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第7章 救われた命の代償
聞きたかった言葉
しおりを挟む「―――っ!!」
まさかの事態に硬直するジョー。
エリクはそんなジョーに構わず、彼を抱く腕に力を込める。
「どうしてですかね…。どうしてもあなたがルカと被ってしまって、単にお礼を言うだけでは我慢できそうにないです。」
そう告げたエリクの手が、再びふわふわとした銀髪の上を滑る。
「ありがとうございました。それと……すみませんでした。」
「!!」
なんで……
なんで謝るんだよ。
あんたと僕は、ほぼ無関係の他人だろうが。
動揺を表に出さないことに精一杯で何も言えないジョーに、エリクは穏やかな表情と口調で続ける。
「ひどい顔色ですよ。呼吸も苦しそうですね。こんなに体調が悪いのに、無理に無理を重ねてしまって……」
「―――れの……」
ふいに震える、紫がかった唇。
「誰の……せいだと思って…っ」
何度も躊躇いながら。
ゆっくりと上がったジョーの両手が、エリクの服の胸元をぐじゃぐじゃに握る。
『よく聞きなさい。―――ジョーとエリクは違う。』
分かってるよ。
同じ兄という立ち位置にいるとはいえ、所詮は他人。
この人は〝お兄ちゃん〟じゃないんだ。
「………っ」
奥歯を噛み締めるジョーは、エリクから離れようとして彼の胸を押す。
しかし、一方のエリクは彼を離そうとしない。
互いに病人だからか、その攻防戦にはなかなか決着がつかなかった。
「僕のせい、なのかな…? すみません。僕を助ける薬を作るの、そんなに大変でしたか?」
違う。
違うっての。
成分が分かっている毒の解毒薬なんか、三十分もあれば余裕で作れるわ。
僕が参っているのは、兄であるあんたが弟を裏切って笑ったからだ。
当然、エリクがこんなことを知るわけがないのだけど、イライラしてたまらない。
事情はともかく、僕があんたを嫌いだってことくらい察しろってば……
「……ごめん。」
「!!」
「ごめんね……こんなに苦しめてしまって。」
「………っ」
だから、あんたは馬鹿なのかよ。
それとも、見ず知らずの他人にこう言えてしまうくらいのくそ善人?
天然の人たらしかよ。
「………」
ふとその時、強張っていたジョーの体から力が抜けた。
エリクを遠ざけようとしていた彼の手も、するりとそこから落ちていく。
「……ルカ君にも、ちゃんとそう伝えてあげたんでしょうね?」
先ほどまでとは打って変わった静かな声で、ジョーはエリクに問いかけた。
それに対する、エリクの答えは―――
「ええ、もちろん。目が覚めてすぐ、誰よりも一番先に抱き締めて、何度も伝えましたよ。」
暴れる彼の胸を安堵させる、魔法の言葉だった。
「そう……それならもう………それだけで、いいですよ……」
なんだか、一気に眠くなってきた。
この人を拒絶するのも、虚勢を張って強がるのも億劫だ。
(ああもう、認めるよ…。僕はきっと……この言葉が聞きたかったんだ……)
視界がぼやけて、瞼が半分落ちる。
エリクはちゃんと、ルカに真実を伝えられた。
そしてルカは、エリクを憎まずに許すことができた。
二人が寄り添ってここに現れたということは、そういうことなのだろう。
それならもう、自分には何も言うことはない。
(お兄ちゃん……)
瞼が完全に落ちて、視界が闇に染まる。
「ジョー…? ―――アルシード!!」
懐かしい名前を呼ぶ声が、闇の向こうへと遠ざかっていく―――……
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