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第1章 見え隠れする白い影
シアノの父親
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シアノを追いかけ始めて、数時間。
病院を出た時には空にあった太陽は、とっくのとうに沈んだ。
街をどんどん通り抜けた結果、人はまばらに。
歩く道も綺麗に舗装されていた道路から、砂利道へと変わっている。
しかし、シアノは歩みを止める素振りも見せず、街灯が少ない小路を、さらに闇の方へと進んでいく。
(どこまで行くの…?)
ここに至るまで、どのくらい歩いたのか分からない。
自分ですら足が痛くなってきたというのに、シアノの歩調はしっかりしたものだった。
ものすごい体力と脚力だ。
普段からこの距離を行き来していたんだとしたら、あのすばしっこさにも納得がいく。
「………」
シアノの後を追いながら、キリハはふとポケットに手を入れる。
電源を切ったせいで、一切鳴らない携帯電話。
正確な時間は分からないが、日が沈んでからかなり経つ。
きっと今頃、皆が心配しているだろう。
(みんな、ごめん。でも、今は―――……)
心の中だけで宮殿の人々に謝り、キリハはまた前を向いた。
さらに時間をかけて道を歩くと、周囲の景色が完全に木々で閉ざされた。
そして、地面はそこそこ険しい上り坂へと変わる。
どうやら、山を登っているようだ。
ここまで来ると、道なんてあってないようなもの。
人の姿も全く見えなくなった。
これは、非常に高難度の尾行ミッションだ。
シアノを見失わないように距離を調整しつつ、シアノが物音を立てたタイミングで自分も大きく移動する。
極限まで息を殺し、ありとあらゆるものに注意を向ける。
ある意味、人生で一番緊張している時間だったかもしれない。
山の奥深くへと分け入ること、しばらく。
シアノは山の中腹辺りで、上に登るルートから、斜面に沿って横に移動するようなルートに進行方向を変えた。
それからほどなくして、山の中にぽっかりと開けた平地に出る。
まだシアノに見つかりたくはないので、木々の隙間からシアノの行き先を窺う。
暗くて分かりにくいが、この先に洞窟があるようだ。
シアノは、迷いなく洞窟の中へと入っていく。
その姿が完全に闇に溶けたところで、キリハも森を抜けて洞窟に飛び込んだ。
そこからは月明かりすらも失うことになったので、微かな足音を頼りに進む。
「ただいま、父さん。」
ふと聞こえてきたのは、かなり久しぶりに聞くシアノの声。
それから十数秒くらい経って、前方の曲がり角の奥で仄かな明かりが灯る。
(こんな場所に、お父さんが…?)
脳裏によぎるのは違和感。
確かにこんな山奥の洞窟で暮らしていれば、都会とは無縁の生活になるだろう。
だが、何が理由でこんな場所を住処としたのか。
ここまで来たのだ。
得られる情報は全て得てからじゃないと帰れない。
キリハは唾を飲み込み、岩肌に手を添えて、ゆっくりと曲がり角の向こうを覗き込む。
「―――うそ……」
それ以上、言える言葉がなかった。
柔らかい明かりに照らされ、幸せそうに笑うシアノ。
そんなシアノに身をすり寄せているのは―――大きくて真っ黒なドラゴンだった。
病院を出た時には空にあった太陽は、とっくのとうに沈んだ。
街をどんどん通り抜けた結果、人はまばらに。
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しかし、シアノは歩みを止める素振りも見せず、街灯が少ない小路を、さらに闇の方へと進んでいく。
(どこまで行くの…?)
ここに至るまで、どのくらい歩いたのか分からない。
自分ですら足が痛くなってきたというのに、シアノの歩調はしっかりしたものだった。
ものすごい体力と脚力だ。
普段からこの距離を行き来していたんだとしたら、あのすばしっこさにも納得がいく。
「………」
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きっと今頃、皆が心配しているだろう。
(みんな、ごめん。でも、今は―――……)
心の中だけで宮殿の人々に謝り、キリハはまた前を向いた。
さらに時間をかけて道を歩くと、周囲の景色が完全に木々で閉ざされた。
そして、地面はそこそこ険しい上り坂へと変わる。
どうやら、山を登っているようだ。
ここまで来ると、道なんてあってないようなもの。
人の姿も全く見えなくなった。
これは、非常に高難度の尾行ミッションだ。
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極限まで息を殺し、ありとあらゆるものに注意を向ける。
ある意味、人生で一番緊張している時間だったかもしれない。
山の奥深くへと分け入ること、しばらく。
シアノは山の中腹辺りで、上に登るルートから、斜面に沿って横に移動するようなルートに進行方向を変えた。
それからほどなくして、山の中にぽっかりと開けた平地に出る。
まだシアノに見つかりたくはないので、木々の隙間からシアノの行き先を窺う。
暗くて分かりにくいが、この先に洞窟があるようだ。
シアノは、迷いなく洞窟の中へと入っていく。
その姿が完全に闇に溶けたところで、キリハも森を抜けて洞窟に飛び込んだ。
そこからは月明かりすらも失うことになったので、微かな足音を頼りに進む。
「ただいま、父さん。」
ふと聞こえてきたのは、かなり久しぶりに聞くシアノの声。
それから十数秒くらい経って、前方の曲がり角の奥で仄かな明かりが灯る。
(こんな場所に、お父さんが…?)
脳裏によぎるのは違和感。
確かにこんな山奥の洞窟で暮らしていれば、都会とは無縁の生活になるだろう。
だが、何が理由でこんな場所を住処としたのか。
ここまで来たのだ。
得られる情報は全て得てからじゃないと帰れない。
キリハは唾を飲み込み、岩肌に手を添えて、ゆっくりと曲がり角の向こうを覗き込む。
「―――うそ……」
それ以上、言える言葉がなかった。
柔らかい明かりに照らされ、幸せそうに笑うシアノ。
そんなシアノに身をすり寄せているのは―――大きくて真っ黒なドラゴンだった。
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*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています
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