竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
486 / 598
第4章 絶望から希望へ

〝行こう〟

しおりを挟む
 ディアラントたちとの話し合いの結果、出立は明後日の早朝となった。


 洞窟に向かうのは、ジョーを除くドラゴン殲滅部隊の全員。
 ターニャとジョーは宮殿でモニタリングに勤しみつつ、審問会の対応に注力するとのことだ。


 さらに、現場に向かうメンバーの中でも洞窟に入るのは、キリハ、ユアン、ディアラントの三人に限定された。
 他の皆は、洞窟の外で機材と共に待機である。


 ユアンの話によると、洞窟の中はそこまで広くないので、レクトが身を隠せるようなスペースはない。
 レクトを討伐するための武器も入らないだろうとのことだ。


 おそらく、洞窟の中でレクトが出迎えてくるのだとしたら、ルカの体を借りた状態であるはず。
 今回の自分たちの目的は、そんなレクトからルカを奪還すること。


 ルカをレクトの支配から解放する方法は、ユアンに秘策があるらしい。


 その効果はすでにエリクとシアノで検証済みなので、ルカの動きを十秒ほど止められれば、その秘策を実行できるとのこと。


 ―――ただまあ、おまけの副作用が強力すぎるんだけどね。


 ユアンがぼそっと不穏なことを言っていたが、気にしないことにしよう。


 すでに秘策を講じたというエリクやシアノが元気に過ごしているのだ。
 命に影響するものではあるまい。


 とにかく今は、ルカを取り戻すことだけに集中だ。


「キリハ……」


 地下駐車場で出立の準備を整えていると、ふいに声をかけられる。


 そちらに目を向けると、サーシャとカレンが二人で身を寄せ合い、不安そうな表情でこちらを見つめていた。


 そして、そんな彼女たちを支えるように、二人の肩に手を置くエリクの姿も。


「みんな、見送りに来てくれたんだ。」


「あ、当たり前でしょ? どこかの誰かさんったら、せっかくできたガールフレンドに全然会いに来ないんだもん。」


「カレンちゃん!」


 直球なカレンの物言いに、サーシャが途端に慌てふためく。


「あ、あはは…。ごめん。ここ最近、誰かと打ち合わせをしてるか、ほむらに馴染み直してるかのどっちかだったから……」


「ううん、いいの! 今は、キリハが大事に思うことを優先して。私は、そのために頑張ったんだから。」


 変に気を遣わせまいとしているのか、カレンの発言をごまかすように両手を振るサーシャ。
 そんな彼女の髪に、キリハは優しく指を通す。


「サーシャのことだって大事だよ。」
「!!」


 キリハが微笑むと、サーシャの顔が一気に赤く染まる。


「本当は、もっと話したいことや聞きたいことがあるんだ。その時間を作るためにも、早く終わらせて戻ってくる。だから、俺を信じて待ってて。」


「は……はい……」


 振っていた両手を組んだサーシャは、倒れるようにカレンへともたれかかる。


「ちょっと、キリハ。この子免疫ないんだから、本気の王子様モードは手加減してあげてよ。」


「え? 王子様モードって?」


「あ、ごめん。とっさに言ったけど、キリハが分かるわけないわ。これまでも、サーシャにだけは無自覚王子様だったしなぁー。」


「………?」


 首をひねるキリハに、カレンは重たげな息を一つ。


「とりあえずその宣言どおり、ちゃんと帰ってきなよ? このウサギちゃんは、キリハがいないと寂しくて死んじゃうんだからね?」


「カレンちゃん! キリハを困らせることを言わないでーっ!!」


「だめだって! サーシャの分っかりやす~い恋心をきちんと認識するのに二年もかかったこの鈍感には、はっきりと言っておかなきゃ。」


「だとしても、今はだめーっ!!」


 目を回してパニックになるサーシャが、なんと可愛いことか。
 キリハやエリクだけではなく、通りがかった人々もほっこりである。


「カレン。カレンも俺を信じててね。ちゃんと、ルカを連れて帰ってくるから。」


 カレンがサーシャを使って場をなごませようとしているのは明らか。
 そうすることで、自分の気持ちをうやむやにしようとしていることも。


「ほらね。キリハ君には、すぐにばれちゃうって。」
「……うん。」


 一瞬反応に困ったカレンだったが、キリハの純粋な眼差しとエリクの促しに負けて肩を落とす。


「本当は、あたしが直接ひっぱたいて正気に戻してやりたいところだけど……」


 そう呟いた彼女の目尻に、光るものが浮かぶ。
 しかしそれが頬を伝う前に目元を拭ったカレンは、穏やかな笑顔でキリハを見つめた。


「今回は、キリハに譲ってあげる。あたしの分まで、ルカに説教をしてやって。キリハの声なら、あの馬鹿にも届くはずだから。」


「うん。昨日聞いたこと、ちゃんとルカに伝えてくるよ。帰ってきたら真っ先にカレンに引き渡すから、楽しみはその時まで取っておいて。」


「まったくよ! どんだけ疲れてようと、説教は説教よ。一晩は寝かせてやんないんだから!」


「その後は僕とシアノ君がうんと構うだろうから……ルカ、しばらく寝る暇もないかもね。」


 やる気満々のカレンに乗っかり、エリクが冗談混じりにそんなことを言った。
 最後にサーシャを含めて皆で笑い、キリハは後ろを振り仰ぐ。


 そこでは、準備を終えた皆がスタンバイ状態。
 その筆頭にいるフールとディアラントが、穏やかながらも力強い雰囲気で自分を待っている。




「―――行こう!!」




 最後の戦いに向けて。
 キリハは躊躇ためらうことなく地面を蹴った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...