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【第3部】エピローグ
憎めない彼
しおりを挟む「乾杯!!」
その夜。
ドラゴン殲滅部隊とその関係者で、ディアラントとキリハを祝うパーティーが行われた。
「キー坊! お前、ディアと互角ってすげぇな! いいとこまで踏ん張るとは思ってたが、まさか同時優勝まで漕ぎ着けるとは思わなかったぜ。」
ミゲルに大きく肩を叩かれると、持っていたコップからジュースが零れた。
ようやく大会が終わったことで、気苦労から解放されたのだろう。
こういう盛り上がる場ではいつも保護者側に立つミゲルだが、今日は最初から酒を手にして上機嫌だ。
他の皆も同じく。
この盛り上がりようは、ディアラントの帰国を祝った時に匹敵するのではないだろうか。
「互角じゃないよ。あれは俺の負け。」
キリハは苦笑する。
自分もディアラントも感じていた〝あともう少し〟。
それの指すところは、自分たちの中では明らかな優劣だった。
あのまま試合が続行されていれば、十五分もあれば、ディアラントが自分のことを巻き込んでいたことだろう。
仮に再試合が設定されたとしたら、その時は試合の規定時間内に、明らかな実力差できっちりと決着がつく。
感情は関係なく、それは紛れもない事実だった。
「何はともあれ、本当にお疲れ様。しばらくは、ゆっくりできそうだね。」
微笑んだサーシャが、ほっとしたように胸に手を当てた。
「えー? 忙しいのは、これからじゃないの?」
その隣で、カレンがサーシャとは真逆の意見を述べた。
「だって今までは、焔に選ばれた天才だとかって、勝手に周りが騒いでただけだけどさ。今回はすっごく分かりやすい形で、キリハが自分への評価を認めたようなもんじゃん。」
「カレンちゃん!」
サーシャが途端に声を荒げる。
それは暗に、サーシャ自身もそう感じていることを示していた。
とはいえ、否定できないのが複雑だ。
さすがに、ここまで快挙の数々を積み上げてしまった手前、何もかもから逃げるわけにはいかないらしい。
なんとかテレビへの出演だけは免れたが、しばらくはディアラントと共に、雑誌や新聞の取材には応じなければならないそうだ。
細かい打ち合わせはディアラントと情報部でやってくれるそうなので、自分は待つだけなのだけど。
「うん、まあ……もう、どうにでもなれって感じ。ディア兄ちゃんがここまで有名だった時点で、どのみち俺はこうなってた気がするもん。」
全てが終わって振り返ってみれば、どう足掻いていたところで、この結末は変わらなかったように思える。
それなら、いつまでも無駄な現実逃避をするのはやめて、この状況とどう付き合っていくかを考えた方が有意義そうだ。
「キー坊…。お前も、来るとこまで来ちまったか…。ようこそ、諦めの世界へ。」
心底同情したようなミゲルの声。
「うん。ミゲルも、色々と大変だったんだね。」
キリハは苦笑を返すしかなかった。
今回の経験を通して、ミゲルが普段から抱える心労の重みが身に沁みて分かったような気がする。
暢気なディアラントに振り回されながら、それでも根気強く支えていくその精神力は脱帽ものだ。
「お前、本当にいい奴だな。ディアに爪の垢を煎じて飲ませたいぜ。……でも、えらい目に遭っても、憎めないところがどうしようもなくてな。」
「確かに。」
ミゲルと目を合わせ、キリハはうんうんと頷いた。
散々な日々だったし、嫌な思いも腐るほどしたのに、それでも渦中のディアラントを悪く思えないのだから困ってしまう。
結果的にディアラントが無事に優勝することができたのだから、それならそれでいいかと思えてしまうのだ。
自分やミゲルが相当なお人好しなのか、そう思わせてしまうディアラントの力がすごいのか。
「―――あ…。みんな、ちょっとごめん。」
視界の端である光景を認め、キリハは断りを入れてミゲルたちから離れる。
パーティー会場として使われている食堂の窓から外へ出て、裏庭に向かうその人物を追った。
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