416 / 598
第5章 亡霊の正体
終わりはもう、すぐそこに―――
しおりを挟む
どんなに休みたくとも、時間は止まってはくれない。
次のドラゴン出現予想まで、あと十日ばかり。
竜騎士隊全員と知将が不在という未曾有の事態に陥りながらも、ディアラントとターニャを筆頭に、残った面々は懸命に議論を進めていた。
「ふう…。あとはドラゴンのデカさ頼みだけど、なんとかなりそうだな。」
長い会議の連続に一区切りがつき、ディアラントは重い肩を落とす。
そこに。
「おらよ。」
ミゲルが書類の束を渡した。
「ジョーの修正が入った陣営と指揮計画だ。」
「うへぇー…。まだ会議が終わって三十分ですよ? あの人の頭はどうなってんですか?」
「次元違いのところにあるのは間違いねぇな。会議の内容も、監視カメラをジャックしてリアルタイムで聞いてたみてぇだし。」
「まあ、宮殿の全システムはあの人のおもちゃみたいなもんですからね。今さら驚きはしませんけど。」
ぼやきながら、受け取った資料に目を通すディアラント。
心なしか、その表情は安堵しているよう。
「体調は心配ですけど、正直めちゃめちゃ助かりますね。物理的な距離なんて、ジョー先輩にはハンデでもなかったか……」
「だな。討伐当日も、ヘンデルやサッカニーを使ってアシストしてくれるそうだ。二人も、普段から仕込まれてるから安心しろってさ。」
「さすがですね。いつもはあんなに一人でなんでもかんでもやってるくせに、こういう時の備えはちゃんと用意してたってわけか……」
「まあその分、隙がなさすぎて可愛げがないんだけどな。」
「ですねー。もっと頼ってほしいもんですよ。」
資料を一通り確認し、メッセージでジョーに礼を言っておく。
一時はどうなるかと思ったが、作戦の要である参謀代表がこれまでと変わらない働きをしてくれているおかげで、部隊のコンディションはまだ保たれそうだ。
そうなると、今一番の問題は……
「頼むから、また二体同時なんて展開は勘弁してくれよ…。一体ならまだしも、さすがに二体は、レティシアたちや《焔乱舞》なしにはきっつい。」
以前はかっこつけて《焔乱舞》ありきの討伐なんて考えていないと言ったが、あれは出現するドラゴンが一体という前提があったから言えたこと。
何度か離れた位置に同時出現されている今となっては、理想論や強がりで《焔乱舞》がなくても大丈夫だとは言えない。
「確かにな……」
深刻そうに呟くディアラントに、ミゲルも似たような声音で同意する。
「まさか、今になってキー坊が焔に拒絶されるなんて……」
「違う。」
ミゲルの言葉を、即で否定する人物が一人。
「違うよ。焔じゃない。」
その場にいる全員の視線を受けながら、フールは否定を重ねる。
「もしも本当に焔がキリハを見限ったなら、キリハの手元に自分から現れた時と同じように、自分から洞窟に戻っていたはずさ。それに……この前の暴走の時に、キリハを焼き殺していただろう。」
キリハを焼き殺していた。
それを聞いて表情を青くしたり険しくしたり、人々の反応はそれぞれだが、フールは構わずに先を続ける。
「現場を見た僕には分かる。あの時の焔は、全力でキリハを守っていた。キリハが大好きだって、炎がそう語っていたよ。」
「じゃあ……」
「ああ、そうさ。」
ディアラントが辿り着いたであろう推測を、フールは頷いて肯定する。
「焔がキリハを拒絶したんじゃなくて、キリハが焔を拒絶しているんだよ。多分……自分の衝動に負けて、人間を攻撃してしまわないように。」
視線を落とすフール。
《焔乱舞》に触れないことを認めたキリハが見せた、心底安心した表情。
あそこに、全ての答えが示されていた。
本当に、なんて優しい子だろう。
今は人間を裁く時だと、一片の疑いもなくそう思っているのに、それでもギリギリのところで、人を傷つけない道を選び取るとは。
その優しさが真に純粋だったからこそ、《焔乱舞》もキリハの望みに応えたのだ。
二度も主を焼きたくないと、《焔乱舞》自身がそう願ったのもあるかもしれない。
「大丈夫。時間はかかるだろうけど、キリハはいつか、もう一度焔を受け入れてくれるよ。それに―――ドラゴンの方は、問題ない。」
顔を上げて、フールは力強く断言する。
「眠っているドラゴンは、あと二体なんだ。その二体が同時に目覚めることだけは、絶対にありえない。最後の一体は、自分以外のドラゴンを解き放ってからしか目覚めないから。」
「絶対にって……」
「絶対にだよ。」
怪訝そうなディアラントに、フールは再度言い切る。
そう言える彼の根拠は……
「最後に目覚める一体は、この封印を施した張本人にして、僕の親友―――神竜リュドルフリアだからね。」
