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第6章 焔乱舞
あなたとなら―――
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ドラゴンを刺激しすぎないよう、ドラゴンの攻撃を避けることに全神経を注ぐ。
入れ替わり立ち代わりにドラゴンの攻撃を誘いにいき、ドラゴンの注意がこちら以外にいかないようにする。
時おり住民を誘導している人々と目配せをしつつ、防衛一方の戦いは続いた。
それが何十分のことだったのか、何時間のことだったのかは分からない。
そしてついに、その時がやってきた。
「全員伏せて!!」
突如として響いた声。
さすがの反射神経で、ドラゴンの近くにいた男性たちが距離を置いてその場に伏せる。
それから数秒と経たずに、ドラゴンの首元で何かが爆発した。
激しい爆風の中で、ドラゴンが甲高い悲鳴をあげて大きくのけぞる。
その脇から、畑の中を突っ切ってくる何台かの四輪駆動車があった。
その中の一台が、サーシャたちのすぐ傍で止まる。
そこから。
「サーシャ! カレン!」
ずっと聞きたかった声が、サーシャの鼓膜を叩いた。
身を起こすと、拡声器を車の中に放り投げたキリハが車から飛び出してくるのが見えた。
その後ろから、ルカも慌てた様子で出てくる。
「キリハ―――」
サーシャの声は途中で途切れる。
駆け寄ってきたキリハがサーシャの体を起こすなり、膝立ちのまま彼女を力強く抱き締めたからだ。
「よかった…っ! よく頑張ったね!!」
「へっ……あっ…!?」
今がどんなに緊迫した状況かということも吹っ飛んで、サーシャは真っ赤になって混乱してしまう。
「なるほど。これは問題ね……」
事情を知っているカレンは真っ赤なサーシャに、同情的な視線を向けた。
そんな二人の反応には全くの無頓着で、キリハはサーシャに満面の笑みで笑いかけた。
「もう大丈夫。あとは俺が引き継ぐから、サーシャは下がってて。」
立ち上がり、キリハはドラゴンを見据えながら剣を抜く。
そんなキリハの腕に、サーシャが抱きついた。
「サーシャ?」
「……も…」
「え?」
「私も一緒に戦う。」
決意して顔を上げるサーシャを、まんまるに見開かれたキリハの双眸が出迎える。
驚愕と当惑に揺れるその瞳に、サーシャはありったけの想いを伝えた。
「あなたは、戦いよりも日常を優先したいって思う私を認めてくれた。それでいいんだって笑ってくれた、初めての人なの。あなたとなら私は、自分とも戦いとも向き合える!」
一人では、絶対にここに立っていなかった。
訓練の時点で潰れてしまっていたことだろう。
でも、彼がいてくれた。
この人が傍にいて笑ってくれていたから、自分はいつもぎりぎりを保っていられた。
そして彼が自分にとってかけがえない人だと気づいた今、彼となら、自分の歩く道を受け入れられると思った。
強くあれると思えたのだ。
サーシャを見つめるキリハは、きょとんとしている。
こちらの感情に気づいていないらしい純粋無垢であどけない顔が、なんともキリハらしくてほっとする。
キリハはパチパチとまばたきを繰り返していたが、次第にその表情を和らげていった。
そして彼は、その顔に穏やかな笑顔をたたえる。
「うん。分かった。」
全てを受け入れてくれる温かな笑顔。
この笑顔に何度も救われて、そしてこれから何度も救われていくのだろう。
この人の隣にいたい。
心底そう思えて、サーシャも幸せそうに笑い返した。
「ねえ、フール!」
キリハは右耳に手を当てた。
見ればそこにはイヤホンがはまっていて、胸元には小さなマイクが取りつけられていた。
「ドラゴンを倒すのに、どれくらいかかりそう? できるだけ、周囲への被害は最小限にしたいんだけど。」
「それは難しいかもね。」
ノイズ混じりに、フールの高めの声。
「焔がない状態だから、かなりの長期戦になると思った方がいい。もちろんドラゴンだって生き物だから、急所を狙ったりすればダメージは大きいよ。だけど、あの大きさだからね。できるだけ攻撃を仕掛けて失血死させるにしても、どれだけの時間がかかるか…。さっき打ち込んだ痺れ薬と眠り薬も、効き目はいまいちって感じだしね。」
言われてドラゴンを見ると、薬の効果で多少動きを鈍らせているものの、まだその目から敵意を消えていない。
今のうちに当てられるだけ攻撃を当てておかないと、薬の効果が切れてしまってはさらに厄介だ。
「了解。そういう体力配分でいく。」
キリハは頷き、剣を構える。
そんなキリハに。
「キー坊! どうするつもりだ?」
これまで前に出てドラゴンの気を引いていてくれたミゲルが、一旦引いてきたと同時に訊いてくる。
キリハは前を見据えたまま、目を細めた。
