479 / 598
第4章 絶望から希望へ
まだ、希望は―――
しおりを挟む「ルカ…っ」
ジョーの携帯電話を握り締めて、キリハは何度目かも分からない涙を流す。
ルカがレクトの血を飲んだ理由は、仕返しのためなんかじゃなかった。
最初から全部、自分を助けるためだった。
衝突から始まった、ルカとの縁。
それはこの二年半で、ここまで強くて優しい絆に変化していたのだ。
こんなにも嬉しいことがあるだろうか……
「その原点を考えるなら、エリクを殺されかけた恨みが生まれたからといって、ルカ君があそこまで非道な手段に出るとは思えないね。今のあの子なら、エリクが助かった時点で理性的に飲み込めたはずだ。」
泣き伏すキリハを見つめながら、ジョーはそう語る。
「じゃあ、どうして……」
「認めたくない?」
怪訝そうに眉を寄せるキリハに対し、ジョーは険しい表情。
「どう考えたって、レクトが血の力を使って、ルカ君の怒りと憎しみを暴走させてるとしか思えないでしょ。」
ほぼ断定に近い彼の意見。
それをすぐに受け入れることはできなかった。
「そんな……」
「ありえない話じゃない。表層意識を乗っ取れるなら、深層意識を操作することだってできる可能性は十分にある。黙秘は決して否定じゃないんだ。頭が切れる奴なら、そんな便利な能力を他人に言うわけがないよ。」
「でも、あくまでも可能性の話でしょ?」
「どうだか。」
ジョーは冷たく、そうとだけ。
「元々ルカ君は、周りに対して好意的じゃないんだ。その隙を突いて便利に使うのは簡単なはずだよ。そしてルカ君を引き込めれば、キリハ君が闇に転ぼうと光に転ぼうと、キリハ君の苦しみを通してユアンを苦しめられる。だからシアノ君やエリクを使って、ジャミルにキリハ君を襲わせた……―――そうだよね、ミゲル?」
切れるように鋭いジョーの瞳が、ミゲルを捉える。
肩を痙攣させたミゲルは、少しの間を置いて息を吐き出した。
「お前には敵わねぇな。いつの間に知ってたんだか。」
その言葉は、実質的にジョーの指摘を認めたものだった。
「まあ、病院で暇してる間にジャミルの供述書は全部読んだし、そもそも僕は最初から、レクトが人間と和解する気がないことも知ってたし?」
「じゃあ、なんでわざわざおれに確認を取ったんだよ……」
「鎌かけただけ。この状況でユアンが使うとしたら、ミゲルの可能性が高いでしょ。実際にやたらとエリクのところに通ってたし、そろそろエリクやシアノ君からも言質が取れた頃かと思って。」
「……全部正解だよ。正直、いつキー坊に伝えるか悩んでたから、お前が空気を読まずに突っ込んでくれて助かったわ。」
降参だ。
そう示すように、ミゲルが諸手を挙げた。
「じゃあ……本当に、これは全部レクトが……」
「全部が全部って言えねぇのが、性質悪いとこでな。」
顔面を蒼白にして呟くキリハに、ミゲルは複雑そうな表情。
「ジャミルがキー坊の目を欲しがっていたことに、レクトは関係ねぇ。あいつは奴にシアノやエリクを送り込んで、奴の計画にちょっと協力してやっただけなんだと。ただ……エリクの暗号にあった〝もう一人の自分〟ってのがレクトなのは、間違いねぇよ。」
「………っ」
「キリハ君。残酷なことを言うようだけど、これが現実だよ。」
大きく顔を歪めたキリハに、ジョーがとどめとなる言葉を突きつける。
「本当はキリハ君も、レクトに不信感を持ってるはずだよね? どうして自分の体を使って、ロイリアにこんなことをしたのかって。」
そんなことを言われたら、もう言い逃れなんてできなくて……
「―――――うん……」
がっくりとうなだれて、キリハは小さく頷いた。
そうだ。
いい加減、もう認めなければいけない。
ジャミルの事件の後から、レクトはこちらの呼びかけに一切応えなくなった。
そして、ユアンが《焔乱舞》を暴走させた自分を助けに来てくれたのに対して、レクトは声をかけることもしなかった。
その時点で、何かがおかしいとは思っていただろう?
