し伸べてきた、あの日から。
「そうですか…。まあ、アルシード君が寝返ってしまった今となっては、何を言っても無駄ですね。あの彼を手懐けたあなたの手腕には、素直に賛辞を述べましょう。」
ジェラルドに見えないのをいいことに、ランドルフは微かに笑みを浮かべる。
〝あの子をあるべき道に戻してくれて、ありがとう。〟
彼の笑顔がそう語る。
本来は、その賛辞を受け取るべきなのは自分ではないけれど。
今は、未来の栄光を掴むために全てを利用しよう。
「そうですか。―――なら、今後のためにも、今は私たちの邪魔をせずに大人しくしていてください。」
にべもなくそう言ったターニャは、パソコンを操作して別の部署へ連絡を飛ばす。
「ケンゼル総指令長、聞こえますか?」
通信を繋いだ先は、ジョーと張るほどの情報の操作者。
「至急、各メディアへ通達を出してください。―――これが、最後の戦いだと。」
そして、過去最大級のドラゴンがなんの前触れもなく出現したこと。
この双方に、宮殿はパニックの渦中に突き落とされていた。
「ターニャ様!!」
作戦本部となっている会議室に、慌ただしく駆け込んでくる人物が二人。
「これはどういうことですか!? 本日ドラゴン討伐が決行されるなど、宮殿の誰もが聞かされておりませんぞ!!」
宮殿の誰もが、か。
彼らにとって、宮殿本部にいる人々は〝宮殿の人間〟には入らないわけだ。
国民には協力体制を見せつけておいて、その裏では常に自分たちを追い出す算段を立てている。
こんな時にもその姿勢を崩さないのだから、その一貫性には拍手を送りたい気分だ。
「いいのです。この作戦は、最低限の体制で動く必要がありましたので。下手な噂が広がらないよう、情報規制は念入りにさせていただいたのです。討伐場所も問題ないでしょう。セレニア山脈付近には人が暮らしておりませんし、重要な施設があるというわけでもないのですから。」
「そういう問題ではございません! 何か問題が起こったらどうするのですか!? 国民の混乱を招いておいて、どう責任を―――」
「どう、とは?」
タン、と。
キーボードを強く叩いたターニャが、物静かな瞳で前に立つ人物を見上げる。
「何故、あなた方がそこまで慌てておられるのですか? 責任問題が生じた際には、私とドラゴン殲滅部隊がその責を問われます。……まさか今になって、共に責任を負う覚悟でも決まったのですか?」
その問いかけを受けて、ターニャに詰め寄ろうとしていたジェラルドが息をつまらせる。
「………」
ちらりと、ジェラルドの後ろに控えているランドルフに目配せ。
彼はこちらの視線に気付くと、一度ゆっくりとまばたきをしてから目を閉じた。
〝好きなようにやりなさい。〟
言葉のない後押しが、こんなにも心強い。
「まあ……心配にはなりますか。戦場がセレニア山脈からフィロアにでも移れば、避難が間に合わなかったあなた方もただでは済みませんしね。それに、フィロアが壊滅なんてことになれば、仮に私たちを宮殿から追い出せたとしても、抱える負債の方が大きいですから。」
どうやら図星らしい。
そう告げると、ジェラルドが露骨に肩を痙攣させるのが分かった。
ターニャは大仰に溜め息をついてみせ、次にジェラルドを鋭い眼力で睨んだ。
「ご心配なく。私の元には、この程度の障害など簡単に越えられる人々が揃っておりますので。」
そう言い放ったターニャは、次にランドルフを意味ありげに見つめる。
「申し訳ないですね、ランドルフさん。あなたがスパイとして送り込んだジョーさん……いえ、アルシードさんは、最終的に私の味方についてくださったようですよ?」
「……そのようですね。」
ランドルフは大袈裟な反応をせず、小さく肩をすくめるだけ。
「私も想定外です。あれだけの報酬を支払っていたにもかかわらず、最後の最後で総督部を裏切るなんて…。ロイリアを治療なんかせずに暴れさせてくれた方が、私としては都合がよかったんですがね。あれは、あなたの指示で?」
「いえ。」
ランドルフの問いに、ターニャは首を横へ。
「ロイリアを助けてくれたのは、誰の介入があったわけでもなく、アルシードさん個人の決断です。過去に多くの方を助ける偉業をなした者として、ロイリアを見捨てることはできなかったのでしょう。」
「見捨てることができなかった……ですか。あの彼に限って、そんなことはないと踏んでいたのですが。」
「それでも……アルシードさんは過去の傷を乗り越えて、人々を救う道を再び選んだのです。私はそれを評価して……―――心から、彼を信頼します。」
これは嘘じゃない。
自分は、ずっと彼を信じていた。
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「そうですか…。まあ、アルシード君が寝返ってしまった今となっては、何を言っても無駄ですね。あの彼を手懐けたあなたの手腕には、素直に賛辞を述べましょう。」
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「ケンゼル総指令長、聞こえますか?」
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