竜焔の騎士

時雨青葉

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第6章 復讐の道

止められない復讐心

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 大人たちの注目を浴びながら、僕はなんでもないことのように、ずっと考えていたことを告げる。


「死んだのが、僕ってことにすればいいんじゃない?」
「え…?」


 その僕の提案に、皆が怪訝けげんそうに眉を寄せた。


 もしかして、この人たちも一から十まで説明しないと伝わらない馬鹿なの?
 これだけ言えば、どういう意味かは分かるもんでしょ?


「だからぁ……」


 携帯電話から顔を上げて、目の前にいる奴らを一人ひとり眺める。
 そんな僕の顔は、きっと冷たくえていたことだろう。




「僕が死んだことにして、代わりに僕がお兄ちゃんとして生きていけばいいって言ってんの。」




 余計な飾りは一切つけずに、単純明快な言葉で再説明。


「アル!?」
「な、何を馬鹿なことを言ってるんだ!!」


 父さんが悲鳴のような声をあげ、ケンゼルさんもなかば怒り顔で僕の意見を否定してくる。
 だけど僕には、周りがどうしてそんな反応をするのかが理解できなかった。


「馬鹿なこと? そうかなぁ?」


 故に無感動な態度と声で、僕の考えをつらつらと並べる。


「だって僕、父さんたちと離れるのも、また誰かに連れていかれるのも嫌だもん。どうせ名前を変えて別人になるんなら、アルシードなんて死んだことにしちゃえばいいじゃん。そうすれば、誰も僕を欲しがったり命を狙ったりしないでしょ。」 


 これは普通に考えれば、誰でも思い至る考えだと思う。
 だけどこれは、僕にとってはおまけのメリットでしかない。


「それに……僕にそっくりなが死んでくれたんだから、ちょうどいいと思わない? あいつの人生を乗っ取ってめちゃくちゃにできるなんて、仕返しには最高じゃん♪」


 途中から楽しくなって、笑いながらそう言ってやる。


 僕をこんな目に遭わせたテロ組織の奴らには、いくらだってやり返す方法がある。
 生きている人間に苦痛や恐怖を味わわせてやるのは簡単だから。


 だけど、死んだ人間は苦痛も恐怖も感じられない。
 じゃあ、どうすればこの怒りと憎しみを兄に返してやれるのか。


 毒を作りながら、そればかりを考えていた。
 そこでふと思い出したのは、家族で墓参りに行った時のこと。


 死んじゃった人は思い出の中でしか生きられないから、大事に思い出して、ゆっくりと眠れるようにお祈りするんだって。


 墓参りの意味を訊ねた僕に、両親はそう答えた。




 なら―――思い出させてやらなければいい。




 ゆっくりと眠れるように?
 そんなこと、させてやるか。


 誰にも、あいつの眠りを祈らせない。
 そのためには、あいつは生きてなきゃいけないんだ。


 だから、その代わりを僕がやろうってわけ。


 そうすれば僕が生きている限り、誰もジョー・レインの死に気付かないし、あいつの死を悲しまない。
 その上で僕が最低な人間になってやれば、僕が死んだ後もその死を悲しむ人はいない。


 これで完璧。
 裏切り者は裏切り者らしく、無様に朽ちて消えていけばいいのさ。


「ア……アル…?」


 父さんも母さんも、信じられないような顔で僕を見つめている。
 他の人たちも、顔面蒼白で固唾かたずを飲んでいた。


 つい一ヶ月前まで純粋の塊だった僕が、こんな歪んだことを言うのが意外?
 子供らしく泣き喚いて、両親と離れたくないってごねるかと思った?




 ―――バーカ。




 僕は、一度見聞きしたことは忘れない。
 そんな僕が、この一ヶ月で新しい知識をどれだけ得たと思うの?


 他人を脅して従わせる方法だって、普段のあいつらを見て十分に学べたよ。
 そして、よく理解できた。


 僕がいかに天才で、周りがいかに凡人なのかを。


「アルシード、やめなさい。」


 なんとか頑張って、理性を早く取り戻したんだろう。
 父さんが僕の肩に手を置いて、できる限り穏やかに諭してくる。


「お兄ちゃんにひどいことをされて、仕返しをしたい気持ちは分かるよ。でも、そのために自分を死んだことにして、お兄ちゃんとして生きていくなんてだめだ。絶対に幸せなんかなれない。」


「だから?」


 今考えると、父さんにはひどいことを言ってしまったと思う。
 だけどもう、僕には止められなかったんだ。




 胸にどす黒く渦巻いて、心を完全に凍りつかせる―――この復讐心を。



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