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第1章 闇の中に光るもの
たった一人の夜
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とにもかくにも、まずはターニャへの報告とロイリアへの初期対応が必要だろう。
ジョーの冷静な一言で、その場に駆けつけた皆が我に返った。
とはいえその時には、フールから緊急事態の概要を聞いたターニャがランドルフと連携を取り、先んじて動き出している頃。
ランドルフが総督部の目をごまかしている間に、ターニャが秘密裏にルルアへと緊急要請を送る。
そしてターニャから話を聞いたノアは、ものの数十分でドラゴンに関する研究資料を送ってくれたそうだ。
とはいえ、ドラゴンが知性を失い暴れてしまう偶発性脳機能障害は、ドラゴン研究が進んでいるルルアでも資料が少ない。
その治療法も確立されていないのが実情だという。
受け取った資料を基に、オークスを筆頭にした研究部が改善策の模索を早急に進める。
ケンゼルも情報部に舞い戻り、この件が総督部と民衆に漏れないよう、最善を尽くしてくれることになった。
そして一番重要なロイリアは、今は深い眠りについている。
いつ暴れ出すかも分からない以上、意識を覚醒状態にしておくのは危険だ。
脱走を防止するために再び鎖に繋がざるを得ないが、可能な限り眠らせておけば、しばらくは体調不良と言ってごまかせるだろう。
ターニャたちがルルアとのやり取りに忙殺され、他の皆も突然のことに狼狽する中、ジョーが普段と変わらない調子でそう進言したからだ。
それを受けてディアラントが周囲に指示を飛ばし、ミゲルやアイロスたちが慌ただしく動き回る。
目覚めたばかりで思うように体を動かせないジョーはその間、咽び泣くキリハの頭をずっとなでていた。
そして、その夜。
「………」
久しぶりに戻った宮殿本部の自室で、ベッドに座るキリハは無為に時間を過ごしていた。
なんだかもう、色んな事が休みなしに起こりすぎて、自分が何をどうすればいいのか分からない。
理性と感情を上手く切り離せない自分には、ここで冷静な判断を下して的確な行動を取ることなんてできない。
(誰か……誰か、助けてよ……)
心がそう叫んでいるけど、現実はあまりにも非情だ。
親友であるルカは、あれから宮殿や実家に帰ることもなく、どこかへと身を隠してしまった。
ジョーができうる限りの捜索をしてくれたが、携帯電話や車は空軍施設跡地に投げ捨てられており、彼の行方を追える手段は完璧に消されていた。
ジョーの証言から特定されたレクトたちの住処も、すでにもぬけの殻だったという。
あまりにも早すぎる失踪。
それが、この一件が計画的なものであることを物語っていた。
明日以降も捜索が続けられる予定だが、ルカがレクトと行動を共にしているのなら、セレニア山脈の西側に撤退している可能性も少なくない。
もしそうであれば、ルカやレクトが自ら姿を現さない限り、彼らを発見することは厳しいだろう。
自分が考えに詰まった時は、いつもルカが切り口を示してくれた。
そんな彼のアドバイスがないことが、こんなにもつらいことだったなんて。
ぶっきらぼうなあの優しさがどれだけ大事で、彼の存在に自分がどれだけ頼っていたかが、この一件で浮き彫りになった。
背中を預かってくれと言ったのはルカだけど、実際に背中を預けていたのは自分の方だったようだ。
そして、今の自分に一番近くて、この心をありのまま受け止めてくれるジョーも、ここにはいない。
当たり前だ。
彼は三日の昏睡から目覚めたばかりで、本格的に動くにはまだ無理がある。
再び病院へと戻されることになった彼と共にいることは、残念ながら許可されなかった。
自分もジョーも、ルカとレクトから危険な交渉を持ちかけられている。
その交渉に心を揺さぶられている自分たちは、ルカの後を追って人間の敵に回る可能性が高い要注意人物なのだ。
そんな二人を共にいさせて、共感が共謀に発展するのは阻止しなければならない。
自分にもジョーにも二十四時間体制の監視がつくことになり、この事件が解決するまでは接触を固く禁じられた。
これも、あなた方二人に過ちを犯させないため。
仲間であるあなた方を守りたいが故の致し方ない措置なのだと、どうか理解してほしい。
ジョーと離れることを嫌がった自分に、ターニャもディアラントも真摯に頭を下げてきた。
それに〝うん〟とは頷けないまま、結局今に至っている。
さらにユアンとも、あれから会っていない。