そしてその疑念は、レクトが自分の体を使ってロイリアを傷つけた時に、確信に変わってしまったはずだ。
自分とレクトはもう、同じ世界を見ることはできないんだと……
「ごめんね。」
うつむいて動かなくなったキリハに、ジョーがこれまでの口調を一転させる。
「知ってたんなら、最初から教えろって話だよね。」
「……ううん。」
ジョーの声にこもる罪悪感を、キリハは首を振って否定する。
「レクトを信じるなって話なら、ユアンから散々されてたんだ。どうせあの時の俺は、誰に何を言われたって聞かなかったよ。それに、レクトが協力しなくたって……あの人はいつか、俺を殺そうとしたわけでしょ?」
「……だろうね。」
一瞬だけ躊躇いながらも、ジョーは取り繕うことなくシンプルに答える。
相手のことを考えるなら、下手な情けはかけるべきじゃない。
彼らしい優しさと共に、この現実を胸に刻み込んだ。
「―――でも。」
キリハは顔を上げる。
「結果論かもしれないけど、まだ誰も死んでない。絶望と同じだけの奇跡が起きたんだ。まだ―――希望は、繋がってるよね?」
サーシャが見せてくれた、小さな光。
それはアルシードの力も伴って何倍にも増幅されて、自分に道を示してくれている。
ならば自分は、周りの皆を信じてその道を突き進むだけ。
ここまでお膳立てをしてもらったんだ。
望む未来を手繰り寄せるのは、簡単なはずだ。
「ああ、もちろん。」
ジョーが微笑み、サーシャが何度も頷く。
ディアラントやターニャも、ミゲルたちだって、その瞳に強い光を宿している。
きっと大丈夫。
絶対に大丈夫。
もう一度《焔乱舞》を掴んだからには―――今度こそ立ち上がって、前に進もう。
「やっぱり、キリハ君はそうでなくちゃ。」
「うん、そうだね。」
ジョーにそう言われて、キリハは無邪気に笑う。
一度は闇のどん底に落ちて。
悪足掻きのように白と黒の境界線をさまよって。
そしてようやく―――光へと踏み込むことができた瞬間だった。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
世界の十字路
時雨青葉
ファンタジー
転校生のとある言葉から、日常は非日常に変わっていく―――
ある時から謎の夢に悩まされるようになった実。
覚えているのは、目が覚める前に響く「だめだ!!」という父親の声だけ。
自分の見ている夢は、一体何を示しているのか?
思い悩む中、悪夢は確実に現実を浸食していき―――
「お前は、確実に向こうの人間だよ。」
転校生が告げた言葉の意味は?
異世界転移系ファンタジー、堂々開幕!!
※鬱々としすぎているわけではありませんが、少しばかりダーク寄りな内容となりますので、ご了承のうえお読みください。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~
次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」
前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。
軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。
しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!?
雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける!
登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。
魔術学院の最強剣士 〜初級魔術すら使えない無能と蔑まれましたが、剣を使えば世界最強なので問題ありません。というか既に世界を一つ救っています〜
八又ナガト
ファンタジー
魔術師としての実力で全ての地位が決まる世界で、才能がなく落ちこぼれとして扱われていたルーク。
しかしルークは異世界に召喚されたことをきっかけに、自らに剣士としての才能があることを知り、修練の末に人類最強の力を手に入れる。
魔王討伐後、契約に従い元の世界に帰還したルーク。
そこで彼はAランク魔物を棒切れ一つで両断したり、国内最強のSランク冒険者から師事されたり、騎士団相手に剣一つで無双したりなど、数々の名声を上げていく。
かつて落ちこぼれと蔑まれたルークは、その圧倒的な実力で最下層から成り上がっていく。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
元最強魔剣士に転生しちゃった。~仇を追って旅に出る~
飛燕 つばさ
ファンタジー
かつて大陸最強の魔剣士隊長と呼ばれたジンディオールは、裏切り者のフレイによって能力を奪われ、命を落とした。
しかし、彼の肉体は女神エルルの手によって蘇生された。そして、日本のサラリーマンだった風吹迅がその肉体に宿ったのである。
迅は、ジンディオールの名と意志を継ぎ、フレイへの復讐を誓う。
女神の加護で、彼は次々と驚異的な能力を手に入れる。剣術、異能、そして…。
彼は、大陸を揺るがす冒険に身を投じる。
果たして、ジンはフレイに辿り着けるのか?そして、彼の前に現れる数々の敵や仲間との出会いは、彼の運命をどう変えていくのか?魔剣士の復讐譚、ここに開幕!
鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~
月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。
目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。
「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」
突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。
和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。
訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。
「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」
だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!?
================================================
一巻発売中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる