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第3章 知って 向き合って そして進んで
持ちかけられた取引
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オークスから得られた答えに、キリハはパッと表情を明るくした。
「―――っ!! ホント!?」
「おっと。」
思わず椅子から腰を浮かせるキリハに、オークスは素早く手を突き出す。
「慌てない、慌てない。君が知りたいことは、ちゃんと教えてあげよう。だから君も、僕の研究にちょいと協力してくれんかね?」
「協力…?」
「なーに、難しいことは何もないさ。定期的にサンプルが欲しいのと、ちょっとした心理テストを受けてほしいだけだよ。」
言葉の意味を表すように、オークスは机に並べられた道具の中から、採血用の注射器を取ってちらつかせる。
その仕草で、彼が何を求めているのかを察した。
「サンプルって……俺の?」
「それ以外だったら、君に許可を取る必要がないだろう? 《焔乱舞》と君は、研究部の中でも話題だからね。」
瞼を叩いて自分を指差すキリハに、オークスはにやりと口の端を吊り上げる。
「科学的には解明できないシステムを持った《焔乱舞》と、それに選ばれた君だよ? 科学者として、こんなに食指が動くモルモットはいないよ。誰が君を丸め込むかって、さっきもあんなにいがみ合ってたろう?」
「え…? さっきのって、俺がみんなに嫌がられてたんじゃないの?」
予想外だったのでそう訊ねると、オークスはいやいやと大きく手を振った。
「そんなわけないだろう。逆だよ逆。君なら、誰もがいつでも大歓迎だと思うよ?」
「なんで…? だって、俺はここの人たちとそんなに仲良くないし、竜使いなのに―――」
「いいことを教えてやろう。」
オークスはキリハの言葉を遮り、すっと指を立てた。
「先入観ってものは、いつの時代も真実を歪めるものだ。世界的大発見というのは、いつも常識を超えたところに存在している。科学っていうのはね、常に全てを疑うことから始まるのさ。」
「疑うことから…?」
まさに自分が苦手そうな分野だ。
でも、オークスの話には、なんだかとても興味がそそられる。
キリハは真剣な眼差しで彼の話に耳を傾けた。
「そう。先入観や常識に囚われている時点で、科学者としては失格だよ。僕らは嘘をつかないデータと向き合って、論理的に証明された事実だけを信じている。そして、少しでも多くの事象の真実を知りたいと思っている。竜使いなんて希少価値の高い人間を毛嫌いするだけ、損というものだ。そして僕は、数少ない竜使いの中でも、とりわけ君に興味がある。」
「俺に?」
「そうとも。」
語るオークスは楽しげだ。
「ドラゴンに味方した時点で、君は普通の人間とも、竜使いとも一線を画した。僕は、そんな君に興味がある。君の中の何がそんなことをさせるのか……―――あるいは、《焔乱舞》の何が君にそんな言動をさせるのか。」
「……焔が?」
どういうことなのだろう?
キリハは目をまたたく。
「別に、ありえないことではあるまい?」
オークスは当然のことのように告げた。
「考えてみたことはないかな? 神竜リュドルフリアの血と炎を宿し、触れる人間を選ぶ《焔乱舞》。何故わざわざ、触れる人間を選ぶ必要があるのだろうな?」
「そう言われてみると、なんでなんだろう…?」
「推測はいくらでも立てられるが、そうだなぁ…。誰にでも触れられるようでは、《焔乱舞》にとって、あるいはドラゴンにとって、何かが不都合なのかもしれん。」
「不都合?」
「うむ。」
これが学者モードというやつだろうか。
真面目な表情で推測を述べるオークスは、こちらに向かって語りかけているというよりも、自分の中で情報を整理しながら呟いているといった風に見えた。
「もしそう仮定するなら、君はドラゴンにとって、都合のいい人間だと言える。では《焔乱舞》は、何を根拠にして君を都合のいい人間だと判断したのか? 何らかの因果関係から、君がドラゴンに決して敵対しないと見抜いたのか……もしくは、そうあるように洗脳できる人間を、適合者として選んだのか。」
「え…?」
―――《焔乱舞》が、人間を洗脳する?
オークスが提示した可能性の一つに、キリハは絶句してしまった。
そんなはずはないと思いたい。
だが、あのドラゴンたちをかばえたのは、《焔乱舞》が彼らを屠ろうとしなかったからだ。
あれがなければ、自分はきっと疑問を持たなかった。
やらなきゃいけないと自分の心に言い聞かせて、今までと同じように炎を放っただろう。
それに最近になって、妙な声らしきものが聞こえるのは何故?
まさか、自分が気付いていないところで、自分の何かが変わっているとでもいうのだろうか。
―――この、《焔乱舞》によって。
「そんな青い顔をするんじゃないよ。別に、脅したわけじゃない。単なる可能性の一つってだけの話じゃないか。」
黙り込んで床を見つめるキリハに、オークスは呆れたような息を吐いた。
「仮説を立て始めたらきりがない。だから知りたいんじゃないか。……とはいえそれの場合、僕が生きているうちに、必ずしも全部が解明できるってわけじゃなさそうだけど。それでも、ね? 知りたくはないかい?」
ずるい言い方だ。
そんな風に言われたら、拒めないではないか。
疑いたくない。
否定されたくない。
《焔乱舞》のこと。
ドラゴンのこと。
そしてもちろん、今まで共に戦ってきた仲間たちのことも。
それだけが、はっきりとしている自分の気持ち。
ならば―――
「―――っ!! ホント!?」
「おっと。」
思わず椅子から腰を浮かせるキリハに、オークスは素早く手を突き出す。
「慌てない、慌てない。君が知りたいことは、ちゃんと教えてあげよう。だから君も、僕の研究にちょいと協力してくれんかね?」
「協力…?」
「なーに、難しいことは何もないさ。定期的にサンプルが欲しいのと、ちょっとした心理テストを受けてほしいだけだよ。」
言葉の意味を表すように、オークスは机に並べられた道具の中から、採血用の注射器を取ってちらつかせる。
その仕草で、彼が何を求めているのかを察した。
「サンプルって……俺の?」
「それ以外だったら、君に許可を取る必要がないだろう? 《焔乱舞》と君は、研究部の中でも話題だからね。」
瞼を叩いて自分を指差すキリハに、オークスはにやりと口の端を吊り上げる。
「科学的には解明できないシステムを持った《焔乱舞》と、それに選ばれた君だよ? 科学者として、こんなに食指が動くモルモットはいないよ。誰が君を丸め込むかって、さっきもあんなにいがみ合ってたろう?」
「え…? さっきのって、俺がみんなに嫌がられてたんじゃないの?」
予想外だったのでそう訊ねると、オークスはいやいやと大きく手を振った。
「そんなわけないだろう。逆だよ逆。君なら、誰もがいつでも大歓迎だと思うよ?」
「なんで…? だって、俺はここの人たちとそんなに仲良くないし、竜使いなのに―――」
「いいことを教えてやろう。」
オークスはキリハの言葉を遮り、すっと指を立てた。
「先入観ってものは、いつの時代も真実を歪めるものだ。世界的大発見というのは、いつも常識を超えたところに存在している。科学っていうのはね、常に全てを疑うことから始まるのさ。」
「疑うことから…?」
まさに自分が苦手そうな分野だ。
でも、オークスの話には、なんだかとても興味がそそられる。
キリハは真剣な眼差しで彼の話に耳を傾けた。
「そう。先入観や常識に囚われている時点で、科学者としては失格だよ。僕らは嘘をつかないデータと向き合って、論理的に証明された事実だけを信じている。そして、少しでも多くの事象の真実を知りたいと思っている。竜使いなんて希少価値の高い人間を毛嫌いするだけ、損というものだ。そして僕は、数少ない竜使いの中でも、とりわけ君に興味がある。」
「俺に?」
「そうとも。」
語るオークスは楽しげだ。
「ドラゴンに味方した時点で、君は普通の人間とも、竜使いとも一線を画した。僕は、そんな君に興味がある。君の中の何がそんなことをさせるのか……―――あるいは、《焔乱舞》の何が君にそんな言動をさせるのか。」
「……焔が?」
どういうことなのだろう?
キリハは目をまたたく。
「別に、ありえないことではあるまい?」
オークスは当然のことのように告げた。
「考えてみたことはないかな? 神竜リュドルフリアの血と炎を宿し、触れる人間を選ぶ《焔乱舞》。何故わざわざ、触れる人間を選ぶ必要があるのだろうな?」
「そう言われてみると、なんでなんだろう…?」
「推測はいくらでも立てられるが、そうだなぁ…。誰にでも触れられるようでは、《焔乱舞》にとって、あるいはドラゴンにとって、何かが不都合なのかもしれん。」
「不都合?」
「うむ。」
これが学者モードというやつだろうか。
真面目な表情で推測を述べるオークスは、こちらに向かって語りかけているというよりも、自分の中で情報を整理しながら呟いているといった風に見えた。
「もしそう仮定するなら、君はドラゴンにとって、都合のいい人間だと言える。では《焔乱舞》は、何を根拠にして君を都合のいい人間だと判断したのか? 何らかの因果関係から、君がドラゴンに決して敵対しないと見抜いたのか……もしくは、そうあるように洗脳できる人間を、適合者として選んだのか。」
「え…?」
―――《焔乱舞》が、人間を洗脳する?
オークスが提示した可能性の一つに、キリハは絶句してしまった。
そんなはずはないと思いたい。
だが、あのドラゴンたちをかばえたのは、《焔乱舞》が彼らを屠ろうとしなかったからだ。
あれがなければ、自分はきっと疑問を持たなかった。
やらなきゃいけないと自分の心に言い聞かせて、今までと同じように炎を放っただろう。
それに最近になって、妙な声らしきものが聞こえるのは何故?
まさか、自分が気付いていないところで、自分の何かが変わっているとでもいうのだろうか。
―――この、《焔乱舞》によって。
「そんな青い顔をするんじゃないよ。別に、脅したわけじゃない。単なる可能性の一つってだけの話じゃないか。」
黙り込んで床を見つめるキリハに、オークスは呆れたような息を吐いた。
「仮説を立て始めたらきりがない。だから知りたいんじゃないか。……とはいえそれの場合、僕が生きているうちに、必ずしも全部が解明できるってわけじゃなさそうだけど。それでも、ね? 知りたくはないかい?」
ずるい言い方だ。
そんな風に言われたら、拒めないではないか。
疑いたくない。
否定されたくない。
《焔乱舞》のこと。
ドラゴンのこと。
そしてもちろん、今まで共に戦ってきた仲間たちのことも。
それだけが、はっきりとしている自分の気持ち。
ならば―――
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