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第4章 暗闇の中に
叱責の裏側
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まっすぐ執務室に戻ったターニャは、机の上に積まれた書類に目を通しながらパソコンを起動する。
メール画面を開くと、そこにもおびただしい量の未処理メールが溜まっていた。
いつものことながら、この量には辟易としてしまう。
連日の激務にさすがに疲れを感じて、ターニャは柔らかい椅子に身を預けて脱力する。
「ターニャ……」
控えめに名前を呼ばれたのはその時だ。
伏せていた瞼を上げると、フールがちょこんと机に座ってこちらを見ていた。
「いいのですよ。」
フールが何を言いたいのかは、その気遣わしげな様子から察せられる。
「いい加減、誰かが言わなければならなかったのです。このままでは、ただの甘えになってしまいますし……かえって、キリハさんが可哀想です。」
今のような依存のしかたでは、キリハの自由を奪ってしまうことになりかねない。
自分がいないだけで、周囲の人間がここまで影響を受けてしまう。
そうと知れば、キリハは竜騎士の任務が終わった後も、周囲のために宮殿に残ることを選ぶだろう。
いくら根がまっすぐで芯が強いキリハでも、そんな状況に置かれれば、いずれ潰れてしまう。
度の超えた期待と依存は、人一人を簡単に追い詰めるのだ。
そうやって宮殿を去っていった人々を、自分は何人も知っている。
「でも、ミゲルさんには少し気の毒なことをしてしまいましたね……」
あの場では言えなかった本音が、ぽろりと口から零れる。
仕方なかったのだ。
あそこでミゲルをフォローするような発言をしてしまっては、皆に叩きつけた言葉の重みがなくなってしまう。
彼も、いつ別部隊に引き抜かれてもおかしくないほど優秀な人間だ。
おそらく、こちらの事情を汲んでくれているとは思うが……
「大丈夫だと思うよ。ミゲルだって、あえて怒られるために矢面に立ったんじゃないかな。」
今仕方考えていたことと、全く同じことをフールが言う。
ターニャは苦笑した。
「そうだといいのですが…。少し話がしたいので、後で彼を呼び出してもらってもいいですか?」
「うん、いいよ。」
きっとこちらの意図などお見通しなのだろう。
フールはすぐに頷いた。
そんなフールの仕草を視界の端で確認しつつ、目の前の書類を手に取って目を通していく。
すると、ふいにフールが机から浮かび上がった。
さっそくミゲルの所にでも行くのだろうと思い、特に気にすることなく書類を読み込むことに集中することにする。
しかしターニャの予想に反して、フールは彼女に近寄ると、ぬいぐるみの手で彼女の頭をなでた。
「?」
ターニャが顔を上げると、フールは苦笑ぎみの吐息をつく。
「気を張りすぎだよ。本当は……君だって、相当こたえてるくせに。」
フールの言葉に、ターニャはわずかに目を見開く。
そして次に、徹底していた無表情を崩して疲れたような笑みを浮かべた。
「やっぱり……フールには、ばれてしまうのですね。」
「当然。小さい頃から君を見ているからね。」
フールは自慢げに言い、わざわざ書類の上に乗ってくる。
どうやら、今は仕事をするなということらしい。
ターニャはくすりと笑い、手にしていた書類を机に戻した。
「キリハってさ、本当にすごい子だったんだね。」
フールの言葉が、身に沁みる。
「そうですね。」
ターニャは深く頷いた。
キリハが来てからというもの、宮殿の空気は驚くほど変わった。
それはずっと宮殿にいるターニャとフールが、誰よりもよく感じていることだった。
「キリハさんなくしては、今の団結力も功績もなかった。もしかしたら皆、ドラゴンの脅威に屈していたかもしれません。だからこそ、怖いのでしょう。私たちが失うかもしれない存在は、それだけ重要で……愛されていたんですね……」
胸を絞って、やっと出したようなか細い声。
「あの人に……なんて伝えれば…っ」
