竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
441 / 598
第7章 救われた命の代償

暗闇に響く鼓動

しおりを挟む
 初めて訪れたルカの家は、少し複雑だけど初めてという感じがしなかった。


 半年前にエリクが入院した病院で会った時と同様、彼の両親は自分にとても好意的だった。


 ルカの言うとおり、テーブルには目をみはるほどのご馳走が並べられ、後から合流してきたシアノも目をまんまるにしていた。


 宮殿でのルカはどうなのか。
 どうしてルカと真っ当に付き合っていこうと思うようになったのか。


 ご両親の関心は、面白いようにルカのこと一色。


 初めのうちはルカの顔色をうかがってから話してもいい話題を選んでいたものの、途中からめんどくさくなって、ご両親の質問の勢いに流されるまま、あれやこれやを暴露。


 そのせいでルカが何度も赤面して悲鳴をあげることになっていたけど、まあそこは自業自得ということで。


 途中からシアノも一緒になってルカを褒めちぎっていたし、あの空気はどうしようもなかったと思う。


「あああぁぁっ!! もうやめてくれーっ!!」


 お風呂や歯磨きなどを終えてルカの自室に入るや否や、ルカは疲労困憊こんぱいの息を吐きながらベッドに突っ伏してしまった。


「オレの話なんざ、どうでもいいじゃねぇかよ!! 兄さんが目を覚ましたからって、うざさが戻るのがはえぇんだよ!!」


 がっくりとうなだれ、枕を殴りまくるルカ。
 あんなに叫んでいたくせに、あれでも食卓ではまだ耐えていた方だったようだ。


「それだけルカが、お父さんやお母さんに何も話してないってことじゃないのー?」


「うっ…」


「というか、これまでどんだけ友達がいなかったのさ? 俺が家に遊びに来た初めての友達って、逆にすごくない?」


「う、うるせーな!! 昔から、周りと喧嘩してるか、家に引きこもって勉強してるかのどっちかだったんだよ! 悪かったな、友達作りもまともにできなくて!!」


 もう何も突っ込まないでくれ。
 果てには頭からずっぽりと毛布を被ってしまったルカの態度が、明らかにそう語っていた。


「あはは。でも、楽しそうなお父さんとお母さんだったよね。」
「うーん……よく分かんない。でも、よく美味おいしいものをくれるよ。」


 仕方ないのでシアノに話を振ると、シアノはいまひとつピンとこない表情で首をひねった。


「そういえば、ルカ。シアノのことは、なんて説明して泊めてるの?」


「兄さん経由で知り合った人の子供だって言ってある。兄さんを心配して学校帰りにわざわざ離れた町から来てくれてるから、兄さんが退院するまでは面倒見させてくれって頼んだ。」


「お父さんもお母さんも感動で泣いた、に一票。」


「……正解だよ、こんちくしょう。」


 もはや言い返す気力もなくなってきたのか、ルカは意気消沈とした様子でそう答えた。


 なんだか、この三人で気の抜けた会話をするというのも新鮮だ。
 レクトのあれやこれやがあって、ルカとシアノは味方になるか敵になるかが曖昧あいまいだったし。


「あ…」


 それでふと、ルカに訊きたくてたまらないことがあったのを思い出す。


 そういえば、ルカとこうして顔を合わせて話すのは、事件が起こってからは初めてか。
 シアノもいるし、訊くなら今しかないだろう。


「ねぇ、ルカ。俺が監禁されてることに気付いたのは、ルカだったって聞いたんだけど……もしかして、レクトから聞いた?」


「ん…? ああ、そうだけど?」


 ルカの答えは、案の定のイエス。
 と、いうことはだ。


「じゃあ、ルカもレクトの血を飲んだってことだよね?」
「そうだな。ユアンにもばれたわ。」


 毛布から抜け出してベッドに座ったルカは、なんでもないことのように認めた。
 その答えは予想済みだったのだが、本人の口から聞くと、あらためて驚く自分がいる。


「なんだよ? 予想外だったか?」
「正直、少し……」


 飾らない感想を言うと、ルカはくすりと微笑んだ。


「まあ、オレも自分で少し驚いてるくらいだから、無理もねぇな。でも、後悔はしてない。むしろ……今は、ありがたいと思ってるくらいだ。」


「ありがたいって…?」


 訊ねると、ルカは何も言わずに笑みを深めるだけ。
 ゆっくりとベッドから立ち上がり、ゆったりとした足取りで机に向かう。




 その行動を目で追いかけていると―――ふと、視界がぐにゃりと歪んだ。




(あれ…?)


 なんだろう。
 頭がぼんやりとする。


「………、………」


 ルカが何かを言っている。
 だけど、何を言っているのかが分からない。


 そのまま遠ざかっていく世界。




 暗闇の中に響いていたのは、ただ心臓が鼓動を刻む音だけだった―――……



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

世界の十字路

時雨青葉
ファンタジー
転校生のとある言葉から、日常は非日常に変わっていく――― ある時から謎の夢に悩まされるようになった実。 覚えているのは、目が覚める前に響く「だめだ!!」という父親の声だけ。 自分の見ている夢は、一体何を示しているのか? 思い悩む中、悪夢は確実に現実を浸食していき――― 「お前は、確実に向こうの人間だよ。」 転校生が告げた言葉の意味は? 異世界転移系ファンタジー、堂々開幕!! ※鬱々としすぎているわけではありませんが、少しばかりダーク寄りな内容となりますので、ご了承のうえお読みください。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...