361 / 598
第5章 動くそれぞれ
同じ種族の目線
しおりを挟む
案の定という話だが、あれからフールとの関係は芳しくない。
会議で顔を合わせても絡んでこないフール。
そして、それに違和感を持つわけでもなく、気まずげに顔を逸らすしかない自分。
こういう時に切り込み隊長になりがちなのに、黙認するだけのルカ。
三者三様の異変を受けて、カレンやサーシャ、ディアラントやミゲルが、それとなく話を聞きに来た。
しかし、自分はそれを曖昧に受け流すしかない。
フールやルカも、固く口を閉ざしているようだ。
フールだけじゃなく、周りからの心配にも気まずくなってしまった結果、次のドラゴン討伐では、レティシアたちと後から合流することを選んだ。
本当は最前線に立つべきなんだろうけど、ドラゴンも小さかったから問題あるまい。
それに今は、ほんの少しでもいいから、周囲の目がないところに駆け込んでいたかった。
ロイリアに乗って、レティシアと共に空を駆ける。
「あんた、レクトとつるんでるんだって? ユアンから聞いたわよ。」
「………っ!!」
唐突にレティシアから問われて、びくりと体が震えた。
「……うん。」
ユアンから聞いたと言われては言い逃れもできず、キリハはこくりと頷いた。
「ふーん、そう。あんたが通える距離ってことは、案外近場に根城を構えてるのね、あいつ。」
レティシアはそうとだけ。
ユアンとは違い、自分を止めてくることはしなかった。
それを少し意外に思うと同時に、抑えきれない興味が心を満たす。
「レティシアは……レクトのこと、どう思ってるの?」
思い切って訊いてみた。
それに対するレティシアの答えは……
「え? 別に、なんとも?」
これだけである。
さすがにその答えは予期しておらず、キリハはパチパチと瞼を叩くしかなかった。
「へ…? なんともって……」
「というか、私はレクトにどうこう思えるほど、あいつのことを知らないのよ。」
昔を思い出す時によくするように、彼女は視線を遠くに据える。
「リュード様やレクトに比べたら、私はかなりの新参者だからね。そもそも、接点という接点がなかったの。レクトもレクトで、リュード様以外は同胞として認めないって感じで、自分の殻に閉じこもっているような奴だったし。まあそれを言ったら、ロイリアが生まれるまでの私も、周囲とは馴れ合わずに一人でふらふらしてたけどね。」
「そうなの…?」
「ええ。レクトと話すようになったのは……リュード様が、人間と触れ合うようになってからかしらね。」
「リュドルフリアが、人間と……」
「そう。」
自分が何を聞きたいのかは、もう察しているのだろう。
こちらが何かを問う前に、レティシアは自ら話を進めてくれた。
「人間との共存については、ドラゴンの中でも賛否両論でね。大抵の奴らはリュード様が言うならって人間を受け入れたけど、もちろんレクトみたいに全否定する奴もいた。そんで私は……どっちかっていうと、否定派だったのよね。」
ここに来て知る、意外な事実。
瞬く間に、胸の奥から不安があふれ出してくるようだった。
「それは……人間が嫌いってこと…?」
「あー、違う違う。」
面倒な展開は避けたいのか、レティシアはこちらの懸念を食いぎみに否定してきた。
「私は単純に、めんどくさいことが煩わしかっただけ。ドラゴンともつるまない私が、人間とつるむわけないじゃない。別に人間が嫌いとかじゃなくて、興味がなかったのよ。」
「そっか……」
興味がなかったと言われると複雑だが、彼女が人間を嫌っていなかったのは救いか。
なんとも表現し難い気持ちで、キリハは胸をなで下ろす。
「でも、眷竜としてリュード様に近かったのは事実だからね。そんな私が否定派の領域にいるのが、レクトとしては嬉しかったんじゃない? 一緒にリュード様を説得してくれって、よくせがまれたもんよ。」
「レティシアは、その時になんて言ったの?」
「好きにさせろってだけ。」
なるほど。
バッサリとしたレティシアらしい返答だ。
「リュード様がどうしようと、リュード様の自由でしょ? それを強制して止める権利は、私たちにないわよ。『リュード様に構ってほしいなら、頭ごなしに否定するんじゃなくて、リュード様の意思を認めながら、今までとは別の関係性を模索したら? そんなやり方じゃ、余計に距離が開いちゃうわよ?』……って、あんまりにもしつこい時には、ちょっと説教もしたっけ。」
「そっか……」
「一応、私なりに最善のアドバイスをあげたつもりだったんだけどね…。まさかあんな戦争を起こしちゃうなんて、思いもよらなかったわよ。本当に、お子様ねぇ……」
戦争という単語が引っかかって、キリハはレティシアの横顔を注視する。
レティシアは、レクトが戦争の原因だったことを知っているのだ。
それなのにこうもあっさりとした物言いなのは、本心なのか建前なのか。
人間とは違って、豊かとは言えないドラゴンの表情。
それでもアイスブルーの瞳には、無理をしてこちらに合わせている雰囲気はないように見えた。
(訊いてみても、いいかな……)
レティシアなら、また違った意見をくれるかもしれない。
固唾を嚥下して、腹を決める。
そして、根幹の話題に踏み込んだ。
会議で顔を合わせても絡んでこないフール。
そして、それに違和感を持つわけでもなく、気まずげに顔を逸らすしかない自分。
こういう時に切り込み隊長になりがちなのに、黙認するだけのルカ。
三者三様の異変を受けて、カレンやサーシャ、ディアラントやミゲルが、それとなく話を聞きに来た。
しかし、自分はそれを曖昧に受け流すしかない。
フールやルカも、固く口を閉ざしているようだ。
フールだけじゃなく、周りからの心配にも気まずくなってしまった結果、次のドラゴン討伐では、レティシアたちと後から合流することを選んだ。
本当は最前線に立つべきなんだろうけど、ドラゴンも小さかったから問題あるまい。
それに今は、ほんの少しでもいいから、周囲の目がないところに駆け込んでいたかった。
ロイリアに乗って、レティシアと共に空を駆ける。
「あんた、レクトとつるんでるんだって? ユアンから聞いたわよ。」
「………っ!!」
唐突にレティシアから問われて、びくりと体が震えた。
「……うん。」