話を聞くに、中身だけでレクトたちを捜し回っているそうだ。
頼れる人が誰もいない。
たった一人で過ごす夜は、あまりにも苦しかった。
ジョーの冷静な一言で、その場に駆けつけた皆が我に返った。
とはいえその時には、フールから緊急事態の概要を聞いたターニャがランドルフと連携を取り、先んじて動き出している頃。
ランドルフが総督部の目をごまかしている間に、ターニャが秘密裏にルルアへと緊急要請を送る。
そしてターニャから話を聞いたノアは、ものの数十分でドラゴンに関する研究資料を送ってくれたそうだ。
とはいえ、ドラゴンが知性を失い暴れてしまう偶発性脳機能障害は、ドラゴン研究が進んでいるルルアでも資料が少ない。
その治療法も確立されていないのが実情だという。
受け取った資料を基に、オークスを筆頭にした研究部が改善策の模索を早急に進める。
ケンゼルも情報部に舞い戻り、この件が総督部と民衆に漏れないよう、最善を尽くしてくれることになった。
そして一番重要なロイリアは、今は深い眠りについている。
いつ暴れ出すかも分からない以上、意識を覚醒状態にしておくのは危険だ。
脱走を防止するために再び鎖に繋がざるを得ないが、可能な限り眠らせておけば、しばらくは体調不良と言ってごまかせるだろう。
ターニャたちがルルアとのやり取りに忙殺され、他の皆も突然のことに狼狽する中、ジョーが普段と変わらない調子でそう進言したからだ。
それを受けてディアラントが周囲に指示を飛ばし、ミゲルやアイロスたちが慌ただしく動き回る。
目覚めたばかりで思うように体を動かせないジョーはその間、咽び泣くキリハの頭をずっとなでていた。
そして、その夜。
「………」
久しぶりに戻った宮殿本部の自室で、ベッドに座るキリハは無為に時間を過ごしていた。
なんだかもう、色んな事が休みなしに起こりすぎて、自分が何をどうすればいいのか分からない。
理性と感情を上手く切り離せない自分には、ここで冷静な判断を下して的確な行動を取ることなんてできない。
(誰か……誰か、助けてよ……)
心がそう叫んでいるけど、現実はあまりにも非情だ。
親友であるルカは、あれから宮殿や実家に帰ることもなく、どこかへと身を隠してしまった。
ジョーができうる限りの捜索をしてくれたが、携帯電話や車は空軍施設跡地に投げ捨てられており、彼の行方を追える手段は完璧に消されていた。
ジョーの証言から特定されたレクトたちの住処も、すでにもぬけの殻だったという。
あまりにも早すぎる失踪。
それが、この一件が計画的なものであることを物語っていた。
明日以降も捜索が続けられる予定だが、ルカがレクトと行動を共にしているのなら、セレニア山脈の西側に撤退している可能性も少なくない。
もしそうであれば、ルカやレクトが自ら姿を現さない限り、彼らを発見することは厳しいだろう。
自分が考えに詰まった時は、いつもルカが切り口を示してくれた。
そんな彼のアドバイスがないことが、こんなにもつらいことだったなんて。
ぶっきらぼうなあの優しさがどれだけ大事で、彼の存在に自分がどれだけ頼っていたかが、この一件で浮き彫りになった。
背中を預かってくれと言ったのはルカだけど、実際に背中を預けていたのは自分の方だったようだ。
そして、今の自分に一番近くて、この心をありのまま受け止めてくれるジョーも、ここにはいない。
当たり前だ。
彼は三日の昏睡から目覚めたばかりで、本格的に動くにはまだ無理がある。
再び病院へと戻されることになった彼と共にいることは、残念ながら許可されなかった。
自分もジョーも、ルカとレクトから危険な交渉を持ちかけられている。
その交渉に心を揺さぶられている自分たちは、ルカの後を追って人間の敵に回る可能性が高い要注意人物なのだ。
そんな二人を共にいさせて、共感が共謀に発展するのは阻止しなければならない。
自分にもジョーにも二十四時間体制の監視がつくことになり、この事件が解決するまでは接触を固く禁じられた。
これも、あなた方二人に過ちを犯させないため。
仲間であるあなた方を守りたいが故の致し方ない措置なのだと、どうか理解してほしい。
ジョーと離れることを嫌がった自分に、ターニャもディアラントも真摯に頭を下げてきた。
それに〝うん〟とは頷けないまま、結局今に至っている。
さらにユアンとも、あれから会っていない。
話を聞くに、中身だけでレクトたちを捜し回っているそうだ。
頼れる人が誰もいない。
たった一人で過ごす夜は、あまりにも苦しかった。
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