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第3章 カリスマ王の猛進
純粋少年の質問攻め
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とりあえず、防音設備ばっちりのシミュレート室に駆け込み、ルカは大きく乱れた呼吸を整えていた。
「大丈夫?」
後ろから、キリハが訊ねてくる。
誰のせいでこうなったと思っているのだ。
全然息を切らせていないキリハを見ると、少しばかり憎たらしくなってしまうルカだった。
「……ったく。驚かせるなよ。お前の口から、キスなんて単語を聞くことになるとは思わなかったぞ。」
ここなら、誰かに話を聞かれることもあるまい。
ルカは単刀直入に本題に入った。
「いや…。俺もまさか、こんな話をすることになるとは思ってなかったけども……」
途端に、キリハは視線を逸らせて声を小さくする。
「誰かにキスしたのか?」
「いや……」
「それともされたのか?」
「その……」
「はっきりしろ!!」
「うわあぁーん!! だって、びっくりしすぎて全然覚えてないんだもん!!」
苛立ったルカが詰め寄ると、キリハは眉を下げてそう喚いた。
「つまり、された側か。」
なんとなく事情を察し、ルカはキリハから離れて手近な椅子に腰を下ろした。
「はあぁー……」
深く、溜め息を一つ。
「正直、オレはいつかこんな日が来るんじゃねぇかと思ってた。」
「え? なんで?」
キリハはきょとんと首を傾げる。
そういうところが原因なんだ。
そう言ったところで、この天然少年には何も伝わらないのだろうが。
ルカはまた溜め息を吐き出す。
「まあ、それはいいとして……一体、何があったからそんなことになったんだよ。」
「分かんない。」
「はあ?」
即答で首を振ったキリハに、ルカは呆れた顔でキリハを睥睨する。
「分からないって…。なんだよそれ。」
「だから、状況についていけてないって言ったじゃん。俺も、何が起こってこうなったのか、全然分かんないんだもん。」
「それじゃ、何をどう解決すればいいのか分からねぇじゃねぇかよ。」
「ううぅ…。だってぇー……俺は、ただそこにいただけなのにー……」
「あーもう! 情けない顔するな!!」
苛立ったまま、ルカは操作盤を乱暴に叩く。
「大体な! 男のくせして、キスの一つや二つで大騒ぎすんなっての!!」
「何さ! ルカだって慌ててたくせに!!」
「いくらオレでも、この話をサーシャの前でするのはまずいことくらい分かるわ!!」
「俺はこっそり言ったのに、露骨に反応したのはそっちじゃんか!」
「予想の斜め上を行きすぎてたんだよ、この馬鹿! あんだけぼけーっとしてたら、もっと深刻なことかと思うだろうが、普通!!」
「そんなこと言ったって、初めてだったんだから仕方ないじゃん!!」
「なんっ…」
思わず、声が喉につまってしまった。
「初めて…? ちょっと待った。お前、今年でいくつだっけ?」
「十八だけど……」
「それで、今の今まで好きな奴とかできなかったのか?」
「いや、好きな人はいっぱいいるよ。」
「そういう典型的なボケは求めてないからな?」
頭の中に嫌な予感が充満していく。
ルカは頬をひきつらせた。
「今までに経験ないのか? 誰かにキスしたいと思ったこととか、逆にそういうアプローチをされたこととか。」
「………?」
記憶を手繰っているキリハは、虚空を見上げて難しげに眉を寄せている。
「もっと根本的なことから確認しなきゃだめなのか!?」
もうその顔が全ての答えを語っているではないか。
ルカはキリハの肩をがっしりと掴んだ。
「お前、一応男女の恋愛感情って分かるよな? キスより先の行為が色々とあるって知ってるか!?」
我ながら、なんと間抜けな問いかけだろう。
だが、こればかりは冗談抜きで知っておいてほしい。
もはや常識レベルの知識だ。
頼むから、せめてこれには頷いてくれ。
そうじゃないと、自分には到底対処しきれない。
「ま、まあ……知識としては、一応……」
キリハは、ぎこちなくそう答えた。
それに心底ほっとしたのも束の間、次に続いたキリハの発言に、ルカはまた冷や汗をかくことになる。
