竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
466 / 598
第2章 崩壊までのカウントダウン

近づく別れ

しおりを挟む
 この数日、腐るほど考えた。


 闇に落ちていきそうだった心に、ギリギリのところで何度も逆らった。
 でもそれは明確な答えではなくて、選択する時を先延ばしにするための悪足掻き。


 自分がもし、早々に決断できていたら。


 ルカやレクトにいち早く寄り添って、彼らを説得できていただろうか。
 そうしたら、ロイリアが壊れそうになることもなかっただろうか。


 ただ、そうしていたら、アルシードの本当の姿やサーシャの気持ちを知ることはなかったかもしれない。


 そう思うと、闇の中で停滞した時間も大切だったんだと感じるから複雑だ。


 失ったものも、得たものも大きい。
 紆余うよ曲折を経た今、はっきりしていることは一つだけ。


 どんなに周りが真っ暗だとしても、自分は光を掴んでいたい。
 光となるこの信念だけは、絶対に変えたくない。


 なら、自分はそのために何をするべきなのだろうか……


「ロイリア……」


 久しぶりに空軍施設跡地に足を踏み入れたキリハは、切ない気持ちで胸を握り締めた。


 ぐったりと地面に横たわるロイリア。
 その全身には重たげな鎖が幾重いくえにも巻かれていて、太い杭が鎖を地面に固定している。


 レクトの血によって、ロイリアが倒れてから一週間ばかり。


 基本的には薬で眠らせているものの、時おり苦しんで暴れ出すことがあり、鎖の数を増やすしかなかったそうだ。


 それはまさに、以前オークスに見せてもらった資料と同じ光景。


 ドラゴンに友好的な国でさえこういう対処を取らざるを得ないと聞いていたが、実際に目にすると心が痛い。


「うー……キリハ…?」


 近くに膝をついて首筋をなでると、ロイリアが弱々しい声をあげた。


「うん。大丈夫? どこか痛いところない?」
「だい……じょうぶ……」


 気丈にそう言うロイリアだが、すぐに目を閉じてうなってしまう。
 そんな姿を見ていると、彼がいかに壮絶な苦しみに耐えているのかを知らしめられるようだった。


「ごめんね。俺のせいで……」
「ううん。違うよ。」


 自分の謝罪は、すぐさま否定されてしまう。


「キリハのせいじゃない。キリハのせいにならないように……ぼく、頑張って治すよ……」


 それを聞いたキリハは、眉を下げる。


 純粋で前向きなロイリアの言葉。
 ちょっと前までなら、自分も同意して励ませたと思う。


 だけど……


『三百年前も、リュードや竜使いの子たちと散々手を尽くしたんだ。でも……レクトの血からのがれられた子は、いなかった。』


 ユアンの言葉が、心に重いおりを落とす。


 ロイリアはもう、殺すことでしか救えない。
 それが抗いようもない結末なら、彼を助けようと延命処置に苦心するのは、正しい判断なのだろうか。


 ここで散々苦しみを引き伸ばして、討伐でさらなる苦しみを与える。
 それで、ロイリアは本当に救われるだろうか。


 それならいっそのこと、浄化の炎で一瞬の内に終わらせてあげた方がいいのでは…?




 ―――チリッ……




「―――っ」


 脳裏にひらめく赤い色。
 それに、ぞっと背筋が凍りついた。


 今の一瞬で分かってしまった。


 《焔乱舞》が己の役目を果たすために、自分の思いに応えようとしている。
 今呼べば、あの剣は簡単にこの手に舞い戻ってくる。




 ―――ロイリアは、




(どうしよう……どうすれば……)


 嫌だ。


 呼べない。
 呼びたくない。


 まだ、ロイリアと別れたくない……


「大丈夫…。きっと治るよ…。お兄ちゃんが、治してくれるから……」


 自分を気遣って、ただ〝大丈夫〟と言ってくれるロイリア。
 それに何も答えられず、震える体で彼を抱き締めるしかなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界召喚されました……断る!

K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】 【第2巻 令和3年 8月25日】 【書籍化 令和3年 3月25日】 会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』 ※ステータスの毎回表記は序盤のみです。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

もふもふ相棒と異世界で新生活!! 神の愛し子? そんなことは知りません!!

ありぽん
ファンタジー
[第3回次世代ファンタジーカップエントリー] 特別賞受賞 書籍化決定!! 応援くださった皆様、ありがとうございます!! 望月奏(中学1年生)は、ある日車に撥ねられそうになっていた子犬を庇い、命を落としてしまう。 そして気づけば奏の前には白く輝く玉がふわふわと浮いていて。光り輝く玉は何と神様。 神様によれば、今回奏が死んだのは、神様のせいだったらしく。 そこで奏は神様のお詫びとして、新しい世界で生きることに。 これは自分では規格外ではないと思っている奏が、規格外の力でもふもふ相棒と、 たくさんのもふもふ達と楽しく幸せに暮らす物語。

処理中です...