竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
357 / 598
第4章 亀裂

衝突の裏で―――

しおりを挟む
 キリハとフールが衝突を起こしていた一方。


 隣の部屋では、そこに押しかけたジョーと、とばっちりを受けた部屋のあるじであるルカが、話の一部始終を盗み聞きしていた。


「あらあら……フール様ったら、焦りすぎ。キリハ君に自分の正体がばれちゃったじゃないの。」


 壁から集音装置を外し、ジョーはおどけた口調でそんな感想を漏らす。


「つーことは、フールがユアンだっていうのは、本当なんだな……」


 ルカは辟易へきえきと溜め息をつく。


 まったく。
 突然インターホンを鳴らして、こちらがドアを開けるなり問答無用で上がり込んできやがって。


 何やら壁に機械をセッティングしたと思ったら、無駄に性能がいいスピーカーのせいで、自分までとんでもない話を聞かされるはめになったじゃないか。


 ……まあ、ジョーが一人で隣の会話を聞いたとしたら、結局どういうことかと問い詰めただろうが。


「あれぇ、案外冷静だね?」


 こちらの反応が意外だったのか、ジョーが無駄に可愛らしく目を丸くする。
 余計に溜め息をつきたくなった。


「まあ、想定の範囲内だったからな。現実的かっていう固定概念を取っ払えば、それが一番しっくりくる仮説だろ?」 


「ふーん?」


 ジョーは意味ありげに語尾を上げる。


「君って固定概念の塊みたいな子だと思ってたけど、キリハ君の柔軟性でも移ったの?」


 その指摘に、ルカは思わず舌を打つ。


 本当にこいつは、いちいち嫌味な言い方をしないと気が済まないのか。
 キリハとは違う次元で、殴りたくなる奴だ。


 だが、キリハのように殴ったところで、この鉄壁の笑顔は崩せまい。
 こいつに効くのは別の切り口だ。


「頭が固くて悪かったな。そう言うお前は、固定概念とは違う何かで目がくらんでんじゃねぇか?」
「おや、君からは僕がそんな風に見えるの?」


「そうじゃなきゃ、にはならないんじゃねぇか? 竜使いでもねぇくせにな?」
「………」


 仕返しのつもりで吹っかけた言葉は効果抜群。
 一瞬でジョーの笑顔が消え去った。


 さて。
 多少溜飲も下がったし、これくらいにしておこう。


 火花が散る睨み合いをやめたのは、ルカが先だった。


「まあ、オレからはこれ以上突っ込まねぇよ。そこまでの目になる経緯なんざ、聞いたところで胸くそが悪くなるだけだろうからよ。」
「そう…。久々に堂々と喧嘩を売られたから、買ってあげようと思ったのに。」


「やめとくわ。さっきの突っ込みは、お前の嫌味に対する仕返しってだけだ。」
「つまんないの。」


「そう言う割には、動揺したくせに。」
「………」


 おっと。
 売り言葉に買い言葉で、余計なことを言ってしまった。


 このままでは、本気でこいつと全面戦争になりかねない。
 下手なフォローも逆効果だろうし、ここは手っ取り早く話題を変えるか。


 ルカは肩を落とし、すでに用意していた―――というか、本題だった話に切り込むことにする。


「で? あの馬鹿は、今度はどんな厄介事に首を突っ込んでんだ?」
「あらぁ? 聞きたい? ルカ君も一緒に、危険な綱渡りでもする?」


 瞬時に元の笑顔に戻るジョー。
 その清々しいまでの切り替えには何も触れず、ルカは肩を落とした。


「隣であんだけ騒がれりゃ、誰だって気になるだろうが。こんな話を聞けば、どのみちお前に話を聞き出しに行っただろう。とばっちりとはいえ、お前がオレんとこに来てくれたのはラッキーだったな。」


「ええー? ドラゴンに関する話なのに、僕に情報を求めてくるの?」


 口調こそふざけてはいるものの、ジョーは含み笑い。
 その笑顔の理由は言わずもがななので、ルカはしかめっ面で頬杖をつくだけ。


「アホか。お前とフールがつるんでるのは、とっくのとうに気付いてるからな?」
「……ふふ。さすがだねぇ。やっぱり君って、キリハ君以上に見所がありそう。」


 こちらを試した結果、満足のいく回答を得られたのだろう。
 ジョーはあやしく笑みを深める。


 こいつは、一体何を企んでいるのやら。
 こちらとしては、その笑顔が薄ら寒くて仕方ない。


「お前に気に入られると、やべぇ世界を見せられることになりそうで嫌だな。」
「弁護士なんかになったら、そのうち嫌でも見ることになると思うけどね。」
「……ま、確かに。」


 そう言われたら、反論できる言葉も情報もない。


 ルカは特に動じることなくそう言うにとどめると、ぐいっとジョーに詰め寄った。
 無言で彼の胸ぐらを掴んで引き寄せるが、彼は驚かずに〝何か?〟と眉を上げるだけだ。


「ここから先は取引だ。とりあえずお前は、オレの部屋を勝手に使った分の情報を吐いていけ。」
「ふふふ。いいよ?」


 ジョーの笑顔に含まれる妖しさが、どこか危険な甘さを伴う。


「特別に、この件についての情報は全部渡してあげる。君にはオークスさんの実験台になってもらいたかったし、ちょうどいいや。」


「……しゃあねぇな。聞いた情報次第で考えてやるよ。」


 互いに一線を保ったままの、協力とは言えない関係ではあるが……とりあえず、この場は取引成立である。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

ロンガニアの花 ー薬師ロンの奔走記ー

MIRICO
恋愛
薬師のロンは剣士セウと共に山奥で静かに暮らしていた。 庭先で怪我をしていた白豹を助けると、白豹を探す王国の兵士と銀髪の美しい男リングが訪れてきた。 尋ねられても知らんぷりを決め込むが、実はその男は天才的な力を持つ薬師で、恐ろしい怪異を操る男だと知る。その男にロンは目をつけられてしまったのだ。 性別を偽り自分の素性を隠してきたロンは白豹に変身していたシェインと言う男と、王都エンリルへ行動を共にすることを決めた。しかし、王都の兵士から追われているシェインも、王都の大聖騎士団に所属する剣士だった。 シェインに巻き込まれて数々の追っ手に追われ、そうして再び美貌の男リングに出会い、ロンは隠されていた事実を知る…。 小説家になろう様に掲載済みです。

この青く澄んだ世界は希望の酸素で満ちている

朝陽七彩
恋愛
ここは。 現実の世界ではない。 それならば……? ❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋ 南瀬彩珠(みなせ あじゅ) 高校一年生 那覇空澄(なは あすみ) 高校一年生・彩珠が小学生の頃からの同級生 ❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋✵❋

老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪
ファンタジー
世界には多種多様な種族が存在する。 人間、獣人、エルフにドワーフなどだ。 その中でも最強とされるドラゴンも輪の中に居る。 最強でも最弱でも、共通して言えることは歳を取れば老いるという点である。 この物語は老いたドラゴンが集落から追い出されるところから始まる。 そして辿り着いた先で、爺さんドラゴンは人間の赤子を拾うのだった。 それはとんでもないことの幕開けでも、あった――

処理中です...