「でも、その好きと普通の好きって、何がどう違うの?」
「えっ…」
「ルカがさっき言ってた、誰かにキスしたいと思う気持ちってどんな感じなの?」
「はっ!?」
音を立てて固まるルカ。
そんなルカに、キリハはどんどん質問を投げかけていく。
「だって、ルカはキスしたことあるんでしょ?」
「いや、まあ……」
「それって、どんな流れでそういう感じになるの?」
「な、なんでそこまで気にするんだよ……」
「うーん……」
苦し紛れのルカの質問返しに、キリハは大真面目に唸った。
「だって…。ディア兄ちゃんに昨日のこと訊いても、覚えてないならいいよって言って、何も教えてくれなくて。大したことないって言われたんだけど、じゃあなんでノアは、俺にあんなことをしたのかなって思ってさ。」
おい。
キスのお相手、まさかの大統領様かよ。
戸惑うルカの機微に気付くことなく、キリハはさらに語る。
「とはいっても、色々と知らないことがあるのは俺も自覚してるし、もし知っといた方がいいことなら、ちゃんと知っておかないとだめじゃん? ……というか、俺も何をどう訊けばいいのか、いまいち分からないんだけどさ。ルカがさっき言ってたことを理解できれば、それでいいのかな?」
〝教えて?〟
つぶらな双眸が、まっすぐにこちらを見つめてくる。
どうしようもなく湧き上がってくる、この罪悪感はなんだろう。
キリハが今の今まで、こんな純真に過ごしてこられた理由が身に沁みて分かる。
キリハは孤児院育ちと聞いているし、それならきっと、孤児院にも同年代の友人はいたはず。
その誰もが、教えられなかったのだろう。
こんなに澄んだ目をした子供に欲望だらけの話は振れないというか、この聖人を汚してはいけない気がするというか……
「もう……お前は、そのままでいいよ。」
出てくる言葉が、それしかなかった。
「ええーっ!? なんでルカまで、みんなとおんなじこと言うのさ!!」
頬を膨らませたキリハは、非常に不服なご様子。
やはり皆、行き着く先は同じだったようだ。
「勘弁してくれ……」
ルカは顔を覆う。
この後、珍しくキリハに食い下がられたルカが、その精神のほとんどをすり減らすはめになったのは、言うまでもない。
「大丈夫?」
後ろから、キリハが訊ねてくる。
誰のせいでこうなったと思っているのだ。
全然息を切らせていないキリハを見ると、少しばかり憎たらしくなってしまうルカだった。
「……ったく。驚かせるなよ。お前の口から、キスなんて単語を聞くことになるとは思わなかったぞ。」
ここなら、誰かに話を聞かれることもあるまい。
ルカは単刀直入に本題に入った。
「いや…。俺もまさか、こんな話をすることになるとは思ってなかったけども……」
途端に、キリハは視線を逸らせて声を小さくする。
「誰かにキスしたのか?」
「いや……」
「それともされたのか?」
「その……」
「はっきりしろ!!」
「うわあぁーん!! だって、びっくりしすぎて全然覚えてないんだもん!!」
苛立ったルカが詰め寄ると、キリハは眉を下げてそう喚いた。
「つまり、された側か。」
なんとなく事情を察し、ルカはキリハから離れて手近な椅子に腰を下ろした。
「はあぁー……」
深く、溜め息を一つ。
「正直、オレはいつかこんな日が来るんじゃねぇかと思ってた。」
「え? なんで?」
キリハはきょとんと首を傾げる。
そういうところが原因なんだ。
そう言ったところで、この天然少年には何も伝わらないのだろうが。
ルカはまた溜め息を吐き出す。
「まあ、それはいいとして……一体、何があったからそんなことになったんだよ。」
「分かんない。」
「はあ?」
即答で首を振ったキリハに、ルカは呆れた顔でキリハを睥睨する。
「分からないって…。なんだよそれ。」
「だから、状況についていけてないって言ったじゃん。俺も、何が起こってこうなったのか、全然分かんないんだもん。」
「それじゃ、何をどう解決すればいいのか分からねぇじゃねぇかよ。」
「ううぅ…。だってぇー……俺は、ただそこにいただけなのにー……」
「あーもう! 情けない顔するな!!」
苛立ったまま、ルカは操作盤を乱暴に叩く。
「大体な! 男のくせして、キスの一つや二つで大騒ぎすんなっての!!」
「何さ! ルカだって慌ててたくせに!!」
「いくらオレでも、この話をサーシャの前でするのはまずいことくらい分かるわ!!」
「俺はこっそり言ったのに、露骨に反応したのはそっちじゃんか!」
「予想の斜め上を行きすぎてたんだよ、この馬鹿! あんだけぼけーっとしてたら、もっと深刻なことかと思うだろうが、普通!!」
「そんなこと言ったって、初めてだったんだから仕方ないじゃん!!」
「なんっ…」
思わず、声が喉につまってしまった。
「初めて…? ちょっと待った。お前、今年でいくつだっけ?」
「十八だけど……」
「それで、今の今まで好きな奴とかできなかったのか?」
「いや、好きな人はいっぱいいるよ。」
「そういう典型的なボケは求めてないからな?」
頭の中に嫌な予感が充満していく。
ルカは頬をひきつらせた。
「今までに経験ないのか? 誰かにキスしたいと思ったこととか、逆にそういうアプローチをされたこととか。」
「………?」
記憶を手繰っているキリハは、虚空を見上げて難しげに眉を寄せている。
「もっと根本的なことから確認しなきゃだめなのか!?」
もうその顔が全ての答えを語っているではないか。
ルカはキリハの肩をがっしりと掴んだ。
「お前、一応男女の恋愛感情って分かるよな? キスより先の行為が色々とあるって知ってるか!?」
我ながら、なんと間抜けな問いかけだろう。
だが、こればかりは冗談抜きで知っておいてほしい。
もはや常識レベルの知識だ。
頼むから、せめてこれには頷いてくれ。
そうじゃないと、自分には到底対処しきれない。
「ま、まあ……知識としては、一応……」
キリハは、ぎこちなくそう答えた。
それに心底ほっとしたのも束の間、次に続いたキリハの発言に、ルカはまた冷や汗をかくことになる。
「でも、その好きと普通の好きって、何がどう違うの?」
「えっ…」
「ルカがさっき言ってた、誰かにキスしたいと思う気持ちってどんな感じなの?」
「はっ!?」
音を立てて固まるルカ。
そんなルカに、キリハはどんどん質問を投げかけていく。
「だって、ルカはキスしたことあるんでしょ?」
「いや、まあ……」
「それって、どんな流れでそういう感じになるの?」
「な、なんでそこまで気にするんだよ……」
「うーん……」
苦し紛れのルカの質問返しに、キリハは大真面目に唸った。
「だって…。ディア兄ちゃんに昨日のこと訊いても、覚えてないならいいよって言って、何も教えてくれなくて。大したことないって言われたんだけど、じゃあなんでノアは、俺にあんなことをしたのかなって思ってさ。」
おい。
キスのお相手、まさかの大統領様かよ。
戸惑うルカの機微に気付くことなく、キリハはさらに語る。
「とはいっても、色々と知らないことがあるのは俺も自覚してるし、もし知っといた方がいいことなら、ちゃんと知っておかないとだめじゃん? ……というか、俺も何をどう訊けばいいのか、いまいち分からないんだけどさ。ルカがさっき言ってたことを理解できれば、それでいいのかな?」
〝教えて?〟
つぶらな双眸が、まっすぐにこちらを見つめてくる。
どうしようもなく湧き上がってくる、この罪悪感はなんだろう。
キリハが今の今まで、こんな純真に過ごしてこられた理由が身に沁みて分かる。
キリハは孤児院育ちと聞いているし、それならきっと、孤児院にも同年代の友人はいたはず。
その誰もが、教えられなかったのだろう。
こんなに澄んだ目をした子供に欲望だらけの話は振れないというか、この聖人を汚してはいけない気がするというか……
「もう……お前は、そのままでいいよ。」
出てくる言葉が、それしかなかった。
「ええーっ!? なんでルカまで、みんなとおんなじこと言うのさ!!」
頬を膨らませたキリハは、非常に不服なご様子。
やはり皆、行き着く先は同じだったようだ。
「勘弁してくれ……」
ルカは顔を覆う。
この後、珍しくキリハに食い下がられたルカが、その精神のほとんどをすり減らすはめになったのは、言うまでもない。
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