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第4章 絶望から希望へ
国を変える刃
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あれから、久しぶりにたくさんの人たちと話した。
ディア兄ちゃんの恋人って、ターニャだったの?
言葉を濁すも変なので直球で訊ねると、二人は思い切り赤面。
どうして二人がこんなにあたふたとするのか分からないまま答えを待っていると、やがて二人は事細かな事情を教えてくれた。
そもそもディアラントが総督部に目をつけられたきっかけは、たまたま出会ったターニャに、彼が手を差し伸べたこと。
これは以前に聞いていたことと変わらない。
当時は互いに、友人としてひっそりと交流を重ねていただけだった二人。
しかし、どんな形であれ竜使いであるターニャに味方がつくことを煙たがった総督部が、ディアラントを留学という名目で国外に追いやろうとしたそうだ。
それに反発したところ理不尽に軍事会議にかけられ、素直に半永久的に国外に出るか、セレニアの社会から追放されるかを迫られた。
そこでランドルフから持ちかけられた契約を買った結果、彼の絶妙な言いくるめとターニャの決断により、特例を適用してのドラゴン殲滅部隊隊長への就任が決まったという。
これはディアラントどころか、ターニャにだって一切の非がない。
出会った人と仲良くしただけで追放なんて、ただの横暴じゃないか。
真相を知ったら、余計に総督部が嫌いになった。
静かに怒りを燃やす自分に、ディアラントはあっけらかんと笑うだけ。
『いやいや、よく考えてみろって。一番死ぬ確率が高いとはいえ、オレをターニャの直属部隊にやった時点で総督部の負けー♪ しかもその後、軍事大学でも別格だった〝覇王〟と〝君子〟が揃って幹部入りだぜ? どう考えたって最強だろ? 普通ならその時に全力で潰されてもおかしくなかったけど、そこはランドルフ上官とジョー先輩が怪しく動いてくれたおかげで、事なきを得たってわけさ。』
おそらくは、ジョーをスパイとして送り込んだというランドルフの言葉に騙されて、それならいつでも寝首を掻けると余裕をかましたのだろう。
ロイリアの一件では背水の陣にまで追い込まれたものの、ジョーとサーシャの活躍により難は逃れた。
その結果、状況は一気にこちらへと傾いたと言ってもいい。
自分たちを潰せる最大のチャンスを活かさなかった。
その時点で、ジョーが総督部のスパイじゃないことは明らか。
そして、そんなジョーの暗躍を隠すためにケンゼルやオークスが審問会で矢面に立てば、これまでは中立だったこの二人も、実質的にターニャ側に回ったのだと認識される。
あえて政治には深く介入せず、総督部が統括する国防軍とも距離を置いていた情報部と研究部だ。
それぞれ独自かつ巨大なネットワークを持っている彼らを排斥するのは、総督部といえども一朝一夕にとはいかないだろう。
審問会が終わればランドルフに疑惑と非難が集まるのは必至だが、あの魔王様はその展開すらも折り込んで策を講じているはずだ。
それに元々、ドラゴン討伐が終わってターニャに大きな武勲があがると同時に、本格的に政治戦争を仕掛けるつもりでいたのだ。
きっかけは少々急だったが、ロイリアを救った功績は、総督部の牙城を崩す起爆剤には持ってこいである。
多大な危険を伴いながらドラゴンを殺すのではなく、治療によってドラゴンを安全に沈静化できるのだとしたら。
大抵の国民は竜使いへの偏見など放り捨てて、己の安全を確実に保証してくれる勢力を支持するのでは?
仕上げにウインクを飛ばしてほくそ笑みを浮かべたディアラントに、自分は何も言えなくなってしまった。
普段のバカさ加減はどこへ消えたのだろう。
能ある鷹は爪を隠すとはよく言うものの、ジョーを隠れ蓑にしていただけで、師匠も十分に頭が切れるじゃないか。
表で大々的に活躍して、国内外に堂々と味方を作ってきたディアラント。
そんな彼の陰で、水面下のパスを広げてきたジョー。
そして、この二人を最前線に据えるよりもずっと前から、人知れず準備を進めていたというランドルフやターニャ。
何年もかけて構築された勢力は、国を変えるための刃に成長したわけだ。
あまりにも壮大かつ複雑な話に、自分は目を回しそうになってしまった。
ここまで念入りに研ぎ澄ませてきた刃を、ドラゴン大戦の再来なんて事態で折られたらたまらない。
エリクやシアノの証言も得られたことで、皆の総意はもはや揺るぎないものとなった。
そして、自分も……
「―――ユアン。」
全ての決着をつけるためのドアを開く―――
ディア兄ちゃんの恋人って、ターニャだったの?
