285 / 598
第2章 垣間見える闇
知らぬ間に第2ラウンド
しおりを挟む
頭から、フールの叫びが離れない。
結局あの後、フールはふらりと行方をくらましてしまい、改めて話を聞くことはできなかった。
普段飄々としている彼が、あれだけ動揺するのだ。
きっとそこには、気のせいではすぐに片付けられない何かがあるのだろう。
そう思うと、シアノのことだけではなく、フールのことも心配になってきてしまう。
彼はただでさえ、自分のことを語らない。
そんな彼が心の内側に隠している傷があるなら、できることなら話だけでも聞いてあげたいけれど……
そんなことを考えながら、エリクの家のインターホンを押す。
「やあ、キリハ君。いらっしゃい。」
ドアを開けたエリクは、キリハを見ると好意的な笑みを浮かべた。
そんな彼に部屋の中に通されたキリハは、思わず目を丸くする。
「あれ? なんか、また部屋が荒れてない?」
昨日シアノを落ち着かせた後、三人で部屋を掃除したはず。
それなのに、今目の前に広がっているのは、掃除をする前のような惨状である。
「いやぁ…。参ったね。」
エリクは救急箱から取り出した脱脂綿で、血が滲む引っ掻き傷を消毒している。
よくよく見れば、彼の腕には昨日以上の傷と噛み跡があった。
「爪が危ないから切ろうと思ったんだけど、そしたらこの有り様で。シアノ君はあの通り。」
エリクが指し示す方を見やれば、ベッドの上で毛布にくるまり、威嚇するようにエリクを睨んでいるシアノが。
「あらら、厳戒体制だ……」
「ね? というわけで、諦めたよ。」
「それがよさそうだね。」
肩をすくめるエリクに、キリハは曖昧に笑うしかない。
エリクの災難は可哀想だと思ったが、それよりもこの騒ぎでシアノが部屋を出ていかなかったことに、ほっとしている自分がいた。
「シアノ、こんにちは。」
ベッドの前にひざまずき、シアノと目を合わせる。
「大丈夫だよ。エリクさん、もう爪切らないって。」
「………」
シアノは、なかなか毛布の中から出てきてくれない。
「本当に大丈夫だって。怖いなら、俺が味方についててあげるから。ね? 約束。」
小指を立てて笑いかけるキリハ。
すると、たっぷりの時間をかけた後、シアノが毛布から頭だけを出した。
「さすがはキリハ君。」
「いや…。俺もまだ、そこまで信用されてない感じだけどね。」
頭だけは出してくれたとはいえ、シアノは口を開こうとはしないし、こちらを見る目にはまだ、並々ならぬ警戒心が見て取れる。
さてさて。
シアノと打ち解けるまでに、どれだけの時間がかかることやら。
「キリハ君が来てくれたなら、ちょうどいいや。せっかくだし、三人で出かけようか。」
救急箱を片付けたエリクが、ふとそう提案してきた。
「さすがに少しくらい、靴とか服を買ってあげなきゃね。ついでに、ご飯も外で済ませよう。」
「でも……」
キリハは言葉を濁してシアノを見る。
「大丈夫だと思うよ。」
キリハの思うところをすぐに察し、エリクは表情を和らげた。
「逃げるつもりなら、僕が寝てる間に出ていっちゃえばよかったんだもん。いてくれてるってことは、多少なりとも僕らに気を許してくれてるってことでしょ。」
それはそうかもしれないけど……
やはり、躊躇いぎみのキリハ。
「不安なら、手を繋いであげて。」
エリクはキリハの手を握り、力強くその肩を叩く。
そして、さくさくと外出の準備を整えたエリクに背中を押され、キリハはシアノと一緒に街の中へと繰り出すことになった。
結局あの後、フールはふらりと行方をくらましてしまい、改めて話を聞くことはできなかった。
普段飄々としている彼が、あれだけ動揺するのだ。
きっとそこには、気のせいではすぐに片付けられない何かがあるのだろう。
そう思うと、シアノのことだけではなく、フールのことも心配になってきてしまう。
彼はただでさえ、自分のことを語らない。
そんな彼が心の内側に隠している傷があるなら、できることなら話だけでも聞いてあげたいけれど……
そんなことを考えながら、エリクの家のインターホンを押す。
「やあ、キリハ君。いらっしゃい。」
ドアを開けたエリクは、キリハを見ると好意的な笑みを浮かべた。
そんな彼に部屋の中に通されたキリハは、思わず目を丸くする。
「あれ? なんか、また部屋が荒れてない?」
昨日シアノを落ち着かせた後、三人で部屋を掃除したはず。
それなのに、今目の前に広がっているのは、掃除をする前のような惨状である。
「いやぁ…。参ったね。」
エリクは救急箱から取り出した脱脂綿で、血が滲む引っ掻き傷を消毒している。
よくよく見れば、彼の腕には昨日以上の傷と噛み跡があった。
「爪が危ないから切ろうと思ったんだけど、そしたらこの有り様で。シアノ君はあの通り。」
エリクが指し示す方を見やれば、ベッドの上で毛布にくるまり、威嚇するようにエリクを睨んでいるシアノが。
「あらら、厳戒体制だ……」
「ね? というわけで、諦めたよ。」
「それがよさそうだね。」
肩をすくめるエリクに、キリハは曖昧に笑うしかない。
エリクの災難は可哀想だと思ったが、それよりもこの騒ぎでシアノが部屋を出ていかなかったことに、ほっとしている自分がいた。
「シアノ、こんにちは。」
ベッドの前にひざまずき、シアノと目を合わせる。
「大丈夫だよ。エリクさん、もう爪切らないって。」
「………」
シアノは、なかなか毛布の中から出てきてくれない。
「本当に大丈夫だって。怖いなら、俺が味方についててあげるから。ね? 約束。」
小指を立てて笑いかけるキリハ。
すると、たっぷりの時間をかけた後、シアノが毛布から頭だけを出した。
「さすがはキリハ君。」
「いや…。俺もまだ、そこまで信用されてない感じだけどね。」
頭だけは出してくれたとはいえ、シアノは口を開こうとはしないし、こちらを見る目にはまだ、並々ならぬ警戒心が見て取れる。
さてさて。
シアノと打ち解けるまでに、どれだけの時間がかかることやら。
「キリハ君が来てくれたなら、ちょうどいいや。せっかくだし、三人で出かけようか。」
救急箱を片付けたエリクが、ふとそう提案してきた。
「さすがに少しくらい、靴とか服を買ってあげなきゃね。ついでに、ご飯も外で済ませよう。」
「でも……」
キリハは言葉を濁してシアノを見る。
「大丈夫だと思うよ。」
キリハの思うところをすぐに察し、エリクは表情を和らげた。
「逃げるつもりなら、僕が寝てる間に出ていっちゃえばよかったんだもん。いてくれてるってことは、多少なりとも僕らに気を許してくれてるってことでしょ。」
それはそうかもしれないけど……
やはり、躊躇いぎみのキリハ。
「不安なら、手を繋いであげて。」
エリクはキリハの手を握り、力強くその肩を叩く。
そして、さくさくと外出の準備を整えたエリクに背中を押され、キリハはシアノと一緒に街の中へと繰り出すことになった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい
広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」
「え?」
「は?」
「いせかい……?」
異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。
ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。
そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!?
異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。
時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。
目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』
半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。
そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。
伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。
信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。
少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。
====
※お気に入り、感想がありましたら励みになります
※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。
※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります
※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる