261 / 598
第6章 それぞれの思い
師匠の考え
しおりを挟む「さてと。あんな大胆な手に出られちゃった手前、もう内密な問題じゃ済まなくなったわけですが……どうしましょうね?」
いつまで経っても時が進みそうにない場の空気を見かねて、ジョーはあえて軽い口調でターニャに訊ねた。
キリハがノアから熱い勧誘を受けていたことを知っているのは、その場にいたターニャとディアラント、ディアラントから話を聞いている自分とミゲルくらいだったはず。
ノアが爆弾発言をかましていかなければ、最小限の人間が知る範囲で場を収めたかったに違いない。
だがもはや、この現実は変えられない。
会議自体は終わっているも同然だというのに退席する者はおらず、自分の発言に引っ張られて、どこかすがるような視線の数々がターニャに集中した。
「そうですね…。唯一無二の《焔乱舞》の担い手ですし、彼の存在があるからこそ、国民の皆さんが安心して過ごしていることは確実でしょう。国としては、やはり簡単に手放せる人材ではありませんが……」
「いや。」
そこで、ターニャの言葉を遮る声が。
全員の視線が後ろへと動く。
「オレはどちらかっていうと、ルカ君寄りの意見です。」
ようやく口を開いたディアラントの主張は、これまでとは桁違いの衝撃を皆に与えることになる。
「キリハが行きたいって言うなら、送り出してやればいいじゃないですか。もちろん、キリハがいらないって言ってるわけじゃないですよ。ただオレ個人としては、《焔乱舞》ありきのドラゴン討伐なんて、最初から想定していないんです。」
ディアラントは淡々と語る。
「そもそも、キリハが《焔乱舞》に選ばれたことが奇跡なんです。今までのドラゴン討伐に《焔乱舞》があったことが、恵まれすぎてるんですよ。《焔乱舞》がなくなったとしても、それは恵まれた環境が、普通の環境に戻るだけでしょう?」
その問いかけに、即答できる者はいなかった。
構うことなく、ディアラントは自身の考えを述べ続ける。
「もしキリハをここに繋ぎ留めておく理由が《焔乱舞》だけなんだとしたら、オレはキリハをルルアに送り出してやる方がいいと思います。キリハもどうせなら、本当の意味で自分を必要としてくれる所に行った方が幸せでしょう。どうしてもドラゴン討伐にキリハが必要なら、その時だけルルアからキリハを借りるという体制も取れるわけですしね。」
ディアラントの意見は、反論の余地もないほどに正しい。
そう感じた者はディアラント何も異を唱えることができず、納得できない者も反論となる言葉が見つからないのか、不満げに顔をしかめるだけだった。
「………」
周囲の様子を眺めながら、ジョーはふとした拍子に、机の下に隠した手元を盗み見る。
「―――じゃあ、最終的な判断はキリハ君に委ねるってことでいいんですか?」
確認の意味も込めて、ターニャに訊ねるジョー。
「……致し方ありません。もしもの場合の策は立てておきましょう。私としてはやはり、キリハには残ってほしいと思います。ですが、ディアラントさんの言うとおり、キリハがルルアへ行きたいと願うなら……」
彼女も、この判断にかなりの葛藤があるのだろう。
いつもは断言口調で物事を語るターニャが、今は躊躇いがちにそう言って視線を逸らしている。
ディアラントはああ言ったものの、ここにいる皆がキリハを必要としているのは、何も《焔乱舞》だけが理由ではないだろう。
しかし、キリハをこちらに振り向かせる自信がないというのが現状。
キリハは、差別などで押さえつけられる環境にいるべきではない。
どうせなら、本当の意味でキリハ自身を必要としてくれる場所に行った方が幸せだろう。
ルカとディアラントが、それぞれに告げた言葉。
それが、ノアとこちらにある手札の優劣を明らかすぎるほどに示していた。
「分かりました。なら、僕もそのように体制を整えましょう。」
とても穏やかとは言えない様子の周囲には一切触れず、ジョーは机の下でさりげなく携帯電話を操作した。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
種族【半神】な俺は異世界でも普通に暮らしたい
穂高稲穂
ファンタジー
旧題:異世界転移して持っていたスマホがチートアイテムだった
スマホでラノベを読みながら呟いた何気ない一言が西園寺玲真の人生を一変させた。
そこは夢にまで見た世界。
持っているのはスマホだけ。
そして俺は……デミゴッド!?
スマホを中心に俺は異世界を生きていく。
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる