竜焔の騎士

時雨青葉

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第6章 軋んでいく心

一番好きな人の選択

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「―――おや。どうやら、予想外の客が訪れたようだ。」


 ほの暗い洞窟の奥で、ふいにレクトが首をもたげた。
 その言葉を受けて、シアノも曲がり角の向こうに目を向ける。


 父がそう言ったので意識を研ぎ澄ませると、確かに微かな足音がする。
 それは迷いなくこちらに近づいてきていて、自分たちがここにいることを知っているような歩み。


 でも―――この足音のリズムは、キリハじゃない。


 彼以外で、自分たちがここにいることを知っているのは―――




「ルカ……」




 曲がり角から姿を現したルカを見て、シアノは複雑な心境に陥る。


 嬉しさと悲しさが半分ずつ。
 そして、それらを大きく上回るのは恐怖だ。


 まだ決めていないと言ったルカ。
 彼は、たった一人でここに何をしに来たのだろう。


 答えを聞きたいのに、同じくらい答えを聞きたくない。




〝お前たちの味方にはならない〟




 そう言われてしまったら、ぼくは……


「シアノ。少し、耳だけ貸しておくれ。」
「うん……」


 ルカとは直接話したいという自分の気持ちを、最大限に考慮してくれた父の言葉。
 それに従うと、音が少しくぐもったような感覚に包まれた。


「どうしたの…?」


 震える声を、必死に喉から絞り出す。


「悪いな。オレはあいつほど馬鹿でも、お人好しでもねぇんだ。」


 ルカの声は、ひどく冷たくえていた。
 とても好意的であるとは思えない。


「うう…っ」


 怖くなって、思わず父にしがみつく。


 嫌だ。
 お願い。


 拒絶しないで……


 ルカには死んでほしくない。
 エリクみたいに苦しんでほしくない。


 ぼくたちと一緒に、笑ってよ……


「シアノ。オレの言葉は、レクトに聞こえてるか?」
「………っ」


 怖くて声が出なかったので、なんとか頷いて〝うん〟と答える。


「そうか……」


 こちらの答えを見たルカは、一度瞑目。
 数秒後に目を開いた彼は、まっすぐにレクトを見上げた。


 そして―――




「何を企んでいるのか、洗いざらい吐いてもらおうか。場合によっちゃ―――あいつの代わりに、オレが協力してやる。」



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