次のドラゴン出現予想まで、あと十日ばかり。
竜騎士隊全員と知将が不在という未曾有の事態に陥りながらも、ディアラントとターニャを筆頭に、残った面々は懸命に議論を進めていた。
「ふう…。あとはドラゴンのデカさ頼みだけど、なんとかなりそうだな。」
長い会議の連続に一区切りがつき、ディアラントは重い肩を落とす。
そこに。
「おらよ。」
ミゲルが書類の束を渡した。
「ジョーの修正が入った陣営と指揮計画だ。」
「うへぇー…。まだ会議が終わって三十分ですよ? あの人の頭はどうなってんですか?」
「次元違いのところにあるのは間違いねぇな。会議の内容も、監視カメラをジャックしてリアルタイムで聞いてたみてぇだし。」
「まあ、宮殿の全システムはあの人のおもちゃみたいなもんですからね。今さら驚きはしませんけど。」
ぼやきながら、受け取った資料に目を通すディアラント。
心なしか、その表情は安堵しているよう。
「体調は心配ですけど、正直めちゃめちゃ助かりますね。物理的な距離なんて、ジョー先輩にはハンデでもなかったか……」
「だな。討伐当日も、ヘンデルやサッカニーを使ってアシストしてくれるそうだ。二人も、普段から仕込まれてるから安心しろってさ。」
「さすがですね。いつもはあんなに一人でなんでもかんでもやってるくせに、こういう時の備えはちゃんと用意してたってわけか……」
「まあその分、隙がなさすぎて可愛げがないんだけどな。」
「ですねー。もっと頼ってほしいもんですよ。」
資料を一通り確認し、メッセージでジョーに礼を言っておく。
一時はどうなるかと思ったが、作戦の要である参謀代表がこれまでと変わらない働きをしてくれているおかげで、部隊のコンディションはまだ保たれそうだ。
そうなると、今一番の問題は……
「頼むから、また二体同時なんて展開は勘弁してくれよ…。一体ならまだしも、さすがに二体は、レティシアたちや《焔乱舞》なしにはきっつい。」
以前はかっこつけて《焔乱舞》ありきの討伐なんて考えていないと言ったが、あれは出現するドラゴンが一体という前提があったから言えたこと。
何度か離れた位置に同時出現されている今となっては、理想論や強がりで《焔乱舞》がなくても大丈夫だとは言えない。
「確かにな……」
深刻そうに呟くディアラントに、ミゲルも似たような声音で同意する。
「まさか、今になってキー坊が焔に拒絶されるなんて……」
「違う。」
ミゲルの言葉を、即で否定する人物が一人。
「違うよ。焔じゃない。」
その場にいる全員の視線を受けながら、フールは否定を重ねる。
「もしも本当に焔がキリハを見限ったなら、キリハの手元に自分から現れた時と同じように、自分から洞窟に戻っていたはずさ。それに……この前の暴走の時に、キリハを焼き殺していただろう。」
キリハを焼き殺していた。
それを聞いて表情を青くしたり険しくしたり、人々の反応はそれぞれだが、フールは構わずに先を続ける。
「現場を見た僕には分かる。あの時の焔は、全力でキリハを守っていた。キリハが大好きだって、炎がそう語っていたよ。」
「じゃあ……」
「ああ、そうさ。」
ディアラントが辿り着いたであろう推測を、フールは頷いて肯定する。
「焔がキリハを拒絶したんじゃなくて、キリハが焔を拒絶しているんだよ。多分……自分の衝動に負けて、人間を攻撃してしまわないように。」
視線を落とすフール。
《焔乱舞》に触れないことを認めたキリハが見せた、心底安心した表情。
あそこに、全ての答えが示されていた。
本当に、なんて優しい子だろう。
今は人間を裁く時だと、一片の疑いもなくそう思っているのに、それでもギリギリのところで、人を傷つけない道を選び取るとは。
その優しさが真に純粋だったからこそ、《焔乱舞》もキリハの望みに応えたのだ。
二度も主を焼きたくないと、《焔乱舞》自身がそう願ったのもあるかもしれない。
「大丈夫。時間はかかるだろうけど、キリハはいつか、もう一度焔を受け入れてくれるよ。それに―――ドラゴンの方は、問題ない。」
顔を上げて、フールは力強く断言する。
「眠っているドラゴンは、あと二体なんだ。その二体が同時に目覚めることだけは、絶対にありえない。最後の一体は、自分以外のドラゴンを解き放ってからしか目覚めないから。」
「絶対にって……」
「絶対にだよ。」
怪訝そうなディアラントに、フールは再度言い切る。
そう言える彼の根拠は……
「最後に目覚める一体は、この封印を施した張本人にして、僕の親友―――神竜リュドルフリアだからね。」
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる