379 / 598
第1章 絡む策略
ルカの思惑
しおりを挟む「お前が協力する……とは?」
驚いたシアノの表情から、途端に感情が消える。
その口腔から漏れた声は幼さを失い、逆に老齢を思わせる深みを帯びる。
どうやら、ラスボス様が降臨したようだ。
シアノの体を奪い取ったレクトの問いに、ルカは淡々と答えた。
「そのまんまの意味だ。お前の真意次第では、仲間になってやってもいいと言っている。」
「ふむ…。どうしてお前がそういう判断をしたのが、少し疑問だな。」
「そうか?」
「ああ。お前はユアンやキリハと違って、理想や綺麗事で動くタイプではなかろう。私に関わってもメリットがないのは明らかだから、手を引くのが筋かと思っていたが。」
「ああ、そのとおり。お前の指摘は間違っていない。言葉どおり、メリットがあるからここに来たんだよ。」
「うむ…?」
どういうことか、と。
レクトが視線だけで促してくる。
「だってお前―――人間のこと、嫌いだろ?」
断定口調で、ルカはレクトにそう告げた。
「シアノを見てたら分かるさ。」
ルカはレクトの答えは待つことなく話しながら、ゆっくりと地面に腰を下ろす。
「多少なりとも人間に好意を抱いているなら、シアノをこんな風には育てねぇだろ。人間に溶け込ませやすくも、簡単に人間を裏切れる便利な駒にしたいっていう魂胆が丸見えだ。」
「……そうか。お前には、そう見えるのだな。」
ルカの意見に対し、レクトはイエスともノーとも唱えない。
ルカも特に明確な答えを求めてはいないのか、特に追及を重ねることはしなかった。
「では、そういう推測を立てた上で、お前が私に見出だしたメリットとはなんだ?」
「よくよく考えてみたんだよ。あれから。」
目を伏せるルカ。
「歴史がどうとかは関係なく、オレ個人が気に食わなくて、仕返しをしてやりたいのは誰なんだってな。―――答えは当然、人間だろ?」
にやりと。
弧を描く唇。
「ドラゴン大戦の再来? 大歓迎だな。もしそうなるなら、オレは―――ドラゴンに跨がって、人間どもを真正面から潰してやるよ。これまで蔑んできた竜使いにぶっ潰されるのは、どんな気分だろうな? こんなに気持ちのいい仕返しもねぇなって思ったんだよ。」
「ほほう……」
明け透けないルカの言い分を聞いたレクトが、少し意外そうに目を丸くした。
「よもや、キリハやシアノに世話を焼きまくっているお前が、そこまで人間を嫌っていたとはな。少し誤算だったか…。だが、こうは考えなかったのか?」
試し、試され。
互いの腹を探り合うような会話は続く。
「ここで手を組んだとして……人間を滅ぼした後に、用済みとなったお前を私が殺すかもしれない、と。」
物騒極まりないレクトの問いかけ。
それに、ルカは動揺の一片も見せなかった。
「もちろん、その可能性は勘定に入れてるさ。だけど、気にしても意味なくねぇか?」
「ふむ…? どういう意味だ?」
「オレとしては、人間に最大の仕返しができた時点で満足なんだ。それを達成させてもらえるなら、その後に殺されたとしても文句はねぇな。第一、お前がオレを殺さなくたって、どうせオレはお前より早く死ぬだろう。死ぬのが早いか遅いかの違いだけで、最終的にセレニアから人間が消えるのは変わらない。違うか?」
澱みないルカの返答。
それをじっくりと吟味したレクトは、くすりと笑う。
「……なるほど。確かにその理論なら、私が急いでお前を殺す理由はないな。―――面白い。お前の話、もう少し詳しく聞いてみようではないか。」
第一の交渉は受け入れ姿勢で合意。
話は次の段階へと進む。
「それで? 仮に私が人間を滅ぼそうとしてるとして……お前は、私にどう協力をしようと思っているのだ?」
「そうだな……」
考える雰囲気で腕を組むルカ。
とはいえ、すでにある程度の見通しは立てていたのか、彼は大して時間を置かずに口を開く。
「外側からの攻撃は、最終的にお前がドラゴンを引き連れてやるだろうから、オレは内側から人間を崩す方が効率的だろうな。」
その指針は、確かに妥当であると言えた。
騙して協力させるにしろ、仲違いを誘導するにしろ、人間への仕込みは同じ人間がやりやすいのは明らかだ。
「それは具体的に言うと、キリハを潰すということか?」
「いやいや。あいつはもう、お前が色々と仕込んでるだろ? オレが今さら手を加える必要もない。」
最初の確認に対するルカの答えは否。
「では、彼の師匠か?」
「甘いな。確かにあいつの剣の腕は厄介だが、武力ってのは数や技術でどうとでも補える。目立つ杭をとりあえず打つのは、馬鹿がやることだぜ?」
次の仮定もあっさりと否定される。
「ふむ……」
唸るレクト。
そんな彼に、ルカは自信に満ちた笑みを向けた。
「敵の戦力を確実に削ぐなら、数では補えない知恵の領域……つまり、知将から潰すのが一番。なら……」
ルカが示す、その〝知将〟とは―――
「―――ジョー・レイン。」
その名を告げたルカの笑みに、凄惨な色が滲む。
「オレのターゲットはあいつだ。」
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
世界の十字路
