233 / 598
第2章 ルルアのカリスマ王
先手を打つも……
しおりを挟む
必死にパソコンのキーボードを叩いていると、けたたましく携帯電話が鳴り響いた。
誰だ。
このくそ忙しい時に、電話を鳴らす不届き者は。
苛立ちを抑えながら携帯電話を手に取り、ディスプレイに映った名前を見て、ひとまず怒鳴るのはやめることにした。
「なんだよ、隊長殿? わざわざ、嫌味の電話か?」
開口一番に皮肉たっぷりな言葉を投げつけたミゲルに、電話の向こうのディアラントは情けない声をあげた。
「先輩、怒らないでくださいよ~。オレの仕事を丸投げしたのは悪かったですけどー…」
「そう思うなら、ちったあ計画的に書類仕事を片付けやがれってんだ。なんなんだよ、この量!」
「いやぁ、締切に間に合えば大丈夫かなって思って……」
悪いと思っているのかいないのか。
半分泣いているディアラントの声を聞きながら、ミゲルは辟易として頭を押さえた。
ドラゴン管理の責任者は、結局のところジョーがひったくっていった。
とはいえ、彼にだけ責任を負わせるのも色んな意味で怖いので、補佐としての任は買わせてもらった。
その影響でただでさえ仕事が増えているというのに、ディアラントの仕事のフォローまでしなくてはいけないとは。
一応隊長からの電話だから出たが、本当はこうして無駄口を叩いている暇などないのである。
こんな時に頼りになるジョーはというと、今頃ケンゼルやランドルフと共に情報操作に明け暮れる傍らで、涼しい顔をしながらターニャの仕事を手伝っているだろう。
その状況が見える手前、何があっても彼だけは呼び戻せない。
結局、仕事をたんまりと溜め込んでくれた隊長の代わりは、自分とアイロスでどうにか回すことに。
そしてルルアの大統領が来たということで、より厳重にしなければならなくなった宮殿本部の警備は、他のドラゴン殲滅部隊の面々にぶん投げるしかなかった。
部隊のトップが、揃いも揃って手が離せないというこの状況。
さて、この後どう説教をしてくれようか。
まあ、件の大統領の傍にはディアラントがいるわけだし、何かが起こったとしても、大統領の身には傷一つつくまい。
それにあのルルアの大統領ともなれば、警備を厳重にしなくとも、自分の身くらい余裕で守れるだろうが。
「―――って、それどころじゃないんですよぉ!!」
ディアラントが声を荒げる。
割と本気で焦っているらしい。
「……手短に言え。こっちは、くそ忙しいんだ。」
ひとまず、話だけは聞いてやるか。
とはいえ、暢気におしゃべりをしている時間はないので、ミゲルは携帯電話を肩と耳で挟み、キーボードを叩くことを再開する。
「キリハのことで、お願いがあるんです!」
「ああ? キー坊?」
これまた意外な用件だ。
ミゲルは、不可解そうに顔をしかめる。
「今日ってキリハたち、急きょ休みになってるじゃないですか? だから、雑用を手伝ってほしいとか適当な理由をつけて、今日一日、どうにかキリハを傍に置いといてくれません? キリハなら、絶対に嫌がらないんで!!」
「はあ?」
謎が謎を呼ぶディアラントの発言に、ミゲルは思わずキーボードを叩く手を止めてしまった。
「馬鹿か、お前は…。寝言なら寝てから言え。さすがに、軍務を手伝わせるのはねぇだろうが。せっかくの休みくらい、自由にさせてやれや。」
「そんなことを言ってる場合じゃないんですよ!!」
ディアラントはディアラントで、必死に言い募る。
ミゲルは溜め息をつき、もう少しだけ事情を聞くことにする。
「なんでだ? 理由を言え。」
「結論だけを言うと、キリハとノア様を会わせたくないんです。」
「はあぁ?」
ますます意味が分からない。
「すまん…。おれ、まだ話は通じる方だとは思うんだけどよ……」
「ああ~…っ。色々と説明をはしょってるのは分かってるんですけど、今はとにかく協力してくれません? 詳しいことは、後で洗いざらい話すんで!」
「……ったく、仕方ねぇな。」
「ありがとうございます!!」
ディアラントの声に、ようやくいつもの明るさが戻った。
やれやれ、また余計な仕事を増やしてしまった。
ずんと肩が重くなるのを感じながら、ミゲルは再度口を開く。
「つーかお前、よくそんなでけぇ声で話せるな。確か、その大統領を迎えに行ったんじゃなかったのか?」
「今は別行動中です。ノア様がターニャ様の執務室を見てみたいって言うんで、オレが一足早く執務室に行って、諸々の準備をしてくるってことで抜けてきました。」
「……執務室?」
目をまたたいたミゲルは、思わずディアラントの言葉の一部を繰り返した。
確かに言われてみれば、彼はどこかを忙しく駆けているようだった。
「あー…。ディア、すまん。キー坊のことだけどよ……多分おれじゃなくて、お前がどうにかした方がはえぇわ。」
「へ?」
ディアラントの声が、妙に高く跳ねる。
おそらく電話の向こうでディアラントが顔を真っ青にしているのだろうが、事実なので仕方ない。
ミゲルは躊躇わずに告げる。
「キー坊なら確か、フールがそっちの資料室に連れてったはずだぜ。休みになったなら、せっかくだしドラゴンのことを調べようとか言って。」
それを聞いたディアラントが音にならない声で絶叫したのを察しながら、ミゲルは無言で電話を切ることにした。
誰だ。
このくそ忙しい時に、電話を鳴らす不届き者は。
苛立ちを抑えながら携帯電話を手に取り、ディスプレイに映った名前を見て、ひとまず怒鳴るのはやめることにした。
「なんだよ、隊長殿? わざわざ、嫌味の電話か?」
開口一番に皮肉たっぷりな言葉を投げつけたミゲルに、電話の向こうのディアラントは情けない声をあげた。
「先輩、怒らないでくださいよ~。オレの仕事を丸投げしたのは悪かったですけどー…」
「そう思うなら、ちったあ計画的に書類仕事を片付けやがれってんだ。なんなんだよ、この量!」
「いやぁ、締切に間に合えば大丈夫かなって思って……」
悪いと思っているのかいないのか。
半分泣いているディアラントの声を聞きながら、ミゲルは辟易として頭を押さえた。
ドラゴン管理の責任者は、結局のところジョーがひったくっていった。
とはいえ、彼にだけ責任を負わせるのも色んな意味で怖いので、補佐としての任は買わせてもらった。
その影響でただでさえ仕事が増えているというのに、ディアラントの仕事のフォローまでしなくてはいけないとは。
一応隊長からの電話だから出たが、本当はこうして無駄口を叩いている暇などないのである。
こんな時に頼りになるジョーはというと、今頃ケンゼルやランドルフと共に情報操作に明け暮れる傍らで、涼しい顔をしながらターニャの仕事を手伝っているだろう。
その状況が見える手前、何があっても彼だけは呼び戻せない。
結局、仕事をたんまりと溜め込んでくれた隊長の代わりは、自分とアイロスでどうにか回すことに。
そしてルルアの大統領が来たということで、より厳重にしなければならなくなった宮殿本部の警備は、他のドラゴン殲滅部隊の面々にぶん投げるしかなかった。
部隊のトップが、揃いも揃って手が離せないというこの状況。
さて、この後どう説教をしてくれようか。
まあ、件の大統領の傍にはディアラントがいるわけだし、何かが起こったとしても、大統領の身には傷一つつくまい。
それにあのルルアの大統領ともなれば、警備を厳重にしなくとも、自分の身くらい余裕で守れるだろうが。
「―――って、それどころじゃないんですよぉ!!」
ディアラントが声を荒げる。
割と本気で焦っているらしい。
「……手短に言え。こっちは、くそ忙しいんだ。」
ひとまず、話だけは聞いてやるか。
とはいえ、暢気におしゃべりをしている時間はないので、ミゲルは携帯電話を肩と耳で挟み、キーボードを叩くことを再開する。
「キリハのことで、お願いがあるんです!」
「ああ? キー坊?」
これまた意外な用件だ。
ミゲルは、不可解そうに顔をしかめる。
「今日ってキリハたち、急きょ休みになってるじゃないですか? だから、雑用を手伝ってほしいとか適当な理由をつけて、今日一日、どうにかキリハを傍に置いといてくれません? キリハなら、絶対に嫌がらないんで!!」
「はあ?」
謎が謎を呼ぶディアラントの発言に、ミゲルは思わずキーボードを叩く手を止めてしまった。
「馬鹿か、お前は…。寝言なら寝てから言え。さすがに、軍務を手伝わせるのはねぇだろうが。せっかくの休みくらい、自由にさせてやれや。」
「そんなことを言ってる場合じゃないんですよ!!」
ディアラントはディアラントで、必死に言い募る。
ミゲルは溜め息をつき、もう少しだけ事情を聞くことにする。
「なんでだ? 理由を言え。」
「結論だけを言うと、キリハとノア様を会わせたくないんです。」
「はあぁ?」
ますます意味が分からない。
「すまん…。おれ、まだ話は通じる方だとは思うんだけどよ……」
「ああ~…っ。色々と説明をはしょってるのは分かってるんですけど、今はとにかく協力してくれません? 詳しいことは、後で洗いざらい話すんで!」
「……ったく、仕方ねぇな。」
「ありがとうございます!!」
ディアラントの声に、ようやくいつもの明るさが戻った。
やれやれ、また余計な仕事を増やしてしまった。
ずんと肩が重くなるのを感じながら、ミゲルは再度口を開く。
「つーかお前、よくそんなでけぇ声で話せるな。確か、その大統領を迎えに行ったんじゃなかったのか?」
「今は別行動中です。ノア様がターニャ様の執務室を見てみたいって言うんで、オレが一足早く執務室に行って、諸々の準備をしてくるってことで抜けてきました。」
「……執務室?」
目をまたたいたミゲルは、思わずディアラントの言葉の一部を繰り返した。
確かに言われてみれば、彼はどこかを忙しく駆けているようだった。
「あー…。ディア、すまん。キー坊のことだけどよ……多分おれじゃなくて、お前がどうにかした方がはえぇわ。」
「へ?」
ディアラントの声が、妙に高く跳ねる。
おそらく電話の向こうでディアラントが顔を真っ青にしているのだろうが、事実なので仕方ない。
ミゲルは躊躇わずに告げる。
「キー坊なら確か、フールがそっちの資料室に連れてったはずだぜ。休みになったなら、せっかくだしドラゴンのことを調べようとか言って。」
それを聞いたディアラントが音にならない声で絶叫したのを察しながら、ミゲルは無言で電話を切ることにした。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい
広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」
「え?」
「は?」
「いせかい……?」
異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。
ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。
そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!?
異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。
時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。
目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』
半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。
そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。
伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。
信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。
少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。
====
※お気に入り、感想がありましたら励みになります
※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。
※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります
※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる