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第7章 救われた命の代償
暗闇に響く鼓動
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初めて訪れたルカの家は、少し複雑だけど初めてという感じがしなかった。
半年前にエリクが入院した病院で会った時と同様、彼の両親は自分にとても好意的だった。
ルカの言うとおり、テーブルには目を瞠るほどのご馳走が並べられ、後から合流してきたシアノも目をまんまるにしていた。
宮殿でのルカはどうなのか。
どうしてルカと真っ当に付き合っていこうと思うようになったのか。
ご両親の関心は、面白いようにルカのこと一色。
初めのうちはルカの顔色を窺ってから話してもいい話題を選んでいたものの、途中からめんどくさくなって、ご両親の質問の勢いに流されるまま、あれやこれやを暴露。
そのせいでルカが何度も赤面して悲鳴をあげることになっていたけど、まあそこは自業自得ということで。
途中からシアノも一緒になってルカを褒めちぎっていたし、あの空気はどうしようもなかったと思う。
「あああぁぁっ!! もうやめてくれーっ!!」
お風呂や歯磨きなどを終えてルカの自室に入るや否や、ルカは疲労困憊の息を吐きながらベッドに突っ伏してしまった。
「オレの話なんざ、どうでもいいじゃねぇかよ!! 兄さんが目を覚ましたからって、うざさが戻るのが早ぇんだよ!!」
がっくりとうなだれ、枕を殴りまくるルカ。
あんなに叫んでいたくせに、あれでも食卓ではまだ耐えていた方だったようだ。
「それだけルカが、お父さんやお母さんに何も話してないってことじゃないのー?」
「うっ…」
「というか、これまでどんだけ友達がいなかったのさ? 俺が家に遊びに来た初めての友達って、逆にすごくない?」
「う、うるせーな!! 昔から、周りと喧嘩してるか、家に引きこもって勉強してるかのどっちかだったんだよ! 悪かったな、友達作りもまともにできなくて!!」
もう何も突っ込まないでくれ。
果てには頭からずっぽりと毛布を被ってしまったルカの態度が、明らかにそう語っていた。
「あはは。でも、楽しそうなお父さんとお母さんだったよね。」
「うーん……よく分かんない。でも、よく美味しいものをくれるよ。」
仕方ないのでシアノに話を振ると、シアノはいまひとつピンとこない表情で首を捻った。
「そういえば、ルカ。シアノのことは、なんて説明して泊めてるの?」
「兄さん経由で知り合った人の子供だって言ってある。兄さんを心配して学校帰りにわざわざ離れた町から来てくれてるから、兄さんが退院するまでは面倒見させてくれって頼んだ。」
「お父さんもお母さんも感動で泣いた、に一票。」
「……正解だよ、こんちくしょう。」
もはや言い返す気力もなくなってきたのか、ルカは意気消沈とした様子でそう答えた。
なんだか、この三人で気の抜けた会話をするというのも新鮮だ。
レクトのあれやこれやがあって、ルカとシアノは味方になるか敵になるかが曖昧だったし。
「あ…」
それでふと、ルカに訊きたくてたまらないことがあったのを思い出す。
そういえば、ルカとこうして顔を合わせて話すのは、事件が起こってからは初めてか。
シアノもいるし、訊くなら今しかないだろう。
「ねぇ、ルカ。俺が監禁されてることに気付いたのは、ルカだったって聞いたんだけど……もしかして、レクトから聞いた?」
「ん…? ああ、そうだけど?」
ルカの答えは、案の定のイエス。
と、いうことはだ。
「じゃあ、ルカもレクトの血を飲んだってことだよね?」
「そうだな。ユアンにもばれたわ。」
毛布から抜け出してベッドに座ったルカは、なんでもないことのように認めた。
その答えは予想済みだったのだが、本人の口から聞くと、あらためて驚く自分がいる。
「なんだよ? 予想外だったか?」
「正直、少し……」
飾らない感想を言うと、ルカはくすりと微笑んだ。
「まあ、オレも自分で少し驚いてるくらいだから、無理もねぇな。でも、後悔はしてない。むしろ……今は、ありがたいと思ってるくらいだ。」
「ありがたいって…?」
訊ねると、ルカは何も言わずに笑みを深めるだけ。
ゆっくりとベッドから立ち上がり、ゆったりとした足取りで机に向かう。
その行動を目で追いかけていると―――ふと、視界がぐにゃりと歪んだ。
(あれ…?)
