65 / 598
第1章 温度差
実を結んでいた自分の行動
しおりを挟む
自分の正面。
そこでは一人の少年が、じーっとこちらを見つめていた。
「おおっ、びっくりした。カミル……」
暗くなりかけた表情を改めて微笑んだキリハは、ふわふわとした髪をなでる。
「お兄ちゃん、悲しいの?」
開口一番にずばり核心を突かれ、キリハはとっさに答えることができずに固まった。
まったく、子供の洞察力は侮れない。
無邪気に痛いところをつついてくるから、時々こうして返答に困る瞬間があるのだ。
「なんでもないよ。」
再度笑みを繕い、キリハはカミルに答えた。
「そうなの?」
「うん。」
「ふーん。」
カミルは特に疑うような素振りは見せず、ただ不思議そうに首を傾げるだけだった。
情けない限りだ。
こんな小さな子に心配をかけるようではいけないというのに。
しかし、こういう時にどうすれば上手く立ち回れるのか分からないのだ。
レイミヤで過ごしていた時は、悩みとはまるで縁がなかったからかもしれない。
正直な心境と言うと、悩んでいる自分に自分自身が一番戸惑っている。
(だめだな、俺……)
自己嫌悪しそうになって、慌ててその思考を振り払う。
こんなことでは、またカミルに何か言われてしまうではないか。
「ねーねー。」
カミルが服の袖を引っ張ってくる。
それに内心でどきりとしたが、カミルが言ってきたことはこちらが危惧するようなものではなかった。
「お兄ちゃん。メイア君やレイ君って、今度いつ来るの?」
「へ? あ、ああ……いつかなぁ?」
キリハは腕を組んで考える。
メイアやレイというのは、レイミヤの孤児院にいる子供の名前だ。
中央区の子供たちの認識だけでも変えようという作戦は今も継続中で、月に何度かは孤児院の子供たちを呼んで、中央区の子供たちと交流させている。
その中で、カミルはメイアやレイと仲良くなったのだろう。
「ごめん。まだ決まってないや。」
最近は自分のことで頭がいっぱいで、すっかりレイミヤの人々と連絡を取ることを忘れていた。
カミルはキリハの言葉を聞くなり、しゅんとうなだれる。
「そっか…。早く会いたいなあ……」
「えっと……その……メイアやレイと遊ぶの、楽しい?」
あまりにもカミルが落ち込むので、キリハはそう問いかけてみる。
すると。
「うん!!」
カミルは表情を一転させ、満面の笑みを浮かべた。
「二人ともね、チャンバラすっごく強いんだよ! それに、サッカーとかも上手いの。ぼく、メイア君とレイ君と遊んでる時が一番楽しいんだ!! 他の子たちは、ゲームばっかりなんだもん。」
活き活きとしたカミルの言葉。
それは今の自分にとって、何よりも嬉しい言葉だった。
だってこの言葉は、今までの自分の行動が確実に意味をなしている証拠。
カミルの世界や価値観が、少しずつ変化してきているということなのだ。
子供たちに世界が変わるきっかけを与えられればいいと思っていたが、こんなに早く直接的な変化を見ることができるとは。
「ごめんね! すぐに連絡して、早く連れてくるから。」
悩みが嬉しさで吹っ飛んで、キリハは思い切りカミルの頭を掻き回した。
「よし、今日は代わりに俺が遊んであげるよ。」
「ほんと!?」
「ほんと、ほんと。」
期待のこもったカミルと目を合わせ、キリハはにかっと笑う。
「うっし、遊ぼう!」
大声を張ると、遠目にこちらを見ていた他の子供もピクリと反応する。
「ほら、みんなも。」
「ええーっ!」
巻き添えをくらった中学生たちは、露骨に面倒そうな顔をする。
「たまにはいいじゃん。ここにいるってことは、どうせ暇なんでしょ?」
とは言うものの、別に強制するつもりはないので、キリハは今か今かと待っている子供たちの元へと駆けていった。
有名であろうがなかろうが、こういう幼い子供たちの態度はそう変わらないものだ。
周囲の態度の変化に参っている今は、そのことが何よりも嬉しくて、癒しにもなった。
心配をかけるべきではないと思っておきながら、結局は子供たちに救われている状況なのだが、彼らも楽しそうだし、おあいこということで納得しよう。
時々取れそうになるフードを気にしつつも、キリハはレイミヤでも日々を思い起こさせる時間に没頭していくのであった。
そこでは一人の少年が、じーっとこちらを見つめていた。
「おおっ、びっくりした。カミル……」
暗くなりかけた表情を改めて微笑んだキリハは、ふわふわとした髪をなでる。
「お兄ちゃん、悲しいの?」
開口一番にずばり核心を突かれ、キリハはとっさに答えることができずに固まった。
まったく、子供の洞察力は侮れない。
無邪気に痛いところをつついてくるから、時々こうして返答に困る瞬間があるのだ。
「なんでもないよ。」
再度笑みを繕い、キリハはカミルに答えた。
「そうなの?」
「うん。」
「ふーん。」
カミルは特に疑うような素振りは見せず、ただ不思議そうに首を傾げるだけだった。
情けない限りだ。
こんな小さな子に心配をかけるようではいけないというのに。
しかし、こういう時にどうすれば上手く立ち回れるのか分からないのだ。
レイミヤで過ごしていた時は、悩みとはまるで縁がなかったからかもしれない。
正直な心境と言うと、悩んでいる自分に自分自身が一番戸惑っている。
(だめだな、俺……)
自己嫌悪しそうになって、慌ててその思考を振り払う。
こんなことでは、またカミルに何か言われてしまうではないか。
「ねーねー。」
カミルが服の袖を引っ張ってくる。
それに内心でどきりとしたが、カミルが言ってきたことはこちらが危惧するようなものではなかった。
「お兄ちゃん。メイア君やレイ君って、今度いつ来るの?」
「へ? あ、ああ……いつかなぁ?」
キリハは腕を組んで考える。
メイアやレイというのは、レイミヤの孤児院にいる子供の名前だ。
中央区の子供たちの認識だけでも変えようという作戦は今も継続中で、月に何度かは孤児院の子供たちを呼んで、中央区の子供たちと交流させている。
その中で、カミルはメイアやレイと仲良くなったのだろう。
「ごめん。まだ決まってないや。」
最近は自分のことで頭がいっぱいで、すっかりレイミヤの人々と連絡を取ることを忘れていた。
カミルはキリハの言葉を聞くなり、しゅんとうなだれる。
「そっか…。早く会いたいなあ……」
「えっと……その……メイアやレイと遊ぶの、楽しい?」
あまりにもカミルが落ち込むので、キリハはそう問いかけてみる。
すると。
「うん!!」
カミルは表情を一転させ、満面の笑みを浮かべた。
「二人ともね、チャンバラすっごく強いんだよ! それに、サッカーとかも上手いの。ぼく、メイア君とレイ君と遊んでる時が一番楽しいんだ!! 他の子たちは、ゲームばっかりなんだもん。」
活き活きとしたカミルの言葉。
それは今の自分にとって、何よりも嬉しい言葉だった。
だってこの言葉は、今までの自分の行動が確実に意味をなしている証拠。
カミルの世界や価値観が、少しずつ変化してきているということなのだ。
子供たちに世界が変わるきっかけを与えられればいいと思っていたが、こんなに早く直接的な変化を見ることができるとは。
「ごめんね! すぐに連絡して、早く連れてくるから。」
悩みが嬉しさで吹っ飛んで、キリハは思い切りカミルの頭を掻き回した。
「よし、今日は代わりに俺が遊んであげるよ。」
「ほんと!?」
「ほんと、ほんと。」
期待のこもったカミルと目を合わせ、キリハはにかっと笑う。
「うっし、遊ぼう!」
大声を張ると、遠目にこちらを見ていた他の子供もピクリと反応する。
「ほら、みんなも。」
「ええーっ!」
巻き添えをくらった中学生たちは、露骨に面倒そうな顔をする。
「たまにはいいじゃん。ここにいるってことは、どうせ暇なんでしょ?」
とは言うものの、別に強制するつもりはないので、キリハは今か今かと待っている子供たちの元へと駆けていった。
有名であろうがなかろうが、こういう幼い子供たちの態度はそう変わらないものだ。
周囲の態度の変化に参っている今は、そのことが何よりも嬉しくて、癒しにもなった。
心配をかけるべきではないと思っておきながら、結局は子供たちに救われている状況なのだが、彼らも楽しそうだし、おあいこということで納得しよう。
時々取れそうになるフードを気にしつつも、キリハはレイミヤでも日々を思い起こさせる時間に没頭していくのであった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。

はぁ?とりあえず寝てていい?
夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。
※第二章は全体的に説明回が多いです。
<<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる
八神 凪
ファンタジー
世界には多種多様な種族が存在する。
人間、獣人、エルフにドワーフなどだ。
その中でも最強とされるドラゴンも輪の中に居る。
最強でも最弱でも、共通して言えることは歳を取れば老いるという点である。
この物語は老いたドラゴンが集落から追い出されるところから始まる。
そして辿り着いた先で、爺さんドラゴンは人間の赤子を拾うのだった。
それはとんでもないことの幕開けでも、あった――

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる