竜焔の騎士

時雨青葉

文字の大きさ
上 下
315 / 598
【第6部】エピローグ

破滅をもたらす囁き

しおりを挟む

「おや、もう眠ったか。」


 あっという間に呼吸が深くなったシアノを見下ろし、レクトは微かに目を細めた。


 幸せそうな顔をして眠るものだ。




 その幸せが―――盲信の上に立つ虚像だとは知らずに。




「ふふ、愛しているよ。愚かしいほどに純真な、愛しい私のお人形さん。」


 この子は一度こちらを疑いかけながらも、結局は人間を信じきれずにここへ戻ってきた。
 そして今は、必死にこちらが正しいのだと信じようとしている。


 いや。
 そう思い込もうとしている、と表現した方が正しいだろうか。


 それも致し方あるまい。
 この子の居場所は、ここにしかないのだ。
 仮に他に居場所があるのだとしても、この子はそれにすがることができないだろう。


 人間は醜いと。
 今はよくとも、いつかは裏切る生き物なのだと。
 そして、いずれは滅びていなくなる存在なのだと。


 シアノを拾ったあの日から、毎日のようにそう言い聞かせてきたのだから。


 そんなシアノに、ものの数日でここまでの影響を与えるとは……


 今の《焔乱舞》のあるじは、本当に厄介だ。
 ユアンと同じ、もしかするとそれ以上かもしれない。


「ふふふ……」


 レクトはひっそりと笑う。


 彼は、ユアンとリュドルフリアにとっての希望。
 だがそれと同時に、彼らにとっての脅威にもなりうる危うさも秘めている。


 シアノの目を通してキリハを見つめて、それを確信した。
 ならばきっと、壊すのはそう難しいことではないだろう。


「私も、少し興味が湧いてきたよ。それに、シアノにああ言ってしまったしなぁ…。次は、私が直接動いてみるとしよう。」


 ―――さて、彼はどんな風に踊ってくれるだろうか。


 きっと彼は、あの日の彼女のように簡単に心を許すだろう。
 その先に待ち構える絶望を前に、彼はどんな選択を下すだろうか。


 彼女のように、自ら朽ちる道を選ぶか。
 はたまた、こちらが望む殺戮兵器となるか。


 別にどちらでも構わない。
 人間とドラゴンが共に歩む世界などという幻想を、完膚なきまでに潰せるのなら。




 そして彼らが、心の底から絶望して立ち直れなくなるのなら―――




「楽しみに待っているといい。ユアン、リュドルフリア。」


 呟き、レクトはシアノの横に首を横たえる。
 そして、静かに目を閉じた。




 きしんだ歯車が、耳ざわりな音を立てて動いていく―――




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 【第6部】はこれで完結となります。
 ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございました。


 【第7部】あらすじ


 シアノとの別れから数ヶ月。
 キリハはとある悩みを抱えながら、未だにシアノへの未練を断ち切れずにいた。


 そんな折、ルカの元にエリクが倒れたとの一報が入る。
 慌てて病院に駆けつけたルカとキリハ。


 やたらと深刻そうなエリクから聞いたことは―――シアノを見た!?


 そしてそれから間を置かず、キリハもシアノの姿を見かけることに。
 小さな姿を思わず追いかけるキリハ。


 その先で見たものは―――……




 1つの出会いが、これまでの人物関係を大きく変える!!




 過去を巡って、キリハとフールが真っ向から対立!
 その裏で、ルカとジョーの間では取引成立!?


 さまざまな人物が揺れ動く中、これまで父の言うことを聞くだけだったシアノも、ささやかな変化を見せ始め―――


 第8部までノンストップで駆け抜ける、怒涛の1幕!


 どうぞ、第7部もよろしくお願いいたします!




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」 「え?」 「は?」 「いせかい……?」 異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。 ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。 そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!? 異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。 時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。 目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』 半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。 そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。 信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。 少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。 ==== ※お気に入り、感想がありましたら励みになります ※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。 ※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります ※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

処理中です...