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第3章 カリスマ王の猛進
獲物を刈り取る微笑み
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ひとまず、ターニャへのメールを爆速で送った後。
「……ね? よく分かったでしょう?」
ディアラントは、ノアにそう語りかけた。
「ルルアに帰ったら、一応機種変更しといた方がいいですよ。ジョー先輩のあの顔、あなたのプライベート番号くらい手に入れてるって顔ですから。」
「それは本当か!?」
溜め息混じりにディアラントが言うと、ノアは瞠目してジョーを見つめた。
対するジョーは、ただにっこりと笑みを深めるだけ。
ディアラントの言葉を肯定も否定もしなかったジョーだが、それでも彼の恐ろしさは、十二分に彼女に伝わっただろう。
「ほほう……」
ノアは感嘆の息をつきながら、ジョーに近づいていく。
「何時間だ?」
ジョーに問いかけるノア。
「お前ご自慢のそのセキュリティ。突破されるとしたら、何時間かかると見積もっているのだ?」
「さあ…。それは、機密事項に関わりますので。」
ジョーは鉄壁の笑顔を崩さない。
「でも、セキュリティに侵入されている間に、侵入経路を特定して新しいプログラムを用意するくらいの余裕はあるかと。少なくとも、そちらの携帯電話一本で突破するには無理があると思いますよ。……かなり複雑に改造してあったとしても、ね?」
「………っ」
思い当たる節があるのか、ノアがどこか青い顔で息をつまらせた。
言葉を失うノアに、ジョーは浮かべていた笑顔の質を変えて迫る。
「―――知りたいですか? この技術のからくり。」
妖しく、蠱惑的に。
ジョーの笑顔がきらりと光る。
「ルルア最大の課題は、情報技術が遅れがちなこと。だからノア様は、そういう技術者を他国から非常に多く招き入れてますよね? 多少なら、レクチャーしても構いませんよ。そうですね……初回お試しで、一回五百万とかでどうですか?」
「乗った!」
「乗せるな!!」
ノアが表情を輝かせた瞬間、慌てた様子で叫んだミゲルがジョーの首に腕を回した。
「お前って奴は、隙あらば……」
ミゲルは一切の加減なしに、ジョーの首を締め上げる。
「宮殿の情報だけでは飽き足らず、今度は海の向こうにまで手を出すつもりか? これ以上、化け物にならんでいい。」
「く、苦し…。いや、最初から冗談のつもりだったんだって。こんなに迷わず乗ってくるとは、さすがに思ってなくて。」
「何!? 冗談だったのか!?」
露骨に傷ついた顔をするノア。
それを見たミゲルの両目が細められ、厳しくジョーを射る。
「ほら見ろ。お前の冗談は、冗談に聞こえねぇんだよ。どうせ冗談で鎌かけて、美味しい情報を落としてくれるならラッキーとか思ってたんだろ。」
「それはまあ……否定しないけども。」
「ノア様、よく見といてください。こいつは、こういう奴です。悪いことは言いませんので、こいつにだけは手を出さない方がよろしいかと思います。どうしようもなく馬鹿で敵を煽ることしかしない上に、空気もまともに読まないくそみたいな隊長ですけど、さっきの助言だけは、確かにあなたのためを思っての言葉ですので。」
「ミゲル先輩! そこまでぼろくそに言いますか!?」
「事実じゃねぇか。」
「………」
まるで漫才のようなやり取りを交わすドラゴン殲滅部隊幹部の面々に、ノアは半ば茫然としてその場に立ち尽くしていた。
「まあ、さっきの技術レクチャーの話は冗談として、安心してくださって構いませんよ。今回仕入れた情報は、機密事項には該当しないくらい些末なものです。僕が変にイラッとしない限りは、この情報が漏洩することもありませんよ。」
「おい。それのどこに安心しろってんだよ。」
ミゲルが頬をひきつらせる。
しかしこの次にジョーの口から飛び出した言葉には、ミゲルだけではなく、ノアやディアラントまでもが面食らうことになってしまった。
「それに、ルルアにならもう、いくつか伝手があるので。」
「はあっ!?」
見事に重なる三人の声。
「い、いつの間に……」
「使えるきっかけは、無駄にしちゃいけないよね。とりあえず、ディアが出張で向かった国に、最低でも二人は伝手を作ってあるよ?」
眩しいくらいに弾けるジョーの笑顔。
やはり彼という人間を表すには、魔王という言葉では足りないかもしれない。
