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第1章 闇の中に光るもの
ロイリアを救う手立て
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ロイリアが壊れてしまう。
キリハからとんでもない話を聞いたディアラントが茫然とする隣で、ミゲルの携帯電話が震えた。
相手はターニャ。
彼女に急いで電話をかけさせたフールは、焦った様子でルカの居場所をミゲルに訊ねた。
ルカは今、病院にいない。
数時間前に、キリハを連れてどこかへ行った。
そう証言したのは、エリクを支えていた彼女。
それを受けてディアラントがキリハにルカのことを訊ねるも、キリハはまともな答えを寄越せる状況じゃなかった。
ミゲルとディアラントからの報告を聞いたフールは―――
「キリハ!! ロイリア!!」
邪魔な入れ物を脱ぎ捨てて、中身だけで彼らの元へと駆けつけていた。
「ユアン……どうしよう…っ」
ぽろぽろと大粒の涙を流すキリハは、携帯電話も投げ捨てて地面に座り込んでいた。
「どうしたの? 一体何が……」
「俺が……俺が……」
もはやユアンにすがりつく気力もないキリハは、涙を拭いながら嗚咽を零すばかり。
「違うわよ。」
そこで口を開いたのは、ロイリアの傍に寄り添うレティシアだ。
「やったのは、キリハじゃなくてレクトよ。ルカと示し合わせたタイミングで……ロイリアに、自分の血を打ち込んでいったわ。」
「―――っ!?」
それを聞いたユアンは、ざっと顔を青ざめさせる。
レクトの血を与えられた。
ドラゴンの場合、それは死にも等しい最悪の事態だ。
「ユアン……何か、方法はないの? レクトの血を取り込んでも、壊れずに済む方法って……」
震える声で訊ねるキリハ。
しかし。
「………っ」
ユアンは、ふるふると首を振った。
「分からない……ないと言ってもいいかもしれない…。そんな方法を見つけられたなら……ドラゴン大戦は、あそこまでひどくならなかった。」
苦悩に満ちた声が、彼の口から漏れる。
「三百年前も、リュードや竜使いの子たちと散々手を尽くしたんだ。でも……レクトの血から逃れられた子は、いなかった。」
「そんな…っ」
大きく顔を歪めるキリハ。
「じゃあ……―――ロイリアは、もう殺すことでしか救えないの…?」
絶望一色の問いかけ。
それに明確な答えを告げられないユアンは、奥歯を噛み締めて顔を逸らした。
しかしその表情を見ていれば、誰だって想像はつく。
答えは〝イエス〟であると。
「う…っ」
キリハの両目から、新たな涙が零れ落ちる。
「―――っ」
その時、レティシアが勢いよく立ち上がった。
「レティシア! だめだ!!」
いち早く彼女の心境を察したユアンが、必死に彼女へと言い募る。
「ここで君がレクトを捜しに行ったら、ターニャたちの管理体制に難癖をつけられる! ようやく積み上がってきた君たちへの信用もがた落ちだ!! それこそレクトの思う壺だよ!!」
「分かってるわよ!!」
ユアンの叫びを掻き消す勢いで、レティシアが悲痛な声をあげる。
「分かってるわよ…っ。どうせ、誘い出した私と戦いながら、どさくさに紛れて私もロイリアみたいにしようって魂胆でしょ。分かってるから、こうして我慢してるんじゃないの…っ」
今にも泣きそうな声は、彼女の口から初めて聞くもの。
それ故に、彼女がこの事態にどれだけ動揺しているのかが如実に伝わってくるようだった。
(俺が……全部、俺が……)
キリハは全身を震わせて、唇を噛む。
心だけではなく、全身を揺さぶる感情。
言うに言えないその感情が、ようやく少し立ち直ったはずの心を粉々に砕いていくよう。
「キリハ!!」
ふいに響く、自分を呼ぶ声。
反射的にそちらを仰ぐと、急行してきた車からたくさんの人々が出てきて、こちらに駆けつけてくるところだった。
それを見て―――最後の糸がプツリと切れてしまう。
「―――っ」
衝動に突き動かされるまま、勢いよく地面を蹴る。
途端に強張っていた体が痛んだけど、そんなことはどうでもよかった。
必死に走って。
めいいっぱいに手を伸ばして。
先頭にいたディアラントも、彼に続くミゲルたちも通り過ぎて―――一番後ろにいたジョーの胸に、勢いよく飛び込む。
「アルシード……ルカが……ルカが…っ」
ジョーの胸にすがりついた瞬間、ケンゼルとオークスに支えられてやっとという状態だった彼が大きくよろける。
普段なら遠慮するところだが、今はそんな心の余裕などない。
何もかもが限界で、今すぐにでも胸の内を吐き出さないと、それこそ狂ってしまう。
「ルカが、行っちゃった…っ。レクトと一緒に、人間を潰すんだって…。俺……止められなかった…っ」
凍えそうな口から、こらえきれない心があふれて止まらなくなる。
「ユアンを特別にしたのも、竜使いに後ろ指を差したのも、竜使い以外の人間だって…。俺が救うべきなのは誰で、裁くべきなのは誰なのか分かったよなって…っ。どうしよう……俺、何も否定できない!! 俺もそう思っちゃってるのに、どうやったら否定できるの!?」
迷いなく闇の中に歩いていくルカを、自分は止められなかった。
ルカを引き止められる言葉なんて、思い浮かばなかった。
だけど、かといって一緒に行くこともできなかった。
ロイリアが心配だったというのもあるけれど、今ルカを追いかけたら、自分も色んな意味で引き返せなくなると思ったから。
「………」
ジョーは何も言わない。
いつもなら口で負けなしだったはずの彼は、こちらの肩に置いた手に微かな力を込めるだけだった。
その表情に懊悩はない。
こちらを見つめる瑠璃色の双眸は、やけに静謐だ。
彼は返答に窮しているわけでない。