時雨青葉
ファンタジー
転校生のとある言葉から、日常は非日常に変わっていく―――
ある時から謎の夢に悩まされるようになった実。
覚えているのは、目が覚める前に響く「だめだ!!」という父親の声だけ。
自分の見ている夢は、一体何を示しているのか?
思い悩む中、悪夢は確実に現実を浸食していき―――
「お前は、確実に向こうの人間だよ。」
転校生が告げた言葉の意味は?
異世界転移系ファンタジー、堂々開幕!!
※鬱々としすぎているわけではありませんが、少しばかりダーク寄りな内容となりますので、ご了承のうえお読みください。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~
次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」
前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。
軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。
しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!?
雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける!
登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。
魔術学院の最強剣士 〜初級魔術すら使えない無能と蔑まれましたが、剣を使えば世界最強なので問題ありません。というか既に世界を一つ救っています〜
八又ナガト
ファンタジー
魔術師としての実力で全ての地位が決まる世界で、才能がなく落ちこぼれとして扱われていたルーク。
しかしルークは異世界に召喚されたことをきっかけに、自らに剣士としての才能があることを知り、修練の末に人類最強の力を手に入れる。
魔王討伐後、契約に従い元の世界に帰還したルーク。
そこで彼はAランク魔物を棒切れ一つで両断したり、国内最強のSランク冒険者から師事されたり、騎士団相手に剣一つで無双したりなど、数々の名声を上げていく。
かつて落ちこぼれと蔑まれたルークは、その圧倒的な実力で最下層から成り上がっていく。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚
ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。
しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。
なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!
このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。
なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。
自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!
本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。
しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。
本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。
本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。
思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!
ざまぁフラグなんて知りません!
これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。
・本来の主人公は荷物持ち
・主人公は追放する側の勇者に転生
・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です
・パーティー追放ものの逆側の話
※カクヨム、ハーメルンにて掲載
【禁術の魔法】騎士団試験から始まるバトルファンタジー
浜風 帆
ファンタジー
辺境の地からやって来たレイ。まだ少し幼なさの残る顔立ちながら、鍛え上げられた体と身のこなしからは剣術を修練して来た者の姿勢が窺えた。要塞都市シエンナにある国境の街道を守る騎士団。そのシエンナ騎士団に入るため、ここ要塞都市シエンナまでやってきたのだが、そこには入団試験があり……
ハイファンタジー X バトルアクション X 恋愛 X ヒューマンドラマ
第5章完結です。
是非、おすすめ登録を。
応援いただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる