竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
336 / 598
第3章 崩れ始める平穏

芽生えた迷い

しおりを挟む
 会議終了後、二人で訓練をしてくるという建前でシミュレート室にこもった。




「シアノの父親が、ドラゴンだったあ?」




 昨日の経緯を聞いたルカの第一声はそれだった。


 さすがに予想外だったのか、普段のしかめっ面は綺麗に吹っ飛び、純粋な驚きだけがその表情を満たしている。


「はあ…」


 ゆうに十秒ほどが経過してから、ルカは大仰な溜め息を吐き出した。


「なんの因果なんだかな…。ドラゴンなんかこりごりだってのに、どこまでドラゴン三昧ざんまいにさせる気だよ……」


 心底現状を嘆く声が、今は耳に痛い。


「………」


 キリハは黙して、床に視線を落とす。


 さすがに、ルカにドラゴン大戦にまつわる話はできなかった。


 いくらシアノと関わりがあったとはいっても、こんな話を聞いてしまったら、ルカはレクトを嫌うだろう。
 というか、これはルカだけじゃないはずだ。


 あの戦争の真実を聞いて、それでもレクトの友になりたいと思った自分の方が少数派なのだ。
 それは、言われずとも分かっている。


「だから、関わっちゃいけない……か。」
「え…?」


 ふいにルカがそう呟いたので、キリハは顔をあげる。
 それに対し、ルカは何やら思案げな様子で口を開いた。


「いや……シアノを拾った時、フールの奴がやたらと慌ててたのを思い出したんだ。」
「あ…」


 そういえば、そんなこともあった。
 指摘されてそこに思い至るキリハの前で、ルカは自身の推測を述べる。


「レティシアたちのことも普通に知ってたあいつだ。十中八九、レクトのことも知ってるんだろう。そしてシアノの話を聞いた時、レクトがオレたちに接触する可能性を危ぶんだ……そう考えるのが筋か。あいつがレクトの何をそこまで危険視しているのか、そこまでは分からねぇけど……」


「………」


 考え込むルカに、キリハは何も言えない。
 それはルカ同様に答えが分からないのではなく、答えを知っているからこその無言だった。


 きっとフールは、ドラゴン大戦の真実を知っているのだ。
 そしておそらくは、レクトに手を差し伸べた結果、自ら命を絶ったという少女のことも。


 もしもそれを知っていて―――いや、その場にいて、実際に悲しい思いをしたのだとしたら……


 フールにとってレクトは、とても手を伸ばせる相手ではあるまい。
 どちらかといえば人間寄りの物言いをするフールのことだから、レクトを憎んでさえいるかもしれない。


 そう考えると、あの時の彼の動揺にも納得がいく。
 レクトに関わった人間がまた死んでしまうと思ったら、自分だって動揺するだろう。


 ルカの推測を通して見えた、あの時のフールの気持ち。
 そこに共感はできるけど……




(ここからやり直す方法は……ないのかな…?)




 そう思ってしまうこの気持ちは、間違ったものなのだろうか…?

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

グレイ

☆リサーナ☆
ファンタジー
これは、人間(白)でも魔物(黒)でもない。 人型魔物(灰色)の私達の物語りだーー。 人間と魔物の混血で産まれ、その正体を家族や親しい一部の者達以外には隠して生きる望月 紫愛(もちづき シア)と、その兄である望月 弥夜(もちづき やよい)。 どんなに辛い事があっても、同じ血を持つ兄の存在が何よりも心の支えだった紫愛。 しかし、兄の弥夜には秘密があってーー……。 月、水、金。週に3回更新です٩( 'ω' )و 2024.12.25(水) 公開•連載開始

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...