410 / 598
第4章 それぞれが深みへ……
それは、あまりにも綺麗な―――
しおりを挟む
遠くで、歌が響いている。
全然知らない歌。
でも、心に染み入るように切なくて、自分の心を全部包み込んでくれる優しい歌。
実際に、あの人は自分の全部を肯定してくれた。
レクトに共感して、人間のどこが美しいのかと思う自分の疑問も。
傷つけるのはいつも人間の方だという、自分の結論も。
今までのように、頭ごなしに否定してこなかった。
むしろ―――どんな自分も肯定するって。
自分をしっかりと抱き締めて。
何度も何度も頭をなでて。
久しぶりに聞く穏やかな口調で、そう言ってくれた。
そうだね……
分かんないね……
ジャミルのことを思うと、どうしたって人間に肯定的にはなれない。
彼の面影に引きずられて思い出してしまった学校の同級生たちも、今思うと本当にひどく歪んだ顔をしていた。
外を歩けば、人々が顔をしかめたりひそひそ話をしながら避けていく。
かと思えば、有名人だからって気持ち悪い好意を向けて近寄ってくる人々もいる。
どいつもこいつも、腐った林檎みたいに澱んで見えるんだ。
でも……ね…?
人間を焼こうとする炎の中に飛び込んできてくれたユアンは―――すごく、綺麗だと思ったんだよ。
ユアンが来てくれて、すごくほっとした。
俺が今一番来てほしかったのはユアンだったんだって、声を聞いた瞬間に分かった。
だって、こんな気持ち……誰に言えるの?
今この世界に、望んでドラゴンと血を交わしたのは俺だけなんだ。
そんな俺の気持ちを分かってくれるのは、きっとユアンだけでしょ?
ねぇ……ずるいよ……
あんなに喧嘩してたじゃん。
何度も二人で〝もう知らない〟って言い合ったじゃん。
なのにさ……馬鹿みたいにほっとした顔で笑っちゃってさ。
俺と同じ苦しさを噛み締めて、一緒に泣いてくれちゃって。
可愛い坊や……なんて……
俺、もうそんなに子供じゃないもん。
ユアンは、俺のことを父さんみたいに力強く抱き締めながら、母さんみたいに穏やかに語りかけてくれるんだね……
俺、どうすればいいのさ?
ルカみたいに、いっそのこと〝周りの奴らなんて大嫌いだ〟って割り切れたらよかったのに。
ユアンがあんまりにも綺麗すぎるから、そんなこと思えないよ……
熱い。
胸の奥がすごく熱い。
今この身を焦がしているのは、浄化の赤い炎じゃない。
何もかもを壊したくなる、真っ黒な炎だ。
―――ねぇ、焔。お願い。俺に力を貸して。
俺、このままじゃ、おかしくなっちゃいそうなんだ。
胸の奥から湧いてくるこの黒い感情を、どうすればいいか分からないんだ。
だから、ね?
どうかお願い。
どうか、俺を―――
全然知らない歌。
でも、心に染み入るように切なくて、自分の心を全部包み込んでくれる優しい歌。
実際に、あの人は自分の全部を肯定してくれた。
レクトに共感して、人間のどこが美しいのかと思う自分の疑問も。
傷つけるのはいつも人間の方だという、自分の結論も。
今までのように、頭ごなしに否定してこなかった。
むしろ―――どんな自分も肯定するって。
自分をしっかりと抱き締めて。
何度も何度も頭をなでて。
久しぶりに聞く穏やかな口調で、そう言ってくれた。
そうだね……
分かんないね……
ジャミルのことを思うと、どうしたって人間に肯定的にはなれない。
彼の面影に引きずられて思い出してしまった学校の同級生たちも、今思うと本当にひどく歪んだ顔をしていた。
外を歩けば、人々が顔をしかめたりひそひそ話をしながら避けていく。
かと思えば、有名人だからって気持ち悪い好意を向けて近寄ってくる人々もいる。
どいつもこいつも、腐った林檎みたいに澱んで見えるんだ。
でも……ね…?
人間を焼こうとする炎の中に飛び込んできてくれたユアンは―――すごく、綺麗だと思ったんだよ。
ユアンが来てくれて、すごくほっとした。
俺が今一番来てほしかったのはユアンだったんだって、声を聞いた瞬間に分かった。
だって、こんな気持ち……誰に言えるの?
今この世界に、望んでドラゴンと血を交わしたのは俺だけなんだ。
そんな俺の気持ちを分かってくれるのは、きっとユアンだけでしょ?
ねぇ……ずるいよ……
あんなに喧嘩してたじゃん。
何度も二人で〝もう知らない〟って言い合ったじゃん。
なのにさ……馬鹿みたいにほっとした顔で笑っちゃってさ。
俺と同じ苦しさを噛み締めて、一緒に泣いてくれちゃって。
可愛い坊や……なんて……
俺、もうそんなに子供じゃないもん。
ユアンは、俺のことを父さんみたいに力強く抱き締めながら、母さんみたいに穏やかに語りかけてくれるんだね……
俺、どうすればいいのさ?
ルカみたいに、いっそのこと〝周りの奴らなんて大嫌いだ〟って割り切れたらよかったのに。
ユアンがあんまりにも綺麗すぎるから、そんなこと思えないよ……
熱い。
胸の奥がすごく熱い。
今この身を焦がしているのは、浄化の赤い炎じゃない。
何もかもを壊したくなる、真っ黒な炎だ。
―――ねぇ、焔。お願い。俺に力を貸して。
俺、このままじゃ、おかしくなっちゃいそうなんだ。
胸の奥から湧いてくるこの黒い感情を、どうすればいいか分からないんだ。
だから、ね?
どうかお願い。
どうか、俺を―――
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。

ロンガニアの花 ー薬師ロンの奔走記ー
MIRICO
恋愛
薬師のロンは剣士セウと共に山奥で静かに暮らしていた。
庭先で怪我をしていた白豹を助けると、白豹を探す王国の兵士と銀髪の美しい男リングが訪れてきた。
尋ねられても知らんぷりを決め込むが、実はその男は天才的な力を持つ薬師で、恐ろしい怪異を操る男だと知る。その男にロンは目をつけられてしまったのだ。
性別を偽り自分の素性を隠してきたロンは白豹に変身していたシェインと言う男と、王都エンリルへ行動を共にすることを決めた。しかし、王都の兵士から追われているシェインも、王都の大聖騎士団に所属する剣士だった。
シェインに巻き込まれて数々の追っ手に追われ、そうして再び美貌の男リングに出会い、ロンは隠されていた事実を知る…。
小説家になろう様に掲載済みです。
貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。
※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。
※2020-01-16より執筆開始。

口枷のついたアルファ
松浦そのぎ
BL
〇Ωより先にαがラットに入る系カップル〇噛みたい噛みたいって半泣きの攻めと余裕綽綽の受けのオメガバースです。大丈夫そうな方だけお願いします。短いです!
他国の剣闘士であるルドゥロとリヴァーダ。
心躍る戦いを切望していた「最強の男」ルドゥロにリヴァーダは最高の試合をプレゼントする。

婚約者は他の女の子と遊びたいようなので、私は私の道を生きます!
皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけたらどうだ。正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」
頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。
そして、チラチラと周囲や他の女子生徒を見る視線で察する。彼は他に想い人が居る、または作るつもりで、距離を取りたいのだと。邪魔になっているのだ、と。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる