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第1章 絡む策略
後々の致命傷
しおりを挟む「最近のキリハ君なんだけど……休みの度に、新しく友達になったドラゴンの所に通ってるんだよね。」
さすがに黙っているのも気まずくなったのだろう。
ついにジョーが、その事実を口にした。
「新しく友達になった……ドラゴン…?」
初耳のディアラントとミゲルは、目をまたたくばかり。
どうして自分が説明係にならなくてはいけないのか。
全力で不満そうな顔をしながら、ジョーは歯切れ悪く語る。
「かれこれ、もう半年は前かな…? キリハ君が朝帰りしてきた前日、偶然見かけたシアノ君を追いかけた先で、その子の父親だっていうレクトに初めて会ったんだってさ。で、そのレクトっていうのがドラゴンだったってわけ。」
「は…?」
「ちょっと待て。色々と追いつけねぇ。」
「分かってるよ。吐いちゃったからには、ちゃんと説明するってば。」
辟易とした溜め息をつきながら、ジョーは淡々と事実を述べる。
その結果。
「おいおい、嘘だろ…?」
「キリハ、そんな危ないことを……」
ミゲルもディアラントも、顔面蒼白になってしまった。
「まあ、フール様が怒るのも無理ないよね。ドラゴン大戦を生で見てきた焔への案内人としては、レクトとキリハ君が接触するのは許せないだろうから。」
「いや…。ってか、なんでお前もルカもキー坊を止めなかったんだよ。」
「言ったでしょ? 今のキリハ君は、止めるほどに暴走するって。」
これ以上は追及しないでくれと。
煙たそうなジョーの態度がそう語る。
「今のあの子は、リスクを分かった上で自分が正しいと思う道を突き進んでるんだ。そういう子に、生半可な説得なんて通用しないよ。それに今回に関しては、あのルカ君でも、キリハ君の理論を崩せる手札がないって言ってた。だからルカ君と話して、この件については、キリハ君が満足するまでは黙ってようってことにしてたわけ。」
「………」
二人はかなり深刻そう。
まあ、無理もない反応だとは思う。
いつの間にか相当仲良くなっていたのか、今のキリハが一番聞くのはルカの言葉だ。
そのルカが説得できないと言うからには、この宮殿にキリハの考えを改めさせられる人間はほぼゼロ。
自分ならやろうと思えばキリハを誘導できるだろうけど……正直、今はそれどころじゃない。
「………っ」
ずっとこらえていた頭痛がひどくなってしまい、ジョーは眉間に指を当てて小さく唸る。
「ちょうどいいや。キリハ君の監視なり説得なりは、二人に任せる。僕はちょっと休憩させてもらうよ。」
「ジョー先輩……体調でも悪いんですか?」
「まあ、そんなとこ……」
言葉どおりどこか生気を欠いた顔色で、ジョーは深く息をつく。
「深夜帯のレティシアたちの監督に、ノア様とのやり取りに、その他大勢との情報戦争やシステム戦争にって、最近忙しくてねぇ…。そこに加えて、厄介な交渉まで飛び込んできちゃったもんだから、寝る時間もろくに取れてないんだ。」
「ああー…」
「………」
空笑いのディアラントと、無言で明後日の方へと視線をさまよわせるミゲル。
そんな彼らの相手をするのも、今は少し厳しかった。
「……ごめん。ちょっと、仮眠を取ってから仕事に入るよ。」
「どうぞどうぞ。ってか、戦争の分は申請出して、給料をもらってください。半分以上はオレのせいですよね? 今年の大会も優勝しちゃって、縛りがなくなっちゃったから……」
「分かってるなら、少しは大人しくして。言っとくけど、僕とランドルフ上官がいなかったら、今ごろ君は死んでるからね。」
「オレは、みんなの愛で生かされてますから~♪」
「余計に頭が痛くなることを言わないでよ。とりあえず、キリハ君のことは教えたからね。あとはよろしく。」
ああ、だめだ。
今はとにかく、薬を飲んでも収まらない頭痛をどうにかしたい。
キリハのことは気になるが、あの子のことはこの二人に任せても大丈夫だろう。
自分が裏から位置情報を見張っているよりも、二人が正面から寄り添ってあげた方が、あの子も気が楽なはすだ。
さっきも言ったとおり、今の自分には余裕がない。
ルカからの交渉が思いの外響いてしまったようで、それに想定外のリソースを食われてしまっている。
他の交渉やら戦争やらは命が懸かる手前、切り捨てるに切り捨てられないし、この体調では、さすがにキリハのことにまで手を回しきれない。
ノアから情報を仕入れて、オークスに渡すのが精一杯だ。
(他に気を張ってくれる人がいる問題は、多少押しつけてもいいでしょ……)
そんなことを思いながら、ジョーはふらつく足取りで仮眠室に向かう。
調子を崩した知将の、ほんのわずかな休息。
間が悪かったと言えばそれまで。
しかしこれが、後に多くの人々にとっての大きな致命傷になろうとは、この時は誰もが想像もしていなかった―――
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