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第3章 カリスマ王の猛進
ノアの不満
しおりを挟む「ディアラント。」
「なんですか、ノア様。」
「私は、納得がいかない。」
「急になんですか。……っていうか、もう夜も遅くなってきたんで、そろそろお休みになったらどうですか? これじゃ、おちおち重要書類に手もつけられないじゃないですかぁ。」
すでに日付も変わろうとしているこの時間。
正直に言うならば、早く客室に引き上げていただきたい。
溜め息をつくディアラントに、ノアが半目で訊ねる。
「忙しいのか?」
「それが、オレが仕事回してた時よりも、すんごい楽なんですよー。」
「だから、納得いかんと言ってるのだ!!」
パソコンの向こうからノアが身を乗り出してきたので、ディアラントは手にしていた書類を裏返した。
いつ覗かれてもいいようにデスクトップ表示にしていたディスプレイも、念のためにスリープ状態にしておく。
「なんなのだ、この部隊は!! ここは金鉱脈か!? 今日一日、隊長であるお前を連れ回してやったというのに、何一つ狼狽えないどころか、お前がやるよりも仕事が早いなんて!!」
「やっぱ、色々と試してたんですねー? 残念でした。オレの部隊は、そんじょそこらの部隊よりよっぽど優秀ですよ? そうじゃなきゃ、オレが一年近くも国外をふらふらできるわけないじゃないですか。」
ディアラントは、にやりと口角を吊り上げた。
どうりでノアが、始業前に無理やり自分を連れ出したわけだ。
きっと彼女は、必要最低限の連絡すらできない状況下で、なんの前触れもなく隊長を失ったこの部隊がどう立ち回るのかを見てみたかったのだろう。
自分がいなくなったことで慌てふためく隊員たちの姿でも期待していたのだろうが、色々と想定が甘いことだ。
「今日、あえてウルドさんを宮殿に置いていったのは、観察のためですか?」
「うむ。」
「それで? 結果はどうでした?」
「文句のつけようもないから、納得いかないのではないか! 分かっておるくせに、意地の悪い奴め!!」
喚くノア。
「お褒めにあずかり、光栄でーす♪」
ディアラントは鼻歌混じりに言いながら、嫌味とも取れるほどに爽やかな笑顔をノアに向けた。
いやはや、予想どおり。
いい意味でノアの期待を裏切ることができたようで、非常に気分がいい。
まあノアからしたら、諦めた人材の価値を改めて思い知らされて、悔しい限りだろう。
その証拠に、ノアはこちらの底抜けに明るい声を聞くと、思い切り顔を歪めてしまった。
「ぐぬぬ…っ。やはり、お前の力は侮れんな。こんなに優秀な人材ばかり集めよってからに。」
「それは、あなたも同じでしょう?」
「それは認めよう。だが、私はどうしても解せぬのだ。ウルドの報告によると、お前の部隊は我が国の大臣集団に匹敵しそうだという。ターニャ直属の特務部隊とはいえ、政治にも関わっていない一介の部隊が、こんなに力を持っていいものなのか?」
ノアはぐいっとディアラントに詰め寄ると、声のトーンを落とした。
「お前がその気になれば、ターニャを焚きつけて、ふんぞり返った老人どもを叩き潰すくらい造作もないことだろう。ここには、それだけの実力がある。」
「そうですね。否定はしません。」
「では何故―――」
「ターニャ様は、それを望んでいませんから。」
「それだけか?」
「ええ。」
ディアラントは、迷うことなく頷いてみせた。
「あの方がそう望むなら、オレは持てる力の全てを使って、この国を変えてみせましょう。でも、あの方がそう望まないなら、オレはあの方の傍で静かに仕えるだけですよ。」
「もったいないとは思わんのか?」
「いえ、別に? オレもみんなも、今の部隊に満足してますよ。誰も不満じゃないなら、それでいいじゃないですか。」
「………」
こちらとしては嘘も強がりも言ったつもりはないのだが、ノアはまだ溜飲が下がらない様子。
「到底納得はできないようで。」
「当たり前だ。」
ノアは間髪入れずにそう答えた。
「宝の持ち腐れもいいところだ。それだけの力を身につけた努力に対する、冒涜行為だとは思わんのか。」
「つまるところ?」
「お前が使わないなら、私に寄越せ。三倍は有益に使ってやる。」
やはり、この話の着地点はそこにあったか。
「これが、方向性の違いってやつですかねぇ……」
ディアラントは溜め息をつき、ノアの相手をしながらもちらちらと目を通していた書類を机の中にしまった。
そして。
「―――お断りします。」
表情を引き締め、ノアを見上げてきっぱりと告げた。
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