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第2章 ルルアのカリスマ王
先手を打つも……
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必死にパソコンのキーボードを叩いていると、けたたましく携帯電話が鳴り響いた。
誰だ。
このくそ忙しい時に、電話を鳴らす不届き者は。
苛立ちを抑えながら携帯電話を手に取り、ディスプレイに映った名前を見て、ひとまず怒鳴るのはやめることにした。
「なんだよ、隊長殿? わざわざ、嫌味の電話か?」
開口一番に皮肉たっぷりな言葉を投げつけたミゲルに、電話の向こうのディアラントは情けない声をあげた。
「先輩、怒らないでくださいよ~。オレの仕事を丸投げしたのは悪かったですけどー…」
「そう思うなら、ちったあ計画的に書類仕事を片付けやがれってんだ。なんなんだよ、この量!」
「いやぁ、締切に間に合えば大丈夫かなって思って……」
悪いと思っているのかいないのか。
半分泣いているディアラントの声を聞きながら、ミゲルは辟易として頭を押さえた。
ドラゴン管理の責任者は、結局のところジョーがひったくっていった。
とはいえ、彼にだけ責任を負わせるのも色んな意味で怖いので、補佐としての任は買わせてもらった。
その影響でただでさえ仕事が増えているというのに、ディアラントの仕事のフォローまでしなくてはいけないとは。
一応隊長からの電話だから出たが、本当はこうして無駄口を叩いている暇などないのである。
こんな時に頼りになるジョーはというと、今頃ケンゼルやランドルフと共に情報操作に明け暮れる傍らで、涼しい顔をしながらターニャの仕事を手伝っているだろう。
その状況が見える手前、何があっても彼だけは呼び戻せない。
結局、仕事をたんまりと溜め込んでくれた隊長の代わりは、自分とアイロスでどうにか回すことに。
そしてルルアの大統領が来たということで、より厳重にしなければならなくなった宮殿本部の警備は、他のドラゴン殲滅部隊の面々にぶん投げるしかなかった。
部隊のトップが、揃いも揃って手が離せないというこの状況。
さて、この後どう説教をしてくれようか。
まあ、件の大統領の傍にはディアラントがいるわけだし、何かが起こったとしても、大統領の身には傷一つつくまい。
それにあのルルアの大統領ともなれば、警備を厳重にしなくとも、自分の身くらい余裕で守れるだろうが。
「―――って、それどころじゃないんですよぉ!!」
ディアラントが声を荒げる。
割と本気で焦っているらしい。
「……手短に言え。こっちは、くそ忙しいんだ。」
ひとまず、話だけは聞いてやるか。
とはいえ、暢気におしゃべりをしている時間はないので、ミゲルは携帯電話を肩と耳で挟み、キーボードを叩くことを再開する。
「キリハのことで、お願いがあるんです!」
「ああ? キー坊?」
これまた意外な用件だ。
ミゲルは、不可解そうに顔をしかめる。
「今日ってキリハたち、急きょ休みになってるじゃないですか? だから、雑用を手伝ってほしいとか適当な理由をつけて、今日一日、どうにかキリハを傍に置いといてくれません? キリハなら、絶対に嫌がらないんで!!」
「はあ?」
謎が謎を呼ぶディアラントの発言に、ミゲルは思わずキーボードを叩く手を止めてしまった。
「馬鹿か、お前は…。寝言なら寝てから言え。さすがに、軍務を手伝わせるのはねぇだろうが。せっかくの休みくらい、自由にさせてやれや。」
「そんなことを言ってる場合じゃないんですよ!!」
ディアラントはディアラントで、必死に言い募る。
ミゲルは溜め息をつき、もう少しだけ事情を聞くことにする。
「なんでだ? 理由を言え。」
「結論だけを言うと、キリハとノア様を会わせたくないんです。」
「はあぁ?」
ますます意味が分からない。
「すまん…。おれ、まだ話は通じる方だとは思うんだけどよ……」
「ああ~…っ。色々と説明をはしょってるのは分かってるんですけど、今はとにかく協力してくれません? 詳しいことは、後で洗いざらい話すんで!」
「……ったく、仕方ねぇな。」
「ありがとうございます!!」
ディアラントの声に、ようやくいつもの明るさが戻った。
やれやれ、また余計な仕事を増やしてしまった。
ずんと肩が重くなるのを感じながら、ミゲルは再度口を開く。
「つーかお前、よくそんなでけぇ声で話せるな。確か、その大統領を迎えに行ったんじゃなかったのか?」
「今は別行動中です。ノア様がターニャ様の執務室を見てみたいって言うんで、オレが一足早く執務室に行って、諸々の準備をしてくるってことで抜けてきました。」
「……執務室?」
目をまたたいたミゲルは、思わずディアラントの言葉の一部を繰り返した。
確かに言われてみれば、彼はどこかを忙しく駆けているようだった。
「あー…。ディア、すまん。キー坊のことだけどよ……多分おれじゃなくて、お前がどうにかした方がはえぇわ。」
「へ?」
ディアラントの声が、妙に高く跳ねる。
おそらく電話の向こうでディアラントが顔を真っ青にしているのだろうが、事実なので仕方ない。
ミゲルは躊躇わずに告げる。
「キー坊なら確か、フールがそっちの資料室に連れてったはずだぜ。休みになったなら、せっかくだしドラゴンのことを調べようとか言って。」
それを聞いたディアラントが音にならない声で絶叫したのを察しながら、ミゲルは無言で電話を切ることにした。
誰だ。
このくそ忙しい時に、電話を鳴らす不届き者は。
苛立ちを抑えながら携帯電話を手に取り、ディスプレイに映った名前を見て、ひとまず怒鳴るのはやめることにした。
「なんだよ、隊長殿? わざわざ、嫌味の電話か?」
開口一番に皮肉たっぷりな言葉を投げつけたミゲルに、電話の向こうのディアラントは情けない声をあげた。
「先輩、怒らないでくださいよ~。オレの仕事を丸投げしたのは悪かったですけどー…」
「そう思うなら、ちったあ計画的に書類仕事を片付けやがれってんだ。なんなんだよ、この量!」
「いやぁ、締切に間に合えば大丈夫かなって思って……」
悪いと思っているのかいないのか。
半分泣いているディアラントの声を聞きながら、ミゲルは辟易として頭を押さえた。
ドラゴン管理の責任者は、結局のところジョーがひったくっていった。
とはいえ、彼にだけ責任を負わせるのも色んな意味で怖いので、補佐としての任は買わせてもらった。
その影響でただでさえ仕事が増えているというのに、ディアラントの仕事のフォローまでしなくてはいけないとは。
一応隊長からの電話だから出たが、本当はこうして無駄口を叩いている暇などないのである。
こんな時に頼りになるジョーはというと、今頃ケンゼルやランドルフと共に情報操作に明け暮れる傍らで、涼しい顔をしながらターニャの仕事を手伝っているだろう。
その状況が見える手前、何があっても彼だけは呼び戻せない。
結局、仕事をたんまりと溜め込んでくれた隊長の代わりは、自分とアイロスでどうにか回すことに。
そしてルルアの大統領が来たということで、より厳重にしなければならなくなった宮殿本部の警備は、他のドラゴン殲滅部隊の面々にぶん投げるしかなかった。
部隊のトップが、揃いも揃って手が離せないというこの状況。
さて、この後どう説教をしてくれようか。
まあ、件の大統領の傍にはディアラントがいるわけだし、何かが起こったとしても、大統領の身には傷一つつくまい。
それにあのルルアの大統領ともなれば、警備を厳重にしなくとも、自分の身くらい余裕で守れるだろうが。
「―――って、それどころじゃないんですよぉ!!」
ディアラントが声を荒げる。
割と本気で焦っているらしい。
「……手短に言え。こっちは、くそ忙しいんだ。」
ひとまず、話だけは聞いてやるか。
とはいえ、暢気におしゃべりをしている時間はないので、ミゲルは携帯電話を肩と耳で挟み、キーボードを叩くことを再開する。
「キリハのことで、お願いがあるんです!」
「ああ? キー坊?」
これまた意外な用件だ。
ミゲルは、不可解そうに顔をしかめる。
「今日ってキリハたち、急きょ休みになってるじゃないですか? だから、雑用を手伝ってほしいとか適当な理由をつけて、今日一日、どうにかキリハを傍に置いといてくれません? キリハなら、絶対に嫌がらないんで!!」
「はあ?」
謎が謎を呼ぶディアラントの発言に、ミゲルは思わずキーボードを叩く手を止めてしまった。
「馬鹿か、お前は…。寝言なら寝てから言え。さすがに、軍務を手伝わせるのはねぇだろうが。せっかくの休みくらい、自由にさせてやれや。」
「そんなことを言ってる場合じゃないんですよ!!」
ディアラントはディアラントで、必死に言い募る。
ミゲルは溜め息をつき、もう少しだけ事情を聞くことにする。
「なんでだ? 理由を言え。」
「結論だけを言うと、キリハとノア様を会わせたくないんです。」
「はあぁ?」
ますます意味が分からない。
「すまん…。おれ、まだ話は通じる方だとは思うんだけどよ……」
「ああ~…っ。色々と説明をはしょってるのは分かってるんですけど、今はとにかく協力してくれません? 詳しいことは、後で洗いざらい話すんで!」
「……ったく、仕方ねぇな。」
「ありがとうございます!!」
ディアラントの声に、ようやくいつもの明るさが戻った。
やれやれ、また余計な仕事を増やしてしまった。
ずんと肩が重くなるのを感じながら、ミゲルは再度口を開く。
「つーかお前、よくそんなでけぇ声で話せるな。確か、その大統領を迎えに行ったんじゃなかったのか?」
「今は別行動中です。ノア様がターニャ様の執務室を見てみたいって言うんで、オレが一足早く執務室に行って、諸々の準備をしてくるってことで抜けてきました。」
「……執務室?」
目をまたたいたミゲルは、思わずディアラントの言葉の一部を繰り返した。
確かに言われてみれば、彼はどこかを忙しく駆けているようだった。
「あー…。ディア、すまん。キー坊のことだけどよ……多分おれじゃなくて、お前がどうにかした方がはえぇわ。」
「へ?」
ディアラントの声が、妙に高く跳ねる。
おそらく電話の向こうでディアラントが顔を真っ青にしているのだろうが、事実なので仕方ない。
ミゲルは躊躇わずに告げる。
「キー坊なら確か、フールがそっちの資料室に連れてったはずだぜ。休みになったなら、せっかくだしドラゴンのことを調べようとか言って。」
それを聞いたディアラントが音にならない声で絶叫したのを察しながら、ミゲルは無言で電話を切ることにした。
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