竜焔の騎士

時雨青葉

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【第6部】エピローグ

破滅をもたらす囁き

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「おや、もう眠ったか。」


 あっという間に呼吸が深くなったシアノを見下ろし、レクトは微かに目を細めた。


 幸せそうな顔をして眠るものだ。




 その幸せが―――盲信の上に立つ虚像だとは知らずに。




「ふふ、愛しているよ。愚かしいほどに純真な、愛しい私のお人形さん。」


 この子は一度こちらを疑いかけながらも、結局は人間を信じきれずにここへ戻ってきた。
 そして今は、必死にこちらが正しいのだと信じようとしている。


 いや。
 そう思い込もうとしている、と表現した方が正しいだろうか。


 それも致し方あるまい。
 この子の居場所は、ここにしかないのだ。
 仮に他に居場所があるのだとしても、この子はそれにすがることができないだろう。


 人間は醜いと。
 今はよくとも、いつかは裏切る生き物なのだと。
 そして、いずれは滅びていなくなる存在なのだと。


 シアノを拾ったあの日から、毎日のようにそう言い聞かせてきたのだから。


 そんなシアノに、ものの数日でここまでの影響を与えるとは……


 今の《焔乱舞》のあるじは、本当に厄介だ。
 ユアンと同じ、もしかするとそれ以上かもしれない。


「ふふふ……」


 レクトはひっそりと笑う。


 彼は、ユアンとリュドルフリアにとっての希望。
 だがそれと同時に、彼らにとっての脅威にもなりうる危うさも秘めている。


 シアノの目を通してキリハを見つめて、それを確信した。
 ならばきっと、壊すのはそう難しいことではないだろう。


「私も、少し興味が湧いてきたよ。それに、シアノにああ言ってしまったしなぁ…。次は、私が直接動いてみるとしよう。」


 ―――さて、彼はどんな風に踊ってくれるだろうか。


 きっと彼は、あの日の彼女のように簡単に心を許すだろう。
 その先に待ち構える絶望を前に、彼はどんな選択を下すだろうか。


 彼女のように、自ら朽ちる道を選ぶか。
 はたまた、こちらが望む殺戮兵器となるか。


 別にどちらでも構わない。
 人間とドラゴンが共に歩む世界などという幻想を、完膚なきまでに潰せるのなら。




 そして彼らが、心の底から絶望して立ち直れなくなるのなら―――




「楽しみに待っているといい。ユアン、リュドルフリア。」


 呟き、レクトはシアノの横に首を横たえる。
 そして、静かに目を閉じた。




 きしんだ歯車が、耳ざわりな音を立てて動いていく―――




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 【第6部】はこれで完結となります。
 ここまでお読みくださった皆様、本当にありがとうございました。


 【第7部】あらすじ


 シアノとの別れから数ヶ月。
 キリハはとある悩みを抱えながら、未だにシアノへの未練を断ち切れずにいた。


 そんな折、ルカの元にエリクが倒れたとの一報が入る。
 慌てて病院に駆けつけたルカとキリハ。


 やたらと深刻そうなエリクから聞いたことは―――シアノを見た!?


 そしてそれから間を置かず、キリハもシアノの姿を見かけることに。
 小さな姿を思わず追いかけるキリハ。


 その先で見たものは―――……




 1つの出会いが、これまでの人物関係を大きく変える!!




 過去を巡って、キリハとフールが真っ向から対立!
 その裏で、ルカとジョーの間では取引成立!?


 さまざまな人物が揺れ動く中、これまで父の言うことを聞くだけだったシアノも、ささやかな変化を見せ始め―――


 第8部までノンストップで駆け抜ける、怒涛の1幕!


 どうぞ、第7部もよろしくお願いいたします!




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