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第1章 帰国
師匠のすごさ
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「いやぁ、こっちに避難しておいてよかった。さっきまでの場所にいたら、お酒まみれになってたよ。……さて、じゃあやりますか。」
「だな。」
ミゲルとジョーは互いに頷き合って席を立つと、会議室に並ぶ机と椅子を部屋の隅へと移動させ始めた。
「あれ、二人とも混ざらないの?」
流れでミゲルたちの作業を手伝いながら、キリハは訊ねる。
するとジョーは苦笑を浮かべ、お祭り騒ぎになっている方へと視線を向けた。
「僕は、ああいうのはちょっと苦手なんだよね。それに、こういう場には素面で監督できる人がいないといけないし。」
「そーそ。許可を取ってあるとはいえ、さすがに備品を壊したら大目玉食らうだろうからな。」
ミゲルとジョーはてきぱきと作業を続けながら、時おりディアラントたちの様子を窺う。
完全にたがが外れている彼らは、雑用に勤しむ二人に全く気付いていない。
しかし二人はそれを不快に思っている風でもなく、彼らを眺める表情は穏やかだった。
「すげぇだろ、お前のお師匠さん。みんなが目の色変えてお前に群がってきた理由、少しは分かったんじゃないか?」
「うん。そうだね。」
ミゲルに言われ、キリハもディアラントへと視線を向ける。
次々と酒をかけられたり飲まされたりしながら、ディアラントは楽しそうに笑っている。
そしてそれは、ディアラントを囲む皆も同じだった。
ディアラントの帰国を祝う彼らの目には、後輩を可愛がる先輩としての色と同時に、隊長を慕う部下としての色も浮かんでいる。
普段からドラゴン殲滅部隊の団結力には感心することが多かったが、ディアラントが加わるだけで、その団結力はさらに揺るぎないものになっているように見えた。
「やっぱ、ディア兄ちゃんはどこに行ってもすごいんだなぁ。」
ディアラントを中心として回っている光景を前に、自分までも誇らしげな気分になった。
思えばディアラントは、昔からなんだか変わった雰囲気を持つ人だった。
孤児院に引き取られたばかりで、まだ少し遠巻きにされていた頃、真っ先に手を差し伸べてきたのが彼。
ディアラントと打ち解けてからは誰よりも彼を慕ってきたし、誰よりも気に入られていたという自覚もある。
ディアラントは自分にとって自慢の兄であり師匠であり、そして理想の人間像でもあった。
だからこそこんな風にディアラントが慕われ、皆に認められていることが自分のことのように嬉しく思える。
「ああ。本当に、大した奴だよ。あいつは。」
「うん。」
ミゲルとジョーが同意して頷いてくれる。
それがまた嬉しくて、キリハははにかんだ笑顔を見せた。
「そういえば、ディア。そろそろ大会の時期だな!!」
大いに盛り上がっている前方から、ふと聞こえてきたそんな言葉。
それを聞いた瞬間に、ミゲルとジョーの体がピクリと震えた。
そんな二人の反応など眼中にない様子で、ディアラントたちの会話は続く。
「ああ、そういえばそうですね。……はっ。ようやく帰ってこれたのって、そのせいか!」
「うわ、ありえるな。で、今年ももちろん優勝か?」
「もっちろーん♪ 先輩たち、本気で来てくださいね。オレも本気でお相手しますんで。」
「本気のお前になんか勝てっかよ! 五十パーセントの力でこい。ハンデだ、ハンデ。」
「嫌でーす。」
「こんのー。」
酒が入っているせいか、彼らの口調は明るくて軽い。
それに対し。
「……そうか。ドラゴンのせいですっかり抜けてたが、そんな時期か……」
「ほんと…。ドラゴンとは別の意味で、気を引き締めないとだね。」
ミゲルとジョーの声は、ぐっとトーンが下がっている。
ディアラントたちとミゲルたちを取り囲む空気の不一致。
「………?」
キリハは首を捻る。
当然ながら、この時のキリハは知る由もなかったのである。
宮殿中を揺るがすほどの一夏の嵐が息をひそめ、それでも確実に迫ってきていることに。
「だな。」
ミゲルとジョーは互いに頷き合って席を立つと、会議室に並ぶ机と椅子を部屋の隅へと移動させ始めた。
「あれ、二人とも混ざらないの?」
流れでミゲルたちの作業を手伝いながら、キリハは訊ねる。
するとジョーは苦笑を浮かべ、お祭り騒ぎになっている方へと視線を向けた。
「僕は、ああいうのはちょっと苦手なんだよね。それに、こういう場には素面で監督できる人がいないといけないし。」
「そーそ。許可を取ってあるとはいえ、さすがに備品を壊したら大目玉食らうだろうからな。」
ミゲルとジョーはてきぱきと作業を続けながら、時おりディアラントたちの様子を窺う。
完全にたがが外れている彼らは、雑用に勤しむ二人に全く気付いていない。
しかし二人はそれを不快に思っている風でもなく、彼らを眺める表情は穏やかだった。
「すげぇだろ、お前のお師匠さん。みんなが目の色変えてお前に群がってきた理由、少しは分かったんじゃないか?」
「うん。そうだね。」
ミゲルに言われ、キリハもディアラントへと視線を向ける。
次々と酒をかけられたり飲まされたりしながら、ディアラントは楽しそうに笑っている。
そしてそれは、ディアラントを囲む皆も同じだった。
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「やっぱ、ディア兄ちゃんはどこに行ってもすごいんだなぁ。」
ディアラントを中心として回っている光景を前に、自分までも誇らしげな気分になった。
思えばディアラントは、昔からなんだか変わった雰囲気を持つ人だった。
孤児院に引き取られたばかりで、まだ少し遠巻きにされていた頃、真っ先に手を差し伸べてきたのが彼。
ディアラントと打ち解けてからは誰よりも彼を慕ってきたし、誰よりも気に入られていたという自覚もある。
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だからこそこんな風にディアラントが慕われ、皆に認められていることが自分のことのように嬉しく思える。
「ああ。本当に、大した奴だよ。あいつは。」
「うん。」
ミゲルとジョーが同意して頷いてくれる。
それがまた嬉しくて、キリハははにかんだ笑顔を見せた。
「そういえば、ディア。そろそろ大会の時期だな!!」
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それを聞いた瞬間に、ミゲルとジョーの体がピクリと震えた。
そんな二人の反応など眼中にない様子で、ディアラントたちの会話は続く。
「ああ、そういえばそうですね。……はっ。ようやく帰ってこれたのって、そのせいか!」
「うわ、ありえるな。で、今年ももちろん優勝か?」
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「嫌でーす。」
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それに対し。
「……そうか。ドラゴンのせいですっかり抜けてたが、そんな時期か……」
「ほんと…。ドラゴンとは別の意味で、気を引き締めないとだね。」
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「………?」
キリハは首を捻る。
当然ながら、この時のキリハは知る由もなかったのである。
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