ユアンから聞いたと言われては言い逃れもできず、キリハはこくりと頷いた。
「ふーん、そう。あんたが通える距離ってことは、案外近場に根城を構えてるのね、あいつ。」
レティシアはそうとだけ。
ユアンとは違い、自分を止めてくることはしなかった。
それを少し意外に思うと同時に、抑えきれない興味が心を満たす。
「レティシアは……レクトのこと、どう思ってるの?」
思い切って訊いてみた。
それに対するレティシアの答えは……
「え? 別に、なんとも?」
これだけである。
さすがにその答えは予期しておらず、キリハはパチパチと瞼を叩くしかなかった。
「へ…? なんともって……」
「というか、私はレクトにどうこう思えるほど、あいつのことを知らないのよ。」
昔を思い出す時によくするように、彼女は視線を遠くに据える。
「リュード様やレクトに比べたら、私はかなりの新参者だからね。そもそも、接点という接点がなかったの。レクトもレクトで、リュード様以外は同胞として認めないって感じで、自分の殻に閉じこもっているような奴だったし。まあそれを言ったら、ロイリアが生まれるまでの私も、周囲とは馴れ合わずに一人でふらふらしてたけどね。」
「そうなの…?」
「ええ。レクトと話すようになったのは……リュード様が、人間と触れ合うようになってからかしらね。」
「リュドルフリアが、人間と……」
「そう。」
自分が何を聞きたいのかは、もう察しているのだろう。
こちらが何かを問う前に、レティシアは自ら話を進めてくれた。
「人間との共存については、ドラゴンの中でも賛否両論でね。大抵の奴らはリュード様が言うならって人間を受け入れたけど、もちろんレクトみたいに全否定する奴もいた。そんで私は……どっちかっていうと、否定派だったのよね。」
ここに来て知る、意外な事実。
瞬く間に、胸の奥から不安があふれ出してくるようだった。
「それは……人間が嫌いってこと…?」
「あー、違う違う。」
面倒な展開は避けたいのか、レティシアはこちらの懸念を食いぎみに否定してきた。
「私は単純に、めんどくさいことが煩わしかっただけ。ドラゴンともつるまない私が、人間とつるむわけないじゃない。別に人間が嫌いとかじゃなくて、興味がなかったのよ。」
「そっか……」
興味がなかったと言われると複雑だが、彼女が人間を嫌っていなかったのは救いか。
なんとも表現し難い気持ちで、キリハは胸をなで下ろす。
「でも、眷竜としてリュード様に近かったのは事実だからね。そんな私が否定派の領域にいるのが、レクトとしては嬉しかったんじゃない? 一緒にリュード様を説得してくれって、よくせがまれたもんよ。」
「レティシアは、その時になんて言ったの?」
「好きにさせろってだけ。」
なるほど。
バッサリとしたレティシアらしい返答だ。
「リュード様がどうしようと、リュード様の自由でしょ? それを強制して止める権利は、私たちにないわよ。『リュード様に構ってほしいなら、頭ごなしに否定するんじゃなくて、リュード様の意思を認めながら、今までとは別の関係性を模索したら? そんなやり方じゃ、余計に距離が開いちゃうわよ?』……って、あんまりにもしつこい時には、ちょっと説教もしたっけ。」
「そっか……」
「一応、私なりに最善のアドバイスをあげたつもりだったんだけどね…。まさかあんな戦争を起こしちゃうなんて、思いもよらなかったわよ。本当に、お子様ねぇ……」
戦争という単語が引っかかって、キリハはレティシアの横顔を注視する。
レティシアは、レクトが戦争の原因だったことを知っているのだ。
それなのにこうもあっさりとした物言いなのは、本心なのか建前なのか。
人間とは違って、豊かとは言えないドラゴンの表情。
それでもアイスブルーの瞳には、無理をしてこちらに合わせている雰囲気はないように見えた。
(訊いてみても、いいかな……)
レティシアなら、また違った意見をくれるかもしれない。
固唾を嚥下して、腹を決める。
そして、根幹の話題に踏み込んだ。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい
広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」
「え?」
「は?」
「いせかい……?」
異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。
ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。
そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!?
異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。
時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。
目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』
半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。
そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。
伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。
信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。
少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。
====
※お気に入り、感想がありましたら励みになります
※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。
※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります
※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる