64 / 598
第1章 温度差
変だよね。
しおりを挟む
パーカーのフードを深く被り、ばれたら怒られるかもしれないけど、《焔乱舞》は置いていくことに。
人通りが多く、注目度も高い正門と大通りに面した門は避け、気象部側にある、業者しか使わない搬入口からこっそり外へ出た。
後は誰かに捕まらないことを祈りながら周囲を警戒しつつ、周りから浮いてしまわないように自然体を意識して歩く。
「……何やってんだろ、俺。」
感想はこれだ。
テレビでたまに、カメラに向かって罵声を浴びせる芸能人とかを見かけるが、今ならその気持ちが理解できるかもしれない。
「あーあ、空気になりたい。」
非現実的なことを本気で願う自分がいる。
だがこれも、願うだけ無駄なのだろう。
その証拠に。
「無理だよぉ。」
「キーちゃん、有名になっちゃったもん。」
「ニュースでよく見るからね。そりゃ、野次馬も来るって。」
横から。
上から。
そんな声が飛んでくる。
「そういうみんなも、珍しいもの見たさで来てるじゃんかぁ……」
座っていたベンチから勢いよく立ち上がり、キリハは自分を囲んでいた少年少女を半目で見下ろす。
制服に身を包んでいる彼らは、中央区に住む竜使いの子供たちである。
今までは数えるほどしか顔を合わせていなかったのだが、ここ最近よくこの公園に訪れるようになり、急速に距離が縮んだ。
「そんなこと言ってもさ、中学生にもなっちゃうと公園なんて行かないし。キーちゃんみたいに、子供と遊んだりしないし。部活だってあるもん。」
「どっちかっていうと、変なのはキリハ君じゃないの?」
「え、そうなの……かな?」
都会では、それが普通なのだろうか。
自分は中学校には行っていなかったし、子供の相手をするのも日常的だったので、彼らの言葉を否定する材料がない。
だが、彼らが何度も頷いているのを見ると、この場においての少数派は自分なのだろう。
そういえば、レイミヤに帰省してきたディアラントが、都会の常識にはついていけないと嘆いていたことがあった気がする。
「まあいいや。それにしても……」
キリハはフードを少しだけ上げて、周囲をくるくると見回す。
「やっぱ中央区だと、俺を追っかけてくる人もいないのかな。」
宮殿から中央区のこの公園に行き着くまで、奇跡的に誰にも気づかれずに済んだ。
何人かの顔見知りとは少し話をしたが、それも日常的な範囲を超えないものだった。
見渡す限り、この辺りにはマスコミ関係者もいないようだ。
やはり竜使いの街である中央区には、マスコミもおいそれと入ってこないのだろう。
それにほっとする反面、複雑な気持ちにもなる。
しかし。
「多分、今だけだよ。」
さっきまでとは打って変わった冷たい声が、一人の少女の口から漏れた。
「あそこのコンビニの駐車場。」
そっと囁かれ、フードの隙間から指示された方向を盗み見る。
公園向かいの道の角に、一軒のコンビニがある。
そのコンビニの駐車場はここからは陰になっていて見えないが、その陰からこちらの様子をちらちらと窺っている人たちがいた。
「あれは……」
「同じ中学の子。フード、取らない方がいいよ。あいつら、カメラ持ってると思うから。」
固い声で、少女は答えた。
「中学で噂になってるの。キーちゃんが、よくここに来てるって。私たちに声をかけたくないからって、ああやってこっそり追いかけてきたみたい。……変だよね。なんかムカつく。」
少女を始め、自分を囲んでいた他の子供たちも、不快そうな表情で同級生を睨んでいる。
もしかして、彼らが最近になってよくまとわりつくようになったのは、ああいう同級生たちへの牽制の意味があったのだろうか。
彼らなりの気遣いに嬉しくもなったが、それ以上に気分が沈んでしまった。
睨み合う少年少女の姿。
そこから窺い知れるのは、彼らの間に存在する底の見えない深く広い溝だ。
中学生の時点で、竜使いへの差別的態度はここまで完成している。
そう実感するには、十分すぎる光景だった。
険悪な空気に思わず目を伏せる。
するとその拍子に、つぶらな双眸と目が合った。
人通りが多く、注目度も高い正門と大通りに面した門は避け、気象部側にある、業者しか使わない搬入口からこっそり外へ出た。
後は誰かに捕まらないことを祈りながら周囲を警戒しつつ、周りから浮いてしまわないように自然体を意識して歩く。
「……何やってんだろ、俺。」
感想はこれだ。
テレビでたまに、カメラに向かって罵声を浴びせる芸能人とかを見かけるが、今ならその気持ちが理解できるかもしれない。
「あーあ、空気になりたい。」
非現実的なことを本気で願う自分がいる。
だがこれも、願うだけ無駄なのだろう。
その証拠に。
「無理だよぉ。」
「キーちゃん、有名になっちゃったもん。」
「ニュースでよく見るからね。そりゃ、野次馬も来るって。」
横から。
上から。
そんな声が飛んでくる。
「そういうみんなも、珍しいもの見たさで来てるじゃんかぁ……」
座っていたベンチから勢いよく立ち上がり、キリハは自分を囲んでいた少年少女を半目で見下ろす。
制服に身を包んでいる彼らは、中央区に住む竜使いの子供たちである。
今までは数えるほどしか顔を合わせていなかったのだが、ここ最近よくこの公園に訪れるようになり、急速に距離が縮んだ。
「そんなこと言ってもさ、中学生にもなっちゃうと公園なんて行かないし。キーちゃんみたいに、子供と遊んだりしないし。部活だってあるもん。」
「どっちかっていうと、変なのはキリハ君じゃないの?」
「え、そうなの……かな?」
都会では、それが普通なのだろうか。
自分は中学校には行っていなかったし、子供の相手をするのも日常的だったので、彼らの言葉を否定する材料がない。
だが、彼らが何度も頷いているのを見ると、この場においての少数派は自分なのだろう。
そういえば、レイミヤに帰省してきたディアラントが、都会の常識にはついていけないと嘆いていたことがあった気がする。
「まあいいや。それにしても……」
キリハはフードを少しだけ上げて、周囲をくるくると見回す。
「やっぱ中央区だと、俺を追っかけてくる人もいないのかな。」
宮殿から中央区のこの公園に行き着くまで、奇跡的に誰にも気づかれずに済んだ。
何人かの顔見知りとは少し話をしたが、それも日常的な範囲を超えないものだった。
見渡す限り、この辺りにはマスコミ関係者もいないようだ。
やはり竜使いの街である中央区には、マスコミもおいそれと入ってこないのだろう。
それにほっとする反面、複雑な気持ちにもなる。
しかし。
「多分、今だけだよ。」
さっきまでとは打って変わった冷たい声が、一人の少女の口から漏れた。
「あそこのコンビニの駐車場。」
そっと囁かれ、フードの隙間から指示された方向を盗み見る。
公園向かいの道の角に、一軒のコンビニがある。
そのコンビニの駐車場はここからは陰になっていて見えないが、その陰からこちらの様子をちらちらと窺っている人たちがいた。
「あれは……」
「同じ中学の子。フード、取らない方がいいよ。あいつら、カメラ持ってると思うから。」
固い声で、少女は答えた。
「中学で噂になってるの。キーちゃんが、よくここに来てるって。私たちに声をかけたくないからって、ああやってこっそり追いかけてきたみたい。……変だよね。なんかムカつく。」
少女を始め、自分を囲んでいた他の子供たちも、不快そうな表情で同級生を睨んでいる。
もしかして、彼らが最近になってよくまとわりつくようになったのは、ああいう同級生たちへの牽制の意味があったのだろうか。
彼らなりの気遣いに嬉しくもなったが、それ以上に気分が沈んでしまった。
睨み合う少年少女の姿。
そこから窺い知れるのは、彼らの間に存在する底の見えない深く広い溝だ。
中学生の時点で、竜使いへの差別的態度はここまで完成している。
そう実感するには、十分すぎる光景だった。
険悪な空気に思わず目を伏せる。
するとその拍子に、つぶらな双眸と目が合った。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜
舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」
突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、
手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、
だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎
神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“
瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・
転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?
だが、死亡する原因には不可解な点が…
数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、
神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?
様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、
目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“
そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪
*神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw)
*投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい
*この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。


ロンガニアの花 ー薬師ロンの奔走記ー
MIRICO
恋愛
薬師のロンは剣士セウと共に山奥で静かに暮らしていた。
庭先で怪我をしていた白豹を助けると、白豹を探す王国の兵士と銀髪の美しい男リングが訪れてきた。
尋ねられても知らんぷりを決め込むが、実はその男は天才的な力を持つ薬師で、恐ろしい怪異を操る男だと知る。その男にロンは目をつけられてしまったのだ。
性別を偽り自分の素性を隠してきたロンは白豹に変身していたシェインと言う男と、王都エンリルへ行動を共にすることを決めた。しかし、王都の兵士から追われているシェインも、王都の大聖騎士団に所属する剣士だった。
シェインに巻き込まれて数々の追っ手に追われ、そうして再び美貌の男リングに出会い、ロンは隠されていた事実を知る…。
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる