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第4章 触れ合い
大国の主をも負かす天然記念物
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自信を持って否を唱えたキリハは、その顔に穏やかな笑みをたたえた。
「違う。今のも、ちゃんとしたノアの本心だよ。綺麗事なんかじゃない。だってノアは、ちゃんとそれを実現させてるんでしょ? だから、ノアはこんなに自信満々なんだ。自分が大統領になってよかったって、絶対にそう思ってるはずだよ。」
大統領になるための建前だけで、あんなに心がこもった言葉を紡げるはずがない。
彼女は彼女の信念を強く持って、たくさんの努力をしてここにいるのだ。
そして、自分で作り上げたものの価値を感じ取っているからこそ、これだけ胸を張っていられるのだろうし、彼女につき従う人々からも強い信頼感が窺えるのだろう。
ルルアのことは分からないが、それでも彼女たちの様子から感じ取れることはたくさんある。
「………」
何をそんなに驚いたのか、ノアは目をまんまるにしてこちらを見つめていた。
歩みまで止めてしまった彼女の顔を覗き込んで首を傾げると、やがて彼女の唇が薄く開く。
「お前は……やはり、あのディアラントの弟子なのだな。すぐにそう切り返されるとは、恐れ入ったよ。」
眉を下げて、困ったように表情を緩めるノア。
「へへ…。ごまかそうとするなんて、なんかノアっぽくないね。」
なんとなくその様子に違和感を持ったので指摘してみると、ノアは気難しそうに眉を寄せて唸った。
「むー……私としては、当然の気持ちなのだがな。ウルドたちが〝もう少し謙虚でいろ〟とうるさいのだ。普段から強気すぎると、胡散臭くなってしまうらしい。」
「ええ、そうかなぁ…?」
キリハもノアと同じように顔をしかめる。
「自分に自信を持てるって、すごいことだと思うけどなぁ…。俺は突っ走っちゃった後に、急に自信なくなって悩んじゃうから、ディア兄ちゃんやノアみたいに自分に自信を持って立っていられるのって、純粋にすごいと思うんだよね。他の人は、そう思ってくれないものなのかなぁ……」
「違うと言ってやれなくて心苦しいが、人間とはそういうものだ。信じて認めるより、疑って非難している方が楽なのだよ。そうすれば、いざという時に傷が浅くて済むからな。」
「うーん、理屈としてはそうなんだろうけど……なんか、納得できない。」
「お前は、びっくりするくらいに純粋だからな。少しは疑うことを覚えた方が、今後のためだぞ?」
「だって、ちゃんと見れば、嘘をついてないことくらい分かるのに?」
ただ感じたことを、言の葉に乗せる。
自分にはそれしかできないから、今まで真正面から他人と向き合ってきた。
だから、多少は自信があるのだ。
その人が胸の奥深くに隠した気持ちまでは分からなくても、その人が今自分に嘘をついているかどうかくらいは見抜けると。
「それは、お前がこれまで接してきた人間が、皆分かりやすかっただけではないか? お前が知らないだけで、何食わぬ顔で他人を騙せる人間はたくさんいるのだぞ?」
能天気なキリハの物言いに、さすがのノアも頬をひきつらせる。
しかし。
「―――うん、そうだね。俺は、何も知らない。」
キリハは首を縦に振り、静かに目を閉じた。
「俺には、知らないことばっかりだよ。それでこの間も、自分が今まで言ってたことが、実はたくさんの人を傷つけてたんだって、初めてそう気付いてショックだったことがあった。」
脳裏に浮かぶのは、敵意をまとわせたルカの姿と、悲しげに微笑むエリクの姿。
あの経験があったからこそ、今強く思う。
「俺は器用じゃないから、考えて何かを話すってことが上手くできないし、危ないこととかを避けながら進むこともできないと思う。だから俺はちゃんと、色んなことを知らなきゃいけないんだ。どんなことにぶつかった時にも、ちゃんと自分を見失わないでいられるように。色んなことを知って、理解して、それでも〝大丈夫、進める〟……って、そう言えるようになりたい。」
知れば知った分、嫌なことやショックなこともあった。
自分の感情が自分の支配下を離れてしまう恐怖も味わった。
それでも、知らない方がよかったとは思わなかった。
知らない人たちをたくさん知って、知らない世界をたくさん見て。
そしてそれを受け入れて、前を向いていたい。
お前は何も知らないからそんなことが言えるんだ、なんて。
もう二度と、そんなことを言われないように。
「だからね、俺にたくさんのことを教えてよ。ノアのことも、ルルアのことも。偶然でも、こんなに仲良くなったんだ。どうせなら、たくさん知りたいもん。」
最後に、キリハは無邪気に笑った。
「あ……うん…………そうだな。うん……」
ノアがパチパチと目をまたたく。
妙に歯切れの悪いノアにキリハがきょとんと首を傾けると、彼女はゆっくりと顔を反対方向に逸らした。
「はあぁー……」
片手で顔を覆ったノアの口から零れたのは、この世の終わりかと思えるほどに盛大な溜め息。
「えっ!? なんで!?」
どうしてそんな反応になるのか分からず、キリハは目を白黒させた。
「いや、その……お前に非があるわけではなくてだな…。なんか、初めて負けたと思って。……色んな意味で。」
「色んな意味って、どういうこと!?」
「はあぁ……」
「ノアってばぁ!!」
肩を揺らすも、ノアはしきりに溜め息を吐くだけで、こちらを見ようともしない。
慌てふためくキリハは、当然ながら気付いていなかった。
深い溜め息の隙間。
そこで。
「これが、天然記念物の破壊力……」
ノアがぼそりと、そう呟いていたことに。
「違う。今のも、ちゃんとしたノアの本心だよ。綺麗事なんかじゃない。だってノアは、ちゃんとそれを実現させてるんでしょ? だから、ノアはこんなに自信満々なんだ。自分が大統領になってよかったって、絶対にそう思ってるはずだよ。」
大統領になるための建前だけで、あんなに心がこもった言葉を紡げるはずがない。
彼女は彼女の信念を強く持って、たくさんの努力をしてここにいるのだ。
そして、自分で作り上げたものの価値を感じ取っているからこそ、これだけ胸を張っていられるのだろうし、彼女につき従う人々からも強い信頼感が窺えるのだろう。
ルルアのことは分からないが、それでも彼女たちの様子から感じ取れることはたくさんある。
「………」
何をそんなに驚いたのか、ノアは目をまんまるにしてこちらを見つめていた。
歩みまで止めてしまった彼女の顔を覗き込んで首を傾げると、やがて彼女の唇が薄く開く。
「お前は……やはり、あのディアラントの弟子なのだな。すぐにそう切り返されるとは、恐れ入ったよ。」
眉を下げて、困ったように表情を緩めるノア。
「へへ…。ごまかそうとするなんて、なんかノアっぽくないね。」
なんとなくその様子に違和感を持ったので指摘してみると、ノアは気難しそうに眉を寄せて唸った。
「むー……私としては、当然の気持ちなのだがな。ウルドたちが〝もう少し謙虚でいろ〟とうるさいのだ。普段から強気すぎると、胡散臭くなってしまうらしい。」
「ええ、そうかなぁ…?」
キリハもノアと同じように顔をしかめる。
「自分に自信を持てるって、すごいことだと思うけどなぁ…。俺は突っ走っちゃった後に、急に自信なくなって悩んじゃうから、ディア兄ちゃんやノアみたいに自分に自信を持って立っていられるのって、純粋にすごいと思うんだよね。他の人は、そう思ってくれないものなのかなぁ……」
「違うと言ってやれなくて心苦しいが、人間とはそういうものだ。信じて認めるより、疑って非難している方が楽なのだよ。そうすれば、いざという時に傷が浅くて済むからな。」
「うーん、理屈としてはそうなんだろうけど……なんか、納得できない。」
「お前は、びっくりするくらいに純粋だからな。少しは疑うことを覚えた方が、今後のためだぞ?」
「だって、ちゃんと見れば、嘘をついてないことくらい分かるのに?」
ただ感じたことを、言の葉に乗せる。
自分にはそれしかできないから、今まで真正面から他人と向き合ってきた。
だから、多少は自信があるのだ。
その人が胸の奥深くに隠した気持ちまでは分からなくても、その人が今自分に嘘をついているかどうかくらいは見抜けると。
「それは、お前がこれまで接してきた人間が、皆分かりやすかっただけではないか? お前が知らないだけで、何食わぬ顔で他人を騙せる人間はたくさんいるのだぞ?」
能天気なキリハの物言いに、さすがのノアも頬をひきつらせる。
しかし。
「―――うん、そうだね。俺は、何も知らない。」
キリハは首を縦に振り、静かに目を閉じた。
「俺には、知らないことばっかりだよ。それでこの間も、自分が今まで言ってたことが、実はたくさんの人を傷つけてたんだって、初めてそう気付いてショックだったことがあった。」
脳裏に浮かぶのは、敵意をまとわせたルカの姿と、悲しげに微笑むエリクの姿。
あの経験があったからこそ、今強く思う。
「俺は器用じゃないから、考えて何かを話すってことが上手くできないし、危ないこととかを避けながら進むこともできないと思う。だから俺はちゃんと、色んなことを知らなきゃいけないんだ。どんなことにぶつかった時にも、ちゃんと自分を見失わないでいられるように。色んなことを知って、理解して、それでも〝大丈夫、進める〟……って、そう言えるようになりたい。」
知れば知った分、嫌なことやショックなこともあった。
自分の感情が自分の支配下を離れてしまう恐怖も味わった。
それでも、知らない方がよかったとは思わなかった。
知らない人たちをたくさん知って、知らない世界をたくさん見て。
そしてそれを受け入れて、前を向いていたい。
お前は何も知らないからそんなことが言えるんだ、なんて。
もう二度と、そんなことを言われないように。
「だからね、俺にたくさんのことを教えてよ。ノアのことも、ルルアのことも。偶然でも、こんなに仲良くなったんだ。どうせなら、たくさん知りたいもん。」
最後に、キリハは無邪気に笑った。
「あ……うん…………そうだな。うん……」
ノアがパチパチと目をまたたく。
妙に歯切れの悪いノアにキリハがきょとんと首を傾けると、彼女はゆっくりと顔を反対方向に逸らした。
「はあぁー……」
片手で顔を覆ったノアの口から零れたのは、この世の終わりかと思えるほどに盛大な溜め息。
「えっ!? なんで!?」
どうしてそんな反応になるのか分からず、キリハは目を白黒させた。
「いや、その……お前に非があるわけではなくてだな…。なんか、初めて負けたと思って。……色んな意味で。」
「色んな意味って、どういうこと!?」
「はあぁ……」
「ノアってばぁ!!」
肩を揺らすも、ノアはしきりに溜め息を吐くだけで、こちらを見ようともしない。
慌てふためくキリハは、当然ながら気付いていなかった。
深い溜め息の隙間。
そこで。
「これが、天然記念物の破壊力……」
ノアがぼそりと、そう呟いていたことに。
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