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第5章 動くそれぞれ
初めてのわがまま
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ルカと二人で洞窟の曲がり角から姿を見せると、レクトの傍で丸くなっていたシアノが、とても驚いた様子で飛び起きた。
どうやらレクトは、ルカの訪問をお楽しみとして内緒にしていたらしい。
突然のことに、目をぱちくりとしばたたかせるシアノ。
次第に、その頬が紅潮していって―――
「ルカ!!」
自分の時以上に笑顔を輝かせたシアノは、一目散にルカの胸へと飛び込んでいった。
「おおっと……」
自分と同じく感激のタックルを受けたルカは、数秒目を丸くした後、穏やかに表情を和ませた。
「久しぶりだな。まったく……心配させるだけさせて、勝手にいなくなりやがって。」
「ごめんなさい…っ」
ルカが会いに来てくれたことが相当嬉しかったのか、シアノはルカの胸に顔を埋めたまま、一向に離れる気配がない。
そんなシアノの頭を、ルカは苦笑しながらなでた。
「―――で? こいつが例のレクトって奴だな。」
洞窟の奥に鎮座しているレクトを見上げたルカの瞳が、剣呑に光る。
「ほう…。レティシアで慣れているのもあるのだろうが、私を前にして少しも怯えないとは、肝が据わった奴だ。」
レクトの瞳も、興味深そうな色をたたえた。
十数秒続いた、両者の視線の絡み合い。
先に目を逸らしたのはレクトだった。
「シアノ。少しルカと話したいから、体を貸してくれるかい?」
レクトは優しく問いかける。
いつもなら断らないはずの流れだったが……
「……やだ。」
何故かシアノは、泣きそうな顔でレクトの頼みを拒絶した。
その理由を行動で示すように、シアノはルカにしがみつく。
「ぼく、ルカと一緒にいる。ルカともっとお話しするの。離れるの、嫌だもん…っ」
これでもかという力で、ルカを締め上げるシアノ。
初めてと言っても過言ではないシアノのわがままに、キリハとレクトを目を丸くする。
抱きつかれているルカもたじたじだ。
「これはこれは……ものすごい懐きようだな。」
「ルカ……シアノと何かあったの? 遊んであげたりした?」
「い、いや…? オレがしたことなんて、飯を持っていったついでに小難しい話をしたくらいで……」
本人にもここまで懐かれる心当たりがないのか、ルカの周囲には大量の疑問符が飛んでいるようだった。
「そっかぁ。」
キリハは特に話を掘り下げず、ほどほどのところで引くことにする。
経緯はどうあれ、シアノがここまで気を許せる相手がいるのは大きい。
ルカがシアノを蔑ろにしないのは分かりきっているし、シアノの相手はルカに任せてしまおう。
「ねぇ、レクト。シアノの代わりに、俺の体って使える?」
試しに訊ねてみると、レクトは首を縦に振った。
「おそらく、数十分くらいなら使えると思うぞ。この前、かなりの血を飲んだからな。」
「ならよかった。じゃあ、俺の体を使っていいんだけど……」
キリハはそこで、うーんと唸る。
「レクトに体を貸してる時って、俺はどうなるの?」
「意識だけを残すか、眠るかだな。意識を残せるといっても体を使うことはできないから、夢を見ている状態になると思えばいい。」
「なるほど。その時にレクトと会話はできる?」
「もちろん。」
「オッケー。じゃあ、どうぞ。」
レクトの前で両手を広げるキリハ。
「お前は……勇敢なんだか、無謀なんだか……」
また説教が始まるのかと思ったが、レクトは何も言うことなく、首を地面に横たえて丸くなった。
それに応えて、自分も目を閉じる。
「行くぞ。」
そんな声が響くと同時に、体を後ろから引っ張られるような感覚がした。
「……ほう。」
キリハの体に意識を移したレクトは、軽く目を瞠りながら体を動かした。
「やはり、シアノの体とは違うな。ものすごく便利に体を動かせる。」
「俺から見ると、シアノも十分身軽だと思うけどなぁ……」
レクトに相づちを入れながら、キリハは初めての感覚に浸っていた。
夢を見ている状態とは、言い得て妙だ。
この感覚は、確かにそれに近い。
夢と違うことがあるとすれば、視界が少し遠いというか、ぼやけているというか。
意識も鮮明とは言い難く、少し気を抜いたら眠ってしまいそうな微睡みがのしかかっているよう。
「慣れればどうということもなくなるが……慣れるほど何度も、お前の体を使う予定はないな。きつければ、素直に眠っていろ。話が終わったら起こしてやる。」
「分かった。」
ルカとレクトがどんな話をするのかが気になるので、意地でも眠るつもりはないけど。
……という本音は、言わないでおいた。
どうやらレクトは、ルカの訪問をお楽しみとして内緒にしていたらしい。
突然のことに、目をぱちくりとしばたたかせるシアノ。
次第に、その頬が紅潮していって―――
「ルカ!!」
自分の時以上に笑顔を輝かせたシアノは、一目散にルカの胸へと飛び込んでいった。
「おおっと……」
自分と同じく感激のタックルを受けたルカは、数秒目を丸くした後、穏やかに表情を和ませた。
「久しぶりだな。まったく……心配させるだけさせて、勝手にいなくなりやがって。」
「ごめんなさい…っ」
ルカが会いに来てくれたことが相当嬉しかったのか、シアノはルカの胸に顔を埋めたまま、一向に離れる気配がない。
そんなシアノの頭を、ルカは苦笑しながらなでた。
「―――で? こいつが例のレクトって奴だな。」
洞窟の奥に鎮座しているレクトを見上げたルカの瞳が、剣呑に光る。
「ほう…。レティシアで慣れているのもあるのだろうが、私を前にして少しも怯えないとは、肝が据わった奴だ。」
レクトの瞳も、興味深そうな色をたたえた。
十数秒続いた、両者の視線の絡み合い。
先に目を逸らしたのはレクトだった。
「シアノ。少しルカと話したいから、体を貸してくれるかい?」
レクトは優しく問いかける。
いつもなら断らないはずの流れだったが……
「……やだ。」
何故かシアノは、泣きそうな顔でレクトの頼みを拒絶した。
その理由を行動で示すように、シアノはルカにしがみつく。
「ぼく、ルカと一緒にいる。ルカともっとお話しするの。離れるの、嫌だもん…っ」
これでもかという力で、ルカを締め上げるシアノ。
初めてと言っても過言ではないシアノのわがままに、キリハとレクトを目を丸くする。
抱きつかれているルカもたじたじだ。
「これはこれは……ものすごい懐きようだな。」
「ルカ……シアノと何かあったの? 遊んであげたりした?」
「い、いや…? オレがしたことなんて、飯を持っていったついでに小難しい話をしたくらいで……」
本人にもここまで懐かれる心当たりがないのか、ルカの周囲には大量の疑問符が飛んでいるようだった。
「そっかぁ。」
キリハは特に話を掘り下げず、ほどほどのところで引くことにする。
経緯はどうあれ、シアノがここまで気を許せる相手がいるのは大きい。
ルカがシアノを蔑ろにしないのは分かりきっているし、シアノの相手はルカに任せてしまおう。
「ねぇ、レクト。シアノの代わりに、俺の体って使える?」
試しに訊ねてみると、レクトは首を縦に振った。
「おそらく、数十分くらいなら使えると思うぞ。この前、かなりの血を飲んだからな。」
「ならよかった。じゃあ、俺の体を使っていいんだけど……」
キリハはそこで、うーんと唸る。
「レクトに体を貸してる時って、俺はどうなるの?」
「意識だけを残すか、眠るかだな。意識を残せるといっても体を使うことはできないから、夢を見ている状態になると思えばいい。」
「なるほど。その時にレクトと会話はできる?」
「もちろん。」
「オッケー。じゃあ、どうぞ。」
レクトの前で両手を広げるキリハ。
「お前は……勇敢なんだか、無謀なんだか……」
また説教が始まるのかと思ったが、レクトは何も言うことなく、首を地面に横たえて丸くなった。
それに応えて、自分も目を閉じる。
「行くぞ。」
そんな声が響くと同時に、体を後ろから引っ張られるような感覚がした。
「……ほう。」
キリハの体に意識を移したレクトは、軽く目を瞠りながら体を動かした。
「やはり、シアノの体とは違うな。ものすごく便利に体を動かせる。」
「俺から見ると、シアノも十分身軽だと思うけどなぁ……」
レクトに相づちを入れながら、キリハは初めての感覚に浸っていた。
夢を見ている状態とは、言い得て妙だ。
この感覚は、確かにそれに近い。
夢と違うことがあるとすれば、視界が少し遠いというか、ぼやけているというか。
意識も鮮明とは言い難く、少し気を抜いたら眠ってしまいそうな微睡みがのしかかっているよう。
「慣れればどうということもなくなるが……慣れるほど何度も、お前の体を使う予定はないな。きつければ、素直に眠っていろ。話が終わったら起こしてやる。」
「分かった。」
ルカとレクトがどんな話をするのかが気になるので、意地でも眠るつもりはないけど。
……という本音は、言わないでおいた。
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