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第5章 想いと想いの激突
親友へ届ける想い
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キリハは走る。
これまで自分を強く支えてくれた親友の元へ。
〝キリハ。僕の言葉に、ルカが反応したのを見たよね?〟
脳内に響くのは、優しくて強い先祖の声。
〝大丈夫。君の声なら絶対に届く。ちょっと手荒いかもしれないけど、引っ叩いてでも起こしてあげなさい。〟
ああ、そうだ。
何を躊躇う。
散々ぶつかり合い、多くのことを共有して乗り越えてきた仲だろう。
今さら怪我の一つや二つで、ルカが怒るわけがないじゃないか。
この絆を―――ルカを信じるのなら、安直な脅しに屈するな。
「こんの……馬鹿ルカーッ!!」
レクトが剣を構える余裕を与えつつ、キリハは大振りに剣を振り下ろす。
「また何も言わずに、一人で動いたぁ!! レクトやジャミルのことは、俺もルカにとやかく言えないけどさ! 何さ、俺には絶対に言うなって! 俺に余計な心労を足したくないって!! アルにはあれこれ無茶振りしていいっての!?」
ふつふつと湧き上がる不満を、剣と共にルカへぶつける。
「レティシアたちを保護した時もさ、シアノと会った時もさ……なんかさぁ、こう……ルカって、俺に過保護じゃない!? 俺、そんなに頼りない!? 見てて心配!? 確かに溜め込み癖はあるかもしれないけど、それでも俺なりにしぶとく生きてきたつもりなんだけどなぁ!!」
「くっ……無駄なことを…っ」
「レクトは黙ってて!!」
口を開きかけたレクトに一喝して、キリハは問答無用で剣を振るう。
「ルカの優しさって、回りくどいし分かりにくい!! でも、俺は何度もそれに救われた!! 今回のことは、感謝してもし足りない。でも……どうせなら、一人で立ち向かうんじゃなくて、俺を殴ってでも目を覚まさせて、一緒に立ち向かってほしかった!! ルカがアルにそう頼んだみたいに!!」
想いを吐き出すほどに、目頭が熱くなる。
ルカがそうできなかった理由を、自分でも分かっているから。
「でも……俺が一生懸命すぎて、周りが見えてなくて……だから、言えなかったんだよね。本当にごめん…っ」
自分が不甲斐なくてたまらない。
自分を守るために、大切な親友にこんなことをさせてしまうなんて。
「次は俺の番。ルカが命を懸けて俺に希望を見せてくれたように……今度は、俺がルカを絶望から引っ張り上げてやる!! ―――ってなわけで、よく聞きなさいよ!!」
そこで、キリハの口調がガラリと変わった。
「あんた、そこで何腑抜けてんのよ!? 人間をぶっ潰してもいいですって!? あんたまさか、どうして今の道に進んだかを忘れたんじゃないでしょうね!?」
突如として女性口調になってしまったキリハ。
それに、ディアラントとユアンがパチパチと目をまたたく。
しかし、そんな外野はそっちのけで、キリハは大声を張り上げる。
「ルカ……あんたは昔、お兄ちゃんのことが大嫌いだったわよね?」
「………っ」
その言葉が放たれた瞬間、ルカの体が再び痙攣した。
そして、ディアラントやユアンも、キリハが誰の言葉を代弁しているのかを悟る。
「いつものほほんとして、何を言われても、何をされても笑って受け流して終わり。そんなお兄ちゃんが気色悪いって、理解できないって、そう言ってた。でも……お兄ちゃんが医大に進むって決めた時、あんたはお兄ちゃんへの認識を改めたわ。」
語るキリハの目尻に、涙が浮かぶ。
昨日の夜中、こっそりと部屋を訪れたカレンから聞いた話。
そこには、今のルカを形作った想いの結晶が詰め込まれていた。
自分の言葉で伝えることも考えたけど、この想いはきっと、彼を一番近くで見てきた彼女の言葉でそのまま伝えた方がいいと思う。
愛する人の言葉はきっと、誰よりも強く彼に響くはずだから。
「自分を散々傷つけてきて、これからも散々傷つけてくる人たちなのに、お兄ちゃんはそんな人たちを無条件に救う道を選んだ。あんたはそのことに驚いて……それと同時に、お兄ちゃんを心から尊敬した。」
「―――っ!!」
ルカの双眸が、大きく見開かれる。
「本当は、お兄ちゃんと同じ道に進みたかった。だけど、自分の性格じゃ……どうしたって医者にはなれない。だから!!」
キリハの声に力がこもる。
「だからあんたは、喧嘩腰でもたくさんの人に救いの手を差し伸べられる、弁護士になろうって決めたんでしょうが!!」
キリハを通して―――カレンの想いが、ルカの魂を揺さぶる。
「そんなあんたが、本気の本気で人を傷つける側に回れると思ってんの!? 血に操られてんだかなんだか知らないけど、いい加減正気に戻りなさいよ! このとんちんかん!!」
「………っ」
レクトの顔が、大きく歪む。
「………、………っ」
唇が震えて。
その震えが全身に及んで。
「この……くそ野郎が!!」
キリハの剣を弾いた彼の剣が―――キリハではなく、自分自身の太ももを深く刺し貫いた。
「うぐぅ…っ!!」
ユアンにつけられた傷とは比べ物にならない痛みに、レクトが苦悶の叫びを上げる。
「お前……何故…っ」
「何故もくそもあるか! 兄さんの仕返しには、これでも足りねぇってんだよ!!」
「―――っ!?」
ルカの発言に、その場の全員が驚愕で息を飲む。
「やれ!! ―――アルシード!!」