肩を震わせて泣きそうに目元を歪めるターニャは、普段とは違って、年相応の女性らしい表情をしていた。
メール画面を開くと、そこにもおびただしい量の未処理メールが溜まっていた。
いつものことながら、この量には辟易としてしまう。
連日の激務にさすがに疲れを感じて、ターニャは柔らかい椅子に身を預けて脱力する。
「ターニャ……」
控えめに名前を呼ばれたのはその時だ。
伏せていた瞼を上げると、フールがちょこんと机に座ってこちらを見ていた。
「いいのですよ。」
フールが何を言いたいのかは、その気遣わしげな様子から察せられる。
「いい加減、誰かが言わなければならなかったのです。このままでは、ただの甘えになってしまいますし……かえって、キリハさんが可哀想です。」
今のような依存のしかたでは、キリハの自由を奪ってしまうことになりかねない。
自分がいないだけで、周囲の人間がここまで影響を受けてしまう。
そうと知れば、キリハは竜騎士の任務が終わった後も、周囲のために宮殿に残ることを選ぶだろう。
いくら根がまっすぐで芯が強いキリハでも、そんな状況に置かれれば、いずれ潰れてしまう。
度の超えた期待と依存は、人一人を簡単に追い詰めるのだ。
そうやって宮殿を去っていった人々を、自分は何人も知っている。
「でも、ミゲルさんには少し気の毒なことをしてしまいましたね……」
あの場では言えなかった本音が、ぽろりと口から零れる。
仕方なかったのだ。
あそこでミゲルをフォローするような発言をしてしまっては、皆に叩きつけた言葉の重みがなくなってしまう。
彼も、いつ別部隊に引き抜かれてもおかしくないほど優秀な人間だ。
おそらく、こちらの事情を汲んでくれているとは思うが……
「大丈夫だと思うよ。ミゲルだって、あえて怒られるために矢面に立ったんじゃないかな。」
今仕方考えていたことと、全く同じことをフールが言う。
ターニャは苦笑した。
「そうだといいのですが…。少し話がしたいので、後で彼を呼び出してもらってもいいですか?」
「うん、いいよ。」
きっとこちらの意図などお見通しなのだろう。
フールはすぐに頷いた。
そんなフールの仕草を視界の端で確認しつつ、目の前の書類を手に取って目を通していく。
すると、ふいにフールが机から浮かび上がった。
さっそくミゲルの所にでも行くのだろうと思い、特に気にすることなく書類を読み込むことに集中することにする。
しかしターニャの予想に反して、フールは彼女に近寄ると、ぬいぐるみの手で彼女の頭をなでた。
「?」
ターニャが顔を上げると、フールは苦笑ぎみの吐息をつく。
「気を張りすぎだよ。本当は……君だって、相当こたえてるくせに。」
フールの言葉に、ターニャはわずかに目を見開く。
そして次に、徹底していた無表情を崩して疲れたような笑みを浮かべた。
「やっぱり……フールには、ばれてしまうのですね。」
「当然。小さい頃から君を見ているからね。」
フールは自慢げに言い、わざわざ書類の上に乗ってくる。
どうやら、今は仕事をするなということらしい。
ターニャはくすりと笑い、手にしていた書類を机に戻した。
「キリハってさ、本当にすごい子だったんだね。」
フールの言葉が、身に沁みる。
「そうですね。」
ターニャは深く頷いた。
キリハが来てからというもの、宮殿の空気は驚くほど変わった。
それはずっと宮殿にいるターニャとフールが、誰よりもよく感じていることだった。
「キリハさんなくしては、今の団結力も功績もなかった。もしかしたら皆、ドラゴンの脅威に屈していたかもしれません。だからこそ、怖いのでしょう。私たちが失うかもしれない存在は、それだけ重要で……愛されていたんですね……」
胸を絞って、やっと出したようなか細い声。
「あの人に……なんて伝えれば…っ」
肩を震わせて泣きそうに目元を歪めるターニャは、普段とは違って、年相応の女性らしい表情をしていた。
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