計り知れないジョーの情報力を前に、ディアラントは心の底からそう感じるのだった。
「……ね? よく分かったでしょう?」
ディアラントは、ノアにそう語りかけた。
「ルルアに帰ったら、一応機種変更しといた方がいいですよ。ジョー先輩のあの顔、あなたのプライベート番号くらい手に入れてるって顔ですから。」
「それは本当か!?」
溜め息混じりにディアラントが言うと、ノアは瞠目してジョーを見つめた。
対するジョーは、ただにっこりと笑みを深めるだけ。
ディアラントの言葉を肯定も否定もしなかったジョーだが、それでも彼の恐ろしさは、十二分に彼女に伝わっただろう。
「ほほう……」
ノアは感嘆の息をつきながら、ジョーに近づいていく。
「何時間だ?」
ジョーに問いかけるノア。
「お前ご自慢のそのセキュリティ。突破されるとしたら、何時間かかると見積もっているのだ?」
「さあ…。それは、機密事項に関わりますので。」
ジョーは鉄壁の笑顔を崩さない。
「でも、セキュリティに侵入されている間に、侵入経路を特定して新しいプログラムを用意するくらいの余裕はあるかと。少なくとも、そちらの携帯電話一本で突破するには無理があると思いますよ。……かなり複雑に改造してあったとしても、ね?」
「………っ」
思い当たる節があるのか、ノアがどこか青い顔で息をつまらせた。
言葉を失うノアに、ジョーは浮かべていた笑顔の質を変えて迫る。
「―――知りたいですか? この技術のからくり。」
妖しく、蠱惑的に。
ジョーの笑顔がきらりと光る。
「ルルア最大の課題は、情報技術が遅れがちなこと。だからノア様は、そういう技術者を他国から非常に多く招き入れてますよね? 多少なら、レクチャーしても構いませんよ。そうですね……初回お試しで、一回五百万とかでどうですか?」
「乗った!」
「乗せるな!!」
ノアが表情を輝かせた瞬間、慌てた様子で叫んだミゲルがジョーの首に腕を回した。
「お前って奴は、隙あらば……」
ミゲルは一切の加減なしに、ジョーの首を締め上げる。
「宮殿の情報だけでは飽き足らず、今度は海の向こうにまで手を出すつもりか? これ以上、化け物にならんでいい。」
「く、苦し…。いや、最初から冗談のつもりだったんだって。こんなに迷わず乗ってくるとは、さすがに思ってなくて。」
「何!? 冗談だったのか!?」
露骨に傷ついた顔をするノア。
それを見たミゲルの両目が細められ、厳しくジョーを射る。
「ほら見ろ。お前の冗談は、冗談に聞こえねぇんだよ。どうせ冗談で鎌かけて、美味しい情報を落としてくれるならラッキーとか思ってたんだろ。」
「それはまあ……否定しないけども。」
「ノア様、よく見といてください。こいつは、こういう奴です。悪いことは言いませんので、こいつにだけは手を出さない方がよろしいかと思います。どうしようもなく馬鹿で敵を煽ることしかしない上に、空気もまともに読まないくそみたいな隊長ですけど、さっきの助言だけは、確かにあなたのためを思っての言葉ですので。」
「ミゲル先輩! そこまでぼろくそに言いますか!?」
「事実じゃねぇか。」
「………」
まるで漫才のようなやり取りを交わすドラゴン殲滅部隊幹部の面々に、ノアは半ば茫然としてその場に立ち尽くしていた。
「まあ、さっきの技術レクチャーの話は冗談として、安心してくださって構いませんよ。今回仕入れた情報は、機密事項には該当しないくらい些末なものです。僕が変にイラッとしない限りは、この情報が漏洩することもありませんよ。」
「おい。それのどこに安心しろってんだよ。」
ミゲルが頬をひきつらせる。
しかしこの次にジョーの口から飛び出した言葉には、ミゲルだけではなく、ノアやディアラントまでもが面食らうことになってしまった。
「それに、ルルアにならもう、いくつか伝手があるので。」
「はあっ!?」
見事に重なる三人の声。
「い、いつの間に……」
「使えるきっかけは、無駄にしちゃいけないよね。とりあえず、ディアが出張で向かった国に、最低でも二人は伝手を作ってあるよ?」
眩しいくらいに弾けるジョーの笑顔。
やはり彼という人間を表すには、魔王という言葉では足りないかもしれない。
計り知れないジョーの情報力を前に、ディアラントは心の底からそう感じるのだった。
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