自分の中にある明確な答えを、この場で発言するのを控えているだけ。
その機微に気付いて、悟ってしまった。
「アルシード……まさか………―――アルシードも、人間を潰しちゃってもいいと思ってるの…?」
これまで多くの人々を守ってきたはずの彼が抱く、行動とは裏腹な本音を―――……
キリハからとんでもない話を聞いたディアラントが茫然とする隣で、ミゲルの携帯電話が震えた。
相手はターニャ。
彼女に急いで電話をかけさせたフールは、焦った様子でルカの居場所をミゲルに訊ねた。
ルカは今、病院にいない。
数時間前に、キリハを連れてどこかへ行った。
そう証言したのは、エリクを支えていた彼女。
それを受けてディアラントがキリハにルカのことを訊ねるも、キリハはまともな答えを寄越せる状況じゃなかった。
ミゲルとディアラントからの報告を聞いたフールは―――
「キリハ!! ロイリア!!」
邪魔な入れ物を脱ぎ捨てて、中身だけで彼らの元へと駆けつけていた。
「ユアン……どうしよう…っ」
ぽろぽろと大粒の涙を流すキリハは、携帯電話も投げ捨てて地面に座り込んでいた。
「どうしたの? 一体何が……」
「俺が……俺が……」
もはやユアンにすがりつく気力もないキリハは、涙を拭いながら嗚咽を零すばかり。
「違うわよ。」
そこで口を開いたのは、ロイリアの傍に寄り添うレティシアだ。
「やったのは、キリハじゃなくてレクトよ。ルカと示し合わせたタイミングで……ロイリアに、自分の血を打ち込んでいったわ。」
「―――っ!?」
それを聞いたユアンは、ざっと顔を青ざめさせる。
レクトの血を与えられた。
ドラゴンの場合、それは死にも等しい最悪の事態だ。
「ユアン……何か、方法はないの? レクトの血を取り込んでも、壊れずに済む方法って……」
震える声で訊ねるキリハ。
しかし。
「………っ」
ユアンは、ふるふると首を振った。
「分からない……ないと言ってもいいかもしれない…。そんな方法を見つけられたなら……ドラゴン大戦は、あそこまでひどくならなかった。」
苦悩に満ちた声が、彼の口から漏れる。
「三百年前も、リュードや竜使いの子たちと散々手を尽くしたんだ。でも……レクトの血から逃れられた子は、いなかった。」
「そんな…っ」
大きく顔を歪めるキリハ。
「じゃあ……―――ロイリアは、もう殺すことでしか救えないの…?」
絶望一色の問いかけ。
それに明確な答えを告げられないユアンは、奥歯を噛み締めて顔を逸らした。
しかしその表情を見ていれば、誰だって想像はつく。
答えは〝イエス〟であると。
「う…っ」
キリハの両目から、新たな涙が零れ落ちる。
「―――っ」
その時、レティシアが勢いよく立ち上がった。
「レティシア! だめだ!!」
いち早く彼女の心境を察したユアンが、必死に彼女へと言い募る。
「ここで君がレクトを捜しに行ったら、ターニャたちの管理体制に難癖をつけられる! ようやく積み上がってきた君たちへの信用もがた落ちだ!! それこそレクトの思う壺だよ!!」
「分かってるわよ!!」
ユアンの叫びを掻き消す勢いで、レティシアが悲痛な声をあげる。
「分かってるわよ…っ。どうせ、誘い出した私と戦いながら、どさくさに紛れて私もロイリアみたいにしようって魂胆でしょ。分かってるから、こうして我慢してるんじゃないの…っ」
今にも泣きそうな声は、彼女の口から初めて聞くもの。
それ故に、彼女がこの事態にどれだけ動揺しているのかが如実に伝わってくるようだった。
(俺が……全部、俺が……)
キリハは全身を震わせて、唇を噛む。
心だけではなく、全身を揺さぶる感情。
言うに言えないその感情が、ようやく少し立ち直ったはずの心を粉々に砕いていくよう。
「キリハ!!」
ふいに響く、自分を呼ぶ声。
反射的にそちらを仰ぐと、急行してきた車からたくさんの人々が出てきて、こちらに駆けつけてくるところだった。
それを見て―――最後の糸がプツリと切れてしまう。
「―――っ」
衝動に突き動かされるまま、勢いよく地面を蹴る。
途端に強張っていた体が痛んだけど、そんなことはどうでもよかった。
必死に走って。
めいいっぱいに手を伸ばして。
先頭にいたディアラントも、彼に続くミゲルたちも通り過ぎて―――一番後ろにいたジョーの胸に、勢いよく飛び込む。
「アルシード……ルカが……ルカが…っ」
ジョーの胸にすがりついた瞬間、ケンゼルとオークスに支えられてやっとという状態だった彼が大きくよろける。
普段なら遠慮するところだが、今はそんな心の余裕などない。
何もかもが限界で、今すぐにでも胸の内を吐き出さないと、それこそ狂ってしまう。
「ルカが、行っちゃった…っ。レクトと一緒に、人間を潰すんだって…。俺……止められなかった…っ」
凍えそうな口から、こらえきれない心があふれて止まらなくなる。
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迷いなく闇の中に歩いていくルカを、自分は止められなかった。
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だけど、かといって一緒に行くこともできなかった。
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「………」
ジョーは何も言わない。
いつもなら口で負けなしだったはずの彼は、こちらの肩に置いた手に微かな力を込めるだけだった。
その表情に懊悩はない。
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彼は返答に窮しているわけでない。
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