「俺はドラゴンの前に出て攻めまくるから、後ろは任せた。」
「あいよ! ジョー、おれはキー坊と前に出る!」
「分かった。こっちの指示は任せて。後方部隊は、火炎弾と薬品弾の準備。いつでも撃てる準備を!」
「前衛部隊はドラゴンの後ろ側を固めつつ、キー坊たちの援護!」
「はい!!」
ジョーとミゲルのそれぞれの指示に、他の面々が力強く頷く。
「よし、俺たちも行こう!」
キリハのかけ声で、四人はそれぞれドラゴンに向かって身を躍らせた。
入れ替わり立ち代わりにドラゴンの攻撃を誘いにいき、ドラゴンの注意がこちら以外にいかないようにする。
時おり住民を誘導している人々と目配せをしつつ、防衛一方の戦いは続いた。
それが何十分のことだったのか、何時間のことだったのかは分からない。
そしてついに、その時がやってきた。
「全員伏せて!!」
突如として響いた声。
さすがの反射神経で、ドラゴンの近くにいた男性たちが距離を置いてその場に伏せる。
それから数秒と経たずに、ドラゴンの首元で何かが爆発した。
激しい爆風の中で、ドラゴンが甲高い悲鳴をあげて大きくのけぞる。
その脇から、畑の中を突っ切ってくる何台かの四輪駆動車があった。
その中の一台が、サーシャたちのすぐ傍で止まる。
そこから。
「サーシャ! カレン!」
ずっと聞きたかった声が、サーシャの鼓膜を叩いた。
身を起こすと、拡声器を車の中に放り投げたキリハが車から飛び出してくるのが見えた。
その後ろから、ルカも慌てた様子で出てくる。
「キリハ―――」
サーシャの声は途中で途切れる。
駆け寄ってきたキリハがサーシャの体を起こすなり、膝立ちのまま彼女を力強く抱き締めたからだ。
「よかった…っ! よく頑張ったね!!」
「へっ……あっ…!?」
今がどんなに緊迫した状況かということも吹っ飛んで、サーシャは真っ赤になって混乱してしまう。
「なるほど。これは問題ね……」
事情を知っているカレンは真っ赤なサーシャに、同情的な視線を向けた。
そんな二人の反応には全くの無頓着で、キリハはサーシャに満面の笑みで笑いかけた。
「もう大丈夫。あとは俺が引き継ぐから、サーシャは下がってて。」
立ち上がり、キリハはドラゴンを見据えながら剣を抜く。
そんなキリハの腕に、サーシャが抱きついた。
「サーシャ?」
「……も…」
「え?」
「私も一緒に戦う。」
決意して顔を上げるサーシャを、まんまるに見開かれたキリハの双眸が出迎える。
驚愕と当惑に揺れるその瞳に、サーシャはありったけの想いを伝えた。
「あなたは、戦いよりも日常を優先したいって思う私を認めてくれた。それでいいんだって笑ってくれた、初めての人なの。あなたとなら私は、自分とも戦いとも向き合える!」
一人では、絶対にここに立っていなかった。
訓練の時点で潰れてしまっていたことだろう。
でも、彼がいてくれた。
この人が傍にいて笑ってくれていたから、自分はいつもぎりぎりを保っていられた。
そして彼が自分にとってかけがえない人だと気づいた今、彼となら、自分の歩く道を受け入れられると思った。
強くあれると思えたのだ。
サーシャを見つめるキリハは、きょとんとしている。
こちらの感情に気づいていないらしい純粋無垢であどけない顔が、なんともキリハらしくてほっとする。
キリハはパチパチとまばたきを繰り返していたが、次第にその表情を和らげていった。
そして彼は、その顔に穏やかな笑顔をたたえる。
「うん。分かった。」
全てを受け入れてくれる温かな笑顔。
この笑顔に何度も救われて、そしてこれから何度も救われていくのだろう。
この人の隣にいたい。
心底そう思えて、サーシャも幸せそうに笑い返した。
「ねえ、フール!」
キリハは右耳に手を当てた。
見ればそこにはイヤホンがはまっていて、胸元には小さなマイクが取りつけられていた。
「ドラゴンを倒すのに、どれくらいかかりそう? できるだけ、周囲への被害は最小限にしたいんだけど。」
「それは難しいかもね。」
ノイズ混じりに、フールの高めの声。
「焔がない状態だから、かなりの長期戦になると思った方がいい。もちろんドラゴンだって生き物だから、急所を狙ったりすればダメージは大きいよ。だけど、あの大きさだからね。できるだけ攻撃を仕掛けて失血死させるにしても、どれだけの時間がかかるか…。さっき打ち込んだ痺れ薬と眠り薬も、効き目はいまいちって感じだしね。」
言われてドラゴンを見ると、薬の効果で多少動きを鈍らせているものの、まだその目から敵意を消えていない。
今のうちに当てられるだけ攻撃を当てておかないと、薬の効果が切れてしまってはさらに厄介だ。
「了解。そういう体力配分でいく。」
キリハは頷き、剣を構える。
そんなキリハに。
「キー坊! どうするつもりだ?」
これまで前に出てドラゴンの気を引いていