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第6章 伝説と謳われる男
栄冠は誰の手に
しおりを挟む「!?」
キリハとディアラントは、それぞれ踏み出しかけた一歩をなんとかその場でこらえた。
「へ…?」
キリハの背後を見つめるディアラントが、そんな間抜けな声を漏らす。
それでキリハも後ろを振り向き、ディアラントと同じように大きく目を見開いた。
「ターニャ…?」
選手入場口から姿を現したのはターニャだった。
さっき割り込んできた声は、彼女のものだったらしい。
どうりで体が反射的に従ったわけだ。
ターニャは冷静な表情と凛とした佇まいでフィールド上を進み、キリハとディアラントの間に立つと静かに口を開いた。
「規定の試合時間を、三十分以上超過しています。試合終了の音が聞こえませんでしたか?」
「!!」
胸元のピンマイクを通して、アリーナ内にターニャの声が木霊する。
キリハとディアラントは、驚愕して顔を見合わせた。
本決勝戦の試合時間は九十分。
いつの間にか自分たちは時間を忘れ、約二時間もの間、剣を交え続けていたらしい。
「これ以上は、試合続行不能と判断します。大会規定に基づき、ディアラント、キリハの双方を今大会の優勝者として認めます。この決定は、大会運営委員会と神官の名において下されたものです。異論は認めません。」
そこまで言い、ターニャはキリハとディアラントの二人と丁寧に目を合わせ、その顔に柔らかな微笑を浮かべた。
「お二人とも、お疲れ様でした。ドラゴン殲滅部隊の隊長として、第十四期竜騎士隊の代表として、その名に恥じぬ戦いぶりでした。あなた方の試合は、大会史上に大きく残るでしょう。」
ターニャが笑みを深める。
するとターニャの言葉に触発されたように、それまで静まっていた観客席から、興奮した歓声が沸きあがった。
観客たちは一人残らず立ち上がり、キリハたちに大きな拍手喝采を送っている。
大型モニターには他の競技場の様子が映し出され、そこでも立ち上がった観客たちが、狂ったように手を叩いていた。
茫然とそれらを見ていると、ふいに頭に大きな手が置かれた。
それで我に返って顔を上げると、いつの間にか隣に来ていたディアラントが、こちらを見下ろしていた。
「お疲れ。まさか、同着に持ち込まれるとは思ってなかった。ビビったぞ、お前の本気。」
優しげな兄のような表情でキリハの頭をなでて、ディアラントは次に意地の悪い笑顔をたたえる。
「でも、惜しかったなぁ。あともう少しだったのに、な?」
「……ね?」
やりきった顔のディアラントを見て、ようやく肩の力が抜けた。
キリハは肩を落として破顔する。
二人は互いに笑い合い、ターニャの後をに続いて会場を去った。
それからもしばらく、会場を包む拍手の音は止まずに響いていたという。
試合時間を大きく超過しての同時優勝。
これは大会史上初の快挙であり、大会四連覇を達成したディアラントと、彼の唯一の弟子であり、大会優勝の最年少記録を更新したキリハの名は、国内に大きく轟くことになるのだった。
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