竜焔の騎士

時雨青葉

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第2章 300年前の真実

それぞれの笑み

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「では、そろそろシアノに体を返してやるとするか。本当はお前たちに会いたかったのに、必死に寂しいのを我慢していたようだからな。」


 静かに目を閉じるレクト。
 そこから静寂が満ちて、数秒。


「―――っ!!」


 ハッと、シアノが両目を開いた。
 しかし寂しがっていたという割に、シアノはキリハに近づきはしない。


「キリハ……」


 何故か泣きそうな顔をするシアノは、自身の感情を逃がすようにレクトにしがみつく。
 まさかの反応にキリハが戸惑っていると、ドラゴンの体に戻ったレクトが、シアノに優しく頭をすり寄せた。


「安心しなさい。お話なら、平和に終わったよ。今のキリハには、私の声が聞こえている。」
「!!」


 それが、どういう意味なのか。
 四年もレクトと共に過ごしてきたシアノには、すぐに理解できたのだろう。


 しばらくレクトを見つめていたシアノは、おそるおそるといった様子でキリハに目を向けた。


「本当に…? 本当に、ぼくたちの仲間になってくれるの?」


 半信半疑で揺れる声。
 しかしその眼差しだけには、明らかな期待がこもっていた。


 それに応えて、キリハは微笑む。


「うん。大丈夫だよ。」


 仲間だなんて、そもそも敵に回ろうとすら思ったことはないのに。
 それに、初めて会った時も自分たちは味方だよって言わなかったっけ?


 そんなことを思いもしたが、今ならシアノがその言葉を受け入れられるんだとしたら。
 自分は、何度でもこう言ってあげよう。


「………っ」


 それを聞いたシアノが、ぱあっと表情を明るくする。
 自分が初めて見る、満面の笑顔だった。


「やったぁ!」
「うわわっ…」


 次の瞬間、シアノにタックルの勢いで抱きつかれ、キリハはたたらを踏むことになった。


「よかった…。これで、キリハとはバイバイしなくていいんだ…っ」


 そう言って、シアノはキリハに抱きつく腕に力を込めた。


 本当に、本当に嬉しそうな顔。
 それを見て、今度は自分の方が泣きそうな気持ちになってしまった。


「……そうだよね。好きなのにバイバイなんて……本当は、嫌だったよね。」
「うん……うん…っ」


 ぐりぐりと頭を押しつけてくるシアノ。


 不安だった。
 寂しかった。
 本当は会いたかった。


 小さな体温に、全力でそう訴えられているようだった。


 こんなに好きになってくれていたのに、どうしてシアノは無理に〝バイバイ〟なんて言ったんだろう。
 少し考えて、なんとなく想像できた。


 この国で生きている以上、シアノだってドラゴンと人間の確執は知っているはず。
 もしかしたら、レクトからも言い聞かされていたかもしれない。


 それなら、容易に想像がつくだろう。
 ドラゴンと暮らす自分が、人間の中では異分子だということを。


 両親に捨てられたシアノにとって、レクトは唯一の頼れる存在。
 それなら、当然のようにレクトを優先する。


 初めて好きになった人間に、さよならを告げてでも。


 自分も、レティシアたちの問題がこじれていたら、人間を捨ててレティシアたちと逃げていたかもしれない。


 実際にそんな迷いを抱いたことがあるだけに、シアノの選択を他人事にはできなかった。


(こんな顔をされたら……嘘でも離れるなんて言えないよ。)


 顔を歪めたキリハはシアノの前にゆっくりとしゃがんで、その体を強く抱き締めてやる。


「大丈夫だよ。何があっても、味方でいるから。」


 シアノの気持ちに応えるように、こちらも全力の気持ちを伝える。


「えへへ……」


 シアノが幸せそうに笑う雰囲気を感じて、キリハも笑う。


 そんな二人を眺めるレクトもまた、ふいに口の端を吊り上げるのだった。

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