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第5章 想いと想いの激突
止めたいなら―――
しおりを挟む「なあ……オレも最初に言ったよな? お前は甘すぎるって。」
そう言い放ったルカが、眉をきつく寄せる。
「人間にはな、誰にでも限度ってものがあるんだよ。」
その眦に浮かぶものが、上から差し込む光をきらりと反射した。
「お前の心の広さには感服するよ。オレには無理だ。兄さんを殺されかけた時点でもう……オレは、限界を越えちまったんだよ。」
「ルカ……」
「一体、いつまで耐えればいい? 何をどれだけ見逃してやればいい? オレにはお前ほどの特別な力も、人を簡単に変えられるだけの影響力もないんだ…っ」
「………」
ルカの心の内を聞くキリハは、悲しげに眉を下げるしかなかった。
ルカだって、これまでの二年で自分を大きく変えてくれた。
知恵を絞ることが得意ではない自分に代わって、様々な角度から物事を見て、向こう見ずな自分の行動を正当化してくれた。
お前はお前らしく進め、と。
いつだって彼は、不器用な優しさを通してそう言ってくれていた。
これは、ルカじゃないとできなかったこと。
今回の事件だって、ルカが先を見越して行動を起こしてくれていなかったら、今頃どんな結末を迎えていたことか。
ルカはルカのやり方で、大きな功績を残している。
しかしそれを伝えるには、彼を覆う闇が分厚すぎる。
今自分がそれを伝えたとしても、ルカには皮肉を言われたようにしか思えないだろう。
菫色と赤色の双眸に宿る、こちらへの強い劣等感。
出会った当初を彷彿とさせるそれが、自分にそう示しているように思えた。
ならば、ここで自分が取るべき態度は……
「だから……レクトと一緒に、人間を潰すの?」
ルカのことを否定せずに、ただ彼の感情に寄り添うことだけだ。
真っ黒な自分の気持ちをそのまま聞いてくれた、アルシードのように……
「ああ、そうだよ! それのどこが悪い!?」
感情を爆発させたルカが、渾身の力で叫んだ。
「これが、オレにとって最初で最後のチャンスかもしれねぇんだぞ!? ここであのくそ野郎を見逃して、また蔑まれる毎日に戻るくらいなら……もう一度ドラゴン大戦を起こしてでも、オレの怒りをあいつらにぶつけて、これまでの行いを後悔させてやりたいんだよ!!」
切羽詰まったルカの声。
自分には、もう後がないんだ。
そんな思いが、ひしひしと伝わってくるようだった。
「そっか……そうだよね。それも、一つの選択だね。俺だって、一度はその選択をしかけたんだもん。気持ちは分かるよ。」
ルカが抱いている怒りも、それをぶつけたくなる衝動も、痛いほどに分かる。
今だって、その気持ちが完全に消えたわけじゃない。
一度目を閉じて、じっくりとルカの気持ちを感じ取る。
その上で、ルカとまっすぐ向き合った。
「だけどね、やっぱり俺は、ルカにそんなことをさせたくない。俺だけじゃなくて……カレンやエリクさんも、そう願ってる。」
「―――っ!!」
ルカが誰よりも大切に思っている二人の名前。
それを聞いたルカが、大きく目を見開いて硬直した。
動揺から生まれたその隙を逃さないように、キリハは続けた。
「嘘じゃないよ。俺は、ここに来られなかった二人の想いも背負って、ここに立ってるんだから。」
「………」
再び黙り込んだルカ。
彼は今、何を思っているだろうか。
もしでたらめだと言われたとしても、自分には根気強く語るしかない。
「………そうか。」
長い沈黙。
それを経て、ルカは小さく笑った。
「いかにも、くそ善人の二人が言いそうなことだな。だけど……オレはもう、この気持ちを止められない。」
彼の瞳の奥に渦巻く、どす黒い闇。
予想はしていたが、それはちょっとやそっとじゃ彼を離してくれないようだ。
これは、この後どう説得したものか。
そう悩んでいると、ふいにルカの手が動きを見せた。
「お前、さっき言ったよな? ロイリアに人を傷つけさせるくらいなら、ロイリアを殺してでもロイリアの心を守るって。」
「………っ!!」
そう言われたキリハは、怯えた表情で一歩退く。
一瞬で分かってしまった。
ルカの言動の意味が。
それを肯定するかのように、ルカが腰に下がる剣を抜き払う。
「本気でオレを止めたいと……カレンや兄さんの願いを叶えたいと思うなら―――オレを殺してでも止めてみろ。」
影を帯びた笑みを浮かべるルカ。
まっすぐに突きつけられた冷たい刃に、躊躇いは一切なかった。
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