言葉を濁すも変なので直球で訊ねると、二人は思い切り赤面。
どうして二人がこんなにあたふたとするのか分からないまま答えを待っていると、やがて二人は事細かな事情を教えてくれた。
そもそもディアラントが総督部に目をつけられたきっかけは、たまたま出会ったターニャに、彼が手を差し伸べたこと。
これは以前に聞いていたことと変わらない。
当時は互いに、友人としてひっそりと交流を重ねていただけだった二人。
しかし、どんな形であれ竜使いであるターニャに味方がつくことを煙たがった総督部が、ディアラントを留学という名目で国外に追いやろうとしたそうだ。
それに反発したところ理不尽に軍事会議にかけられ、素直に半永久的に国外に出るか、セレニアの社会から追放されるかを迫られた。
そこでランドルフから持ちかけられた契約を買った結果、彼の絶妙な言いくるめとターニャの決断により、特例を適用してのドラゴン殲滅部隊隊長への就任が決まったという。
これはディアラントどころか、ターニャにだって一切の非がない。
出会った人と仲良くしただけで追放なんて、ただの横暴じゃないか。
真相を知ったら、余計に総督部が嫌いになった。
静かに怒りを燃やす自分に、ディアラントはあっけらかんと笑うだけ。
『いやいや、よく考えてみろって。一番死ぬ確率が高いとはいえ、オレをターニャの直属部隊にやった時点で総督部の負けー♪ しかもその後、軍事大学でも別格だった〝覇王〟と〝君子〟が揃って幹部入りだぜ? どう考えたって最強だろ? 普通ならその時に全力で潰されてもおかしくなかったけど、そこはランドルフ上官とジョー先輩が怪しく動いてくれたおかげで、事なきを得たってわけさ。』
おそらくは、ジョーをスパイとして送り込んだというランドルフの言葉に騙されて、それならいつでも寝首を掻けると余裕をかましたのだろう。
ロイリアの一件では背水の陣にまで追い込まれたものの、ジョーとサーシャの活躍により難は逃れた。
その結果、状況は一気にこちらへと傾いたと言ってもいい。
自分たちを潰せる最大のチャンスを活かさなかった。
その時点で、ジョーが総督部のスパイじゃないことは明らか。
そして、そんなジョーの暗躍を隠すためにケンゼルやオークスが審問会で矢面に立てば、これまでは中立だったこの二人も、実質的にターニャ側に回ったのだと認識される。
あえて政治には深く介入せず、総督部が統括する国防軍とも距離を置いていた情報部と研究部だ。
それぞれ独自かつ巨大なネットワークを持っている彼らを排斥するのは、総督部といえども一朝一夕にとはいかないだろう。
審問会が終わればランドルフに疑惑と非難が集まるのは必至だが、あの魔王様はその展開すらも折り込んで策を講じているはずだ。
それに元々、ドラゴン討伐が終わってターニャに大きな武勲があがると同時に、本格的に政治戦争を仕掛けるつもりでいたのだ。
きっかけは少々急だったが、ロイリアを救った功績は、総督部の牙城を崩す起爆剤には持ってこいである。
多大な危険を伴いながらドラゴンを殺すのではなく、治療によってドラゴンを安全に沈静化できるのだとしたら。
大抵の国民は竜使いへの偏見など放り捨てて、己の安全を確実に保証してくれる勢力を支持するのでは?
仕上げにウインクを飛ばしてほくそ笑みを浮かべたディアラントに、自分は何も言えなくなってしまった。
普段のバカさ加減はどこへ消えたのだろう。
能ある鷹は爪を隠すとはよく言うものの、ジョーを隠れ蓑にしていただけで、師匠も十分に頭が切れるじゃないか。
表で大々的に活躍して、国内外に堂々と味方を作ってきたディアラント。
そんな彼の陰で、水面下のパスを広げてきたジョー。
そして、この二人を最前線に据えるよりもずっと前から、人知れず準備を進めていたというランドルフやターニャ。
何年もかけて構築された勢力は、国を変えるための刃に成長したわけだ。
あまりにも壮大かつ複雑な話に、自分は目を回しそうになってしまった。
ここまで念入りに研ぎ澄ませてきた刃を、ドラゴン大戦の再来なんて事態で折られたらたまらない。
エリクやシアノの証言も得られたことで、皆の総意はもはや揺るぎないものとなった。
そして、自分も……
「―――ユアン。」
全ての決着をつけるためのドアを開く―――
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