360 / 598
第5章 動くそれぞれ
ルカの提案
しおりを挟む「俺だって、理想論だけでレクトを信じたいわけじゃないよ。」
ぽつぽつと、キリハは複雑な胸中を語る。
「レクトが迷ってるってことは……その答えによっては、レクトがまたドラゴン大戦を起こすかもしれない。それなりに、そういう危機感は持ってるつもり。」
「それで、どう思ってるんだ?」
ルカは静かに先を促してくれる。
「レクトの友達になりたいって気持ちに嘘はないけど……もう二度と、あんな戦争が起こらないようにしたい。だって、きっかけはレクトだったとしても、戦争をして相手を傷つけたのは人間も同じだもん。レクトを変えるチャンスをもらえたのが俺だけなら、俺が頑張らなきゃいけないでしょ。」
「………」
ルカは、すぐに意見を述べてこなかった。
口元に手を当てて、じっくりと吟味するように、しばし黙り込む。
「……お前にしては、珍しく論理的に説得力のある意見だな。」
長い沈黙の後、ルカはそう告げた。
そして次に、まっすぐにこちらを見てくる。
「じゃあ訊こう。そこまではっきりとした考えがあるのに、何が気になって、そんな不安そうな顔をしてるんだ? 今までのお前なら、批判なんて気にせずに突っ走るだろ?」
「それは……」
思わず言い澱んでしまう。
胸に湧き上がるのは、昨日の出来事に対する罪悪感。
そしてそれは、ルカに筒抜けのようだった。
「当ててやろうか? 悪意はなかったとはいえ、ユアンを切り捨てるような態度を取ったのが申し訳ないんだろ?」
「………」
図星なので、黙るしかない。
そこからルカも思案げな表情で口を閉ざし、その場は時おり風が吹くだけの静寂に満たされた。
「……そんなに不安なら、オレもレクトに会ってみようか?」
ルカからされた提案。
一瞬何を言われたのか分からなくて、反応するまでに数秒はかかった。
「………えっ!?」
地面に視線を落としていたキリハは、信じられない気持ちでルカを見つめる。
当人のルカは、至って平常心だった。
「お前もユアンも、今は自分が信じたいものしか見えてねぇみたいだからな。間に第三者の目が入った方が、少しは冷静に話し合いができるだろ。」
「でも……いいの?」
まさか、ルカがこんなことを言ってくるなんて。
あんなに差別を嫌っている彼なら、レクトのことを全否定してもおかしくないと思っていたのに。
「複雑ではあるけどな。」
そう呟いて、ルカは細く息を吐いた。
「今のオレには、いまいち判断がつかねぇ。レクトがドラゴン大戦を引き起こしたことか、それ以前にユアンとリュドルフリアが血を交わしたことか…。そのどっちに、オレたちがこんな目に遭うことになった原因があったのか。」
それは、物事を多角的に俯瞰できるが故の悩みなのかもしれない。
一概にレクトが悪いとは言わなかった彼は、自身で言うとおり複雑そうな雰囲気を醸していた。
「だからオレは今のところ、レクト側にもユアン側にもつかない。そんなオレだからこそ、限りなく中立的な立場でレクトやユアンの話を聞けるだろ? その結果次第で、お前と一緒にユアンを説得するか、ユアンと一緒にお前を説得するかが変わるけどな。」
「ルカ…」
「それにこの件については、オレくらいしか巻き込める人間がいないんじゃねぇか? お前がレクトと話ができたのも、シアノっていう共通の繋がりがあったからだ。その条件を他に満たしているのは、オレと兄さんだけ。兄さんはドラゴンに耐性がないし、つい最近倒れたばっかだし、お前としては無理をさせたくないだろ?」
「うん。」
エリクに無理をさせたくないのは絶対なので、キリハは即で頷いた。
「異論がないなら決まりだな。今度レクトの所に行く時には、オレにも声をかけろよ。」
ある程度の方向性が固まって気が済んだのか、ルカが先にベンチから立ち上がった。
去っていこうとするその背中に、キリハは慌てて声をかける。
「ルカ、ありがとう!」
「……別に。」
ルカは、いつものように淡白な口調でそう言って、バルコニーを出ていった。
「……オレは、そこまでお人好しじゃねぇよ。」
幾分か顔色がよくなったキリハとは対照的に、ルカの菫色と赤の双眸には、切れるように鋭い光が宿っている。
「オレには、オレの目的があるだけだ。」
その呟きは、キリハには届いていない―――
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる