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第5章 人々の裏表
ジョーの微笑み
しおりを挟む「―――つまんないの。」
ジョーの口から放たれたのは、そんな一言。
想像を大きく外れる彼の言葉に、男性たちだけではなく、廊下に立つキリハまでポカンと口を開けた。
「もう…。情報が欲しいから見返りにお金を出すって、なんなのその月並みな待遇。全然、面白味の欠片もないんだけど?」
「なっ…」
「ランドルフ上官には悪いけど、僕はここでの生活が結構気に入ってるんだよねー。そっちにいるより、断然面白いし。」
歌うようにそう言ったジョーは、そこで男性たちに爽やかな笑顔を向けた。
「僕を連れ戻したいなら、ここよりも面白い何かを持ってきてくれる? そしたら、ちょっとは考えてあげるかもね。」
「お前! 一体、何考えて―――」
「あ、そうそう。」
わざとらしく言葉尻を上げ、ジョーはズボンの後ろポケットに手を伸ばした。
そこから現れた片手に収まるほどの大きさの機械を見た瞬間、男性たちの表情からざっと血の気が引いていく。
「僕を相手に、よく手ぶらで来られたね? 今の会話は、全部記録させてもらったよ。ここに呼び出されるまでのメールも全部保存済み。まったく……内密な話をするなら、メールに削除設定をかけるのが常識でしょ? そんなんでよく、参謀局第一部隊にいるなんて自慢できるよね。……ま、そんな小癪な手を使われても、証拠を押さえる方法なんていくらでもあるんだけど。それに―――今の会話に関しては、僕以外にも目撃者がいるみたいだよ?」
「―――っ!?」
ジョーの指摘に驚いた男性たちの視線が、ドアに張りつくようにして立ち尽くしていたキリハに集中する。
「あ……えっと……」
未だに混乱しているキリハは、口も体も上手く動かせずに狼狽えるのみ。
キリハと男性たちの双方を見やり、ジョーはくすくすと笑う。
「ほらほら、今日は帰った方がいいんじゃない? 大丈夫。このことは、内緒にしといてあげるから。―――僕の機嫌を損ねるようなことさえしなければ、ね?」
「く、くそっ!」
男性たちは悔しげに舌を打つと、茫然としているキリハを押しのけて、慌ただしく廊下を駆けていった。
「ほーんとに、君ってさ……」
「わっ!?」
ただ動くものを追うように自然な流れで男性たちを見送っていた視界が、なんの前触れもなく揺れる。
動揺しているところにさらなる追い打ちをかけられ、体も頭も全く状況についていけなかった。
気付けば資料室の中に引き込まれ、閉められたドアとジョーの間に挟まれている状態になっていた。
「前々から思ってたんだけど、タイミング悪く無駄なことを見聞きしちゃう子だよね。受難体質なの? アイロス君と気が合うかもよ?」
妖しい笑みを浮かべ、ジョーは人差し指をキリハの唇にそっと当てた。
「このことは、二人だけの秘密ね? こういう情報ってのは、使い時があるんだ。」
瞳の奥の、どこか蠱惑的な揺らめき。
それに、意識が全て持っていかれてしまう。
「ふふ、驚かせちゃった? ごめんね。都合よく誰かが聞いといてくれないかなって思って、わざとドアを開けておいたんだけど、まさかキリハ君が聞くことになるとは思ってなかったよ。」
たたえる笑みをいつもどおりの柔らかいものに変えたジョーは、蛇に睨まれた蛙のような顔をしているキリハの頭を優しくなでた。
それで幾分か緊張が和らいだものの、相変わらず心臓はうるさく鳴り響いたまま。
「今のって……」
からからに渇いた喉から絞り出されたのは、今にもかすれて消えてしまいそうな声だった。
「ああ、あれ? この時期になると、一気に増えるんだよね。珍しいことじゃないよ。僕だけじゃなくて、ドラゴン部隊にいる人なら、一度はこの経験をしてると思う。」
ジョーはそう言いながらキリハの手を引き、資料室の奥へと進んだ。
窓際に置かれた椅子にキリハを座らせ、自分もテーブルを挟んだ向かい側に腰を下ろす。
「仲が悪いはずなのに、なんでって思ってるよね?」
「………」
無言のまま、キリハは小さく頷いた。
「いいよ。教えてあげる。」
ジョーは快く頷き返した。
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