竜焔の騎士

時雨青葉

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第6章 最後の戦いへ

強い絆

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「なるほど…。だから、全部知ってたんだね。」


 ルカから一連の話を聞き、キリハやディアラントは納得の表情を浮かべる。


「そういうこった。その後は兄さんがアルシードを呼び出して、ついでについてきたユアンも含めて、今日の件について裏で計画を立てといたわけだ。」


「でもルカ君ったら、人を呼び出しておいて、真っ先にシアノ君に言わせた言葉が〝期待してるっつったのに、何死にかけてんだタコ野郎〟だったんだよ? エリクもロイリアも助けてあげたのに、ひどいと思わない?」


 そこで文句を述べたのはジョーである。
 しかし、それに対するルカの反応は、冷たい一瞥いちべつをくれてやるのみ。


「それについては感謝してる。だが、今回はあまりにも隙が多かったんじゃねぇか? オレはあらかじめ、お前の闇を徹底的に揺さぶるって伝えただろうが。心の準備をする時間なら与えたはずだぞ?」


「どこの誰が、人間嫌いの奥にあるトラウマまで揺さぶられると思うかっての。君も、もう一度お兄ちゃんを殺されかければ、僕の気持ちが分かるんじゃなーい?」


「……どうせ、今後はお前が死ぬ気で守るだろうが。」


「何を根拠に?」


 意味が分からないと言いたげなジョー。
 それに対してルカは何も答えず、ふいっと視線を別の方向へと向けた。


「そんなぁ…。そこまで計画してたなら、俺にも教えてよぉ…。ルカが殺されるかと思って、本気で怖かったじゃんか。」


 キリハが不満を一つ。
 次の瞬間。


「お前にだけは言えるか。いつレクトが聞き耳を立ててるとも限らねぇってのに。」
「多少嘘をつく技術を身につけたとはいえ、まだまだ万人を騙せるほどじゃないよねぇ。」


 ルカとジョーから容赦ないツッコミが。
 そして、周囲の人々が彼らに同意するようにうんうんと頷く。


「あうぅ…。確かに、その辺は実力不足ですよね……」


 反論のしようがないので、キリハはしゅんと肩を落とす。


「お前はむしろ、知らない方がよかったんだよ。」


 そんなキリハに、ルカがそう声をかけた。


「お前はいつだって、人に対してはその場で直感的にしか言葉を吐けない。だからこそ……お前の言葉には、有無を言わさない強い力がある。」


「………っ」


 深くうつむいていた視線を上げる。
 再び見つめた親友は、そこで柔らかい笑顔を浮かべていた。


「まっすぐに相手だけを見つめて紡がれるお前の言葉はな、かっこつけて着飾った言葉なんかより、ずっと強く心に響く。そんでオレは……お前のそんな言葉を待ってた。」


「ルカ……」


「はは…。傷が痛くて弱ってるから言うんだぞ? 二度は言ってやらないから、よく覚えとけ。」


 ルカの泣きそうな笑み。
 彼のそんな顔を見るのは、出会ってから初めてのことだった。




「ありがとう、キリハ。アルシードにお前を頼んだのは、お前こそがオレの頼みの綱だったからだ。お前ならオレをぶん殴りに来てくれるって……ずっと、そう信じてた。」




 メッセージ越しではなくて、ちゃんと本人から告げられる想い。


「ルカ…っ」


 自覚するよりも圧倒的に早く、涙があふれて零れ落ちる。
 ルカの言葉が胸に痛くみて、それでもとても温かくて嬉しい。


 まっすぐに相手だけを見つめて紡がれる言葉は、強く心に響く。
 今のルカは、その言葉の正しさを証明していた。


「俺も……俺もありがとう…っ。ルカがいなかったら……今頃、俺もみんなも死んじゃってた。色んな人に助けられてきたけど……ルカがここにいたから、俺はここまで来られたんだよ。」


 ああもう。
 本当なら、思い切り抱き締めて絆を確かめ合いたいのに。
 そんなに怪我だらけじゃ、手を握るので精一杯じゃないか。


 ユアンが誇らしげにしていた理由が、今ならよく分かる。


 苦難を乗り越えて培われた絆は、どんな困難も打ち砕けるだけの力を生み出す。
 この絆を皆が信じ続ける限り、希望は消えないんだ。


「まあ確かに、ルカ君がいなかったら、僕もエリクを助けようとなんかしなかったかもねぇ…。それにしても、普段悪ぶってる奴が、ここぞという時に熱い展開を引き寄せるなんて……ルカ君ったら、案外物語好き? しかも、超がつくくらいの王道ストーリー系。」


 空気を読まないジョーの冷やかし。
 それに、ルカは顔をしかめる。


「アホか。オレは、王道ストーリーが一番苦手なんだ。現実感がなさすぎてよ。そういうお前は、血も涙もないリアリストのくせに、空想世界の物語なんか読むのか?」


「うん? 結構読むよ? 世の中のお馬鹿さんたちを踊らせるためには、流行にはそれなりに敏感じゃなきゃいけないもので。」


こえぇわ。お前マジで、この件が終わったら手ぇ切るからな。金輪際、オレに関わるんじゃねぇ。」


「満身創痍そういのくせに、口だけは達者なことで。」


「どの口が言う。この真っ黒ひねくれ野郎が。」


「……そうだね。君は僕に似てはいるけど、まだまだ真っ白だ。」


 少しだけ寂しそうに微笑むジョー。
 彼は一瞬でその笑顔を隠し、前方へと視線を向けた。


「さあ、出口が見えてきたよ。みんな、かなりまぶしいはずだから、目がくらまないようにね。」


 そう言われて前を見れば、十数メートル先に洞窟の出口が見える。
 出口は光で満たされていて、まるで別世界に通じるゲートのようだ。


 この先に待つのは、本当に最後の戦いだ。


 それを乗り越えた先にあるのは、あそこに見える光のように、目がくらむほどの希望であふれた世界でありますように。


 そんなことを願いながら、キリハは力強く前へと進んだ。

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