その叫びが轟いた瞬間。
プツリ、と。
ルカの首筋に、細い針が突き立った。
これまで自分を強く支えてくれた親友の元へ。
〝キリハ。僕の言葉に、ルカが反応したのを見たよね?〟
脳内に響くのは、優しくて強い先祖の声。
〝大丈夫。君の声なら絶対に届く。ちょっと手荒いかもしれないけど、引っ叩いてでも起こしてあげなさい。〟
ああ、そうだ。
何を躊躇う。
散々ぶつかり合い、多くのことを共有して乗り越えてきた仲だろう。
今さら怪我の一つや二つで、ルカが怒るわけがないじゃないか。
この絆を―――ルカを信じるのなら、安直な脅しに屈するな。
「こんの……馬鹿ルカーッ!!」
レクトが剣を構える余裕を与えつつ、キリハは大振りに剣を振り下ろす。
「また何も言わずに、一人で動いたぁ!! レクトやジャミルのことは、俺もルカにとやかく言えないけどさ! 何さ、俺には絶対に言うなって! 俺に余計な心労を足したくないって!! アルにはあれこれ無茶振りしていいっての!?」
ふつふつと湧き上がる不満を、剣と共にルカへぶつける。
「レティシアたちを保護した時もさ、シアノと会った時もさ……なんかさぁ、こう……ルカって、俺に過保護じゃない!? 俺、そんなに頼りない!? 見てて心配!? 確かに溜め込み癖はあるかもしれないけど、それでも俺なりにしぶとく生きてきたつもりなんだけどなぁ!!」
「くっ……無駄なことを…っ」
「レクトは黙ってて!!」
口を開きかけたレクトに一喝して、キリハは問答無用で剣を振るう。
「ルカの優しさって、回りくどいし分かりにくい!! でも、俺は何度もそれに救われた!! 今回のことは、感謝してもし足りない。でも……どうせなら、一人で立ち向かうんじゃなくて、俺を殴ってでも目を覚まさせて、一緒に立ち向かってほしかった!! ルカがアルにそう頼んだみたいに!!」
想いを吐き出すほどに、目頭が熱くなる。
ルカがそうできなかった理由を、自分でも分かっているから。
「でも……俺が一生懸命すぎて、周りが見えてなくて……だから、言えなかったんだよね。本当にごめん…っ」
自分が不甲斐なくてたまらない。
自分を守るために、大切な親友にこんなことをさせてしまうなんて。
「次は俺の番。ルカが命を懸けて俺に希望を見せてくれたように……今度は、俺がルカを絶望から引っ張り上げてやる!! ―――ってなわけで、よく聞きなさいよ!!」
そこで、キリハの口調がガラリと変わった。
「あんた、そこで何腑抜けてんのよ!? 人間をぶっ潰してもいいですって!? あんたまさか、どうして今の道に進んだかを忘れたんじゃないでしょうね!?」
突如として女性口調になってしまったキリハ。
それに、ディアラントとユアンがパチパチと目をまたたく。
しかし、そんな外野はそっちのけで、キリハは大声を張り上げる。
「ルカ……あんたは昔、お兄ちゃんのことが大嫌いだったわよね?」
「………っ」
その言葉が放たれた瞬間、ルカの体が再び痙攣した。
そして、ディアラントやユアンも、キリハが誰の言葉を代弁しているのかを悟る。
「いつものほほんとして、何を言われても、何をされても笑って受け流して終わり。そんなお兄ちゃんが気色悪いって、理解できないって、そう言ってた。でも……お兄ちゃんが医大に進むって決めた時、あんたはお兄ちゃんへの認識を改めたわ。」
語るキリハの目尻に、涙が浮かぶ。
昨日の夜中、こっそりと部屋を訪れたカレンから聞いた話。
そこには、今のルカを形作った想いの結晶が詰め込まれていた。
自分の言葉で伝えることも考えたけど、この想いはきっと、彼を一番近くで見てきた彼女の言葉でそのまま伝えた方がいいと思う。
愛する人の言葉はきっと、誰よりも強く彼に響くはずだから。
「自分を散々傷つけてきて、これからも散々傷つけてくる人たちなのに、お兄ちゃんはそんな人たちを無条件に救う道を選んだ。あんたはそのことに驚いて……それと同時に、お兄ちゃんを心から尊敬した。」
「―――っ!!」
ルカの双眸が、大きく見開かれる。
「本当は、お兄ちゃんと同じ道に進みたかった。だけど、自分の性格じゃ……どうしたって医者にはなれない。だから!!」
キリハの声に力がこもる。
「だからあんたは、喧嘩腰でもたくさんの人に救いの手を差し伸べられる、弁護士になろうって決めたんでしょうが!!」
キリハを通して―――カレンの想いが、ルカの魂を揺さぶる。
「そんなあんたが、本気の本気で人を傷つける側に回れると思ってんの!? 血に操られてんだかなんだか知らないけど、いい加減正気に戻りなさいよ! このとんちんかん!!」
「………っ」
レクトの顔が、大きく歪む。
「………、………っ」
唇が震えて。
その震えが全身に及んで。
「この……くそ野郎が!!」
キリハの剣を弾いた彼の剣が―――キリハではなく、自分自身の太ももを深く刺し貫いた。
「うぐぅ…っ!!」
ユアンにつけられた傷とは比べ物にならない痛みに、レクトが苦悶の叫びを上げる。
「お前……何故…っ」
「何故もくそもあるか! 兄さんの仕返しには、これでも足りねぇってんだよ!!」
「―――っ!?」
ルカの発言に、その場の全員が驚愕で息を飲む。
「やれ!! ―――アルシード!!」
その叫びが轟いた瞬間。
プツリ、と。
ルカの首筋に、細い針が突き立った。
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