なんだろう。
頭がぼんやりとする。
「………、………」
ルカが何かを言っている。
だけど、何を言っているのかが分からない。
そのまま遠ざかっていく世界。
暗闇の中に響いていたのは、ただ心臓が鼓動を刻む音だけだった―――……
半年前にエリクが入院した病院で会った時と同様、彼の両親は自分にとても好意的だった。
ルカの言うとおり、テーブルには目を瞠るほどのご馳走が並べられ、後から合流してきたシアノも目をまんまるにしていた。
宮殿でのルカはどうなのか。
どうしてルカと真っ当に付き合っていこうと思うようになったのか。
ご両親の関心は、面白いようにルカのこと一色。
初めのうちはルカの顔色を窺ってから話してもいい話題を選んでいたものの、途中からめんどくさくなって、ご両親の質問の勢いに流されるまま、あれやこれやを暴露。
そのせいでルカが何度も赤面して悲鳴をあげることになっていたけど、まあそこは自業自得ということで。
途中からシアノも一緒になってルカを褒めちぎっていたし、あの空気はどうしようもなかったと思う。
「あああぁぁっ!! もうやめてくれーっ!!」
お風呂や歯磨きなどを終えてルカの自室に入るや否や、ルカは疲労困憊の息を吐きながらベッドに突っ伏してしまった。
「オレの話なんざ、どうでもいいじゃねぇかよ!! 兄さんが目を覚ましたからって、うざさが戻るのが早ぇんだよ!!」
がっくりとうなだれ、枕を殴りまくるルカ。
あんなに叫んでいたくせに、あれでも食卓ではまだ耐えていた方だったようだ。
「それだけルカが、お父さんやお母さんに何も話してないってことじゃないのー?」
「うっ…」
「というか、これまでどんだけ友達がいなかったのさ? 俺が家に遊びに来た初めての友達って、逆にすごくない?」
「う、うるせーな!! 昔から、周りと喧嘩してるか、家に引きこもって勉強してるかのどっちかだったんだよ! 悪かったな、友達作りもまともにできなくて!!」
もう何も突っ込まないでくれ。
果てには頭からずっぽりと毛布を被ってしまったルカの態度が、明らかにそう語っていた。
「あはは。でも、楽しそうなお父さんとお母さんだったよね。」
「うーん……よく分かんない。でも、よく美味しいものをくれるよ。」
仕方ないのでシアノに話を振ると、シアノはいまひとつピンとこない表情で首を捻った。
「そういえば、ルカ。シアノのことは、なんて説明して泊めてるの?」
「兄さん経由で知り合った人の子供だって言ってある。兄さんを心配して学校帰りにわざわざ離れた町から来てくれてるから、兄さんが退院するまでは面倒見させてくれって頼んだ。」
「お父さんもお母さんも感動で泣いた、に一票。」
「……正解だよ、こんちくしょう。」
もはや言い返す気力もなくなってきたのか、ルカは意気消沈とした様子でそう答えた。
なんだか、この三人で気の抜けた会話をするというのも新鮮だ。
レクトのあれやこれやがあって、ルカとシアノは味方になるか敵になるかが曖昧だったし。
「あ…」
それでふと、ルカに訊きたくてたまらないことがあったのを思い出す。
そういえば、ルカとこうして顔を合わせて話すのは、事件が起こってからは初めてか。
シアノもいるし、訊くなら今しかないだろう。
「ねぇ、ルカ。俺が監禁されてることに気付いたのは、ルカだったって聞いたんだけど……もしかして、レクトから聞いた?」
「ん…? ああ、そうだけど?」
ルカの答えは、案の定のイエス。
と、いうことはだ。
「じゃあ、ルカもレクトの血を飲んだってことだよね?」
「そうだな。ユアンにもばれたわ。」
毛布から抜け出してベッドに座ったルカは、なんでもないことのように認めた。
その答えは予想済みだったのだが、本人の口から聞くと、あらためて驚く自分がいる。
「なんだよ? 予想外だったか?」
「正直、少し……」
飾らない感想を言うと、ルカはくすりと微笑んだ。
「まあ、オレも自分で少し驚いてるくらいだから、無理もねぇな。でも、後悔はしてない。むしろ……今は、ありがたいと思ってるくらいだ。」
「ありがたいって…?」
訊ねると、ルカは何も言わずに笑みを深めるだけ。
ゆっくりとベッドから立ち上がり、ゆったりとした足取りで机に向かう。
その行動を目で追いかけていると―――ふと、視界がぐにゃりと歪んだ。
(あれ…?)
なんだろう。
頭がぼんやりとする。
「………、………」
ルカが何かを言っている。
だけど、何を言っているのかが分からない。
そのまま遠ざかっていく世界。
暗闇の中に響いていたのは、ただ心臓が鼓動を刻む音だけだった―――……
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