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第2章 300年前の真実
レクトの疑問
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そこまで語ったレクトは、ふっと笑みを深めた。
「それから私は、最初の子供を足がかりに、人間の中に手下を作った。早々に血を与えることをやめたリュドルフリアは知らぬかもしれんが、ある程度血を濃くしておけば、その人間の血を与えることでも、私の意識を忍び込ませることができるようでな。手下を増やすのは簡単だったぞ?」
どこか楽しげに。
レクトは肩を震わせる。
「当時の竜使いは、相当な権力を持っていてな。国の中枢に入り込むのも、さほど手間ではなかった。あとは手頃な同胞を私の血で狂わせ、私の傀儡になった人間を使って周りを煽ってやれば―――醜い殺し合いの始まりだ。」
「そん……な……」
キリハは青い顔で、そう呟くのがやっと。
今目の前にいる存在が、三百年前の戦争を引き起こした。
当然ながら、すぐには話を飲み込めなかった。
「しかし……よく分からんな。」
茫然とするキリハの前で、レクトがふと呟く。
「リュドルフリアとユアンの言い分では、人間とは美しい生き物だという話だったが……あれが、果たして美しいと言えるのか?」
「……どういう意味?」
レクトの口調が変わったのを察し、キリハはどうにか相づちを打って、話の続きを促す。
「確かに私は、人間とドラゴンの間に争いの種を蒔いた。しかしそれ以降は……あえて、人間たちから手を引いたのだ。」
「手を引いた…?」
「ああ。一思いに滅ぼしてやるのもよかったが、少し試してみようと思ったのだ。本当に人間が美しい生き物なのだとしたら―――これまでに積み上げてきた信頼を取るのではないかと、そう思ってな。」
「!!」
そこで、レクトが言いたいことの一端に辿り着く。
戦争のきっかけはレクトだった。
しかし、それをひどくしたのは―――
その推測どおり、レクトはこう告げる。
「しかし人間は、争いをやめる素振りも見せなかったな。ドラゴンとあらば見境なく殺すようになり……果てには、最前線で戦っていた竜使いにまで悪意を向けるようになった。これのどこが美しいと?」
「………っ」
「ふふ。お前には、否定できまいな。竜使いの血を引いているせいで、散々理不尽な目に遭ってきただろうから。」
「………」
レクトが言うように否定できる余地がなくて、キリハはうつむいて黙るしかなくなる。
レクトはシアノの小さな手を見つめ、深く考え込むように瞼を伏せた。
「正直……今でも分からない。シアノの目を通してお前やエリクたちを眺めて……余計に分からなくなった。」
「え…?」
分からなくなった、とは?
キリハが慌てて顔を上げると、レクトは不思議そうな顔をした。
「お前はシアノに似て、純粋すぎて察しが悪いな。よく考えてみろ。一度は戦争を起こすまで人間を呪った私が、何故今まで人間を放置してきたと思うのだ?」
「………っ!!」
言われてみれば、確かに違和感がある。
ユアンをきっかけに人間を嫌い、戦争を通して人間の美しさを試したレクト。
その結果がよくなかったことは、今しがたの彼の発言が物語っている。
当時のレクトには、人間を生かす理由がない。
人間が戦争をひどくするなら、こちらも応戦してやるかと。
そう考えて、戦争をさらに悪化させてもおかしくない。
「本当はあの時、同胞の全てを狂わせてでも、人間を駆逐してしまおうと思っていた。」
今まさに思ったことを、レクトが自ら口にする。
「しかし……ある少女が、最後の最後で私を引き止めたのだよ。」
そう言って微かに微笑むレクトの表情に宿るのは、確かな愛情のように見えた。
「それから私は、最初の子供を足がかりに、人間の中に手下を作った。早々に血を与えることをやめたリュドルフリアは知らぬかもしれんが、ある程度血を濃くしておけば、その人間の血を与えることでも、私の意識を忍び込ませることができるようでな。手下を増やすのは簡単だったぞ?」
どこか楽しげに。
レクトは肩を震わせる。
「当時の竜使いは、相当な権力を持っていてな。国の中枢に入り込むのも、さほど手間ではなかった。あとは手頃な同胞を私の血で狂わせ、私の傀儡になった人間を使って周りを煽ってやれば―――醜い殺し合いの始まりだ。」
「そん……な……」
キリハは青い顔で、そう呟くのがやっと。
今目の前にいる存在が、三百年前の戦争を引き起こした。
当然ながら、すぐには話を飲み込めなかった。
「しかし……よく分からんな。」
茫然とするキリハの前で、レクトがふと呟く。
「リュドルフリアとユアンの言い分では、人間とは美しい生き物だという話だったが……あれが、果たして美しいと言えるのか?」
「……どういう意味?」
レクトの口調が変わったのを察し、キリハはどうにか相づちを打って、話の続きを促す。
「確かに私は、人間とドラゴンの間に争いの種を蒔いた。しかしそれ以降は……あえて、人間たちから手を引いたのだ。」
「手を引いた…?」
「ああ。一思いに滅ぼしてやるのもよかったが、少し試してみようと思ったのだ。本当に人間が美しい生き物なのだとしたら―――これまでに積み上げてきた信頼を取るのではないかと、そう思ってな。」
「!!」
そこで、レクトが言いたいことの一端に辿り着く。
戦争のきっかけはレクトだった。
しかし、それをひどくしたのは―――
その推測どおり、レクトはこう告げる。
「しかし人間は、争いをやめる素振りも見せなかったな。ドラゴンとあらば見境なく殺すようになり……果てには、最前線で戦っていた竜使いにまで悪意を向けるようになった。これのどこが美しいと?」
「………っ」
「ふふ。お前には、否定できまいな。竜使いの血を引いているせいで、散々理不尽な目に遭ってきただろうから。」
「………」
レクトが言うように否定できる余地がなくて、キリハはうつむいて黙るしかなくなる。
レクトはシアノの小さな手を見つめ、深く考え込むように瞼を伏せた。
「正直……今でも分からない。シアノの目を通してお前やエリクたちを眺めて……余計に分からなくなった。」
「え…?」
分からなくなった、とは?
キリハが慌てて顔を上げると、レクトは不思議そうな顔をした。
「お前はシアノに似て、純粋すぎて察しが悪いな。よく考えてみろ。一度は戦争を起こすまで人間を呪った私が、何故今まで人間を放置してきたと思うのだ?」
「………っ!!」
言われてみれば、確かに違和感がある。
ユアンをきっかけに人間を嫌い、戦争を通して人間の美しさを試したレクト。
その結果がよくなかったことは、今しがたの彼の発言が物語っている。
当時のレクトには、人間を生かす理由がない。
人間が戦争をひどくするなら、こちらも応戦してやるかと。
そう考えて、戦争をさらに悪化させてもおかしくない。
「本当はあの時、同胞の全てを狂わせてでも、人間を駆逐してしまおうと思っていた。」
今まさに思ったことを、レクトが自ら口にする。
「しかし……ある少女が、最後の最後で私を引き止めたのだよ。」
そう言って微かに微笑むレクトの表情に宿るのは、確かな愛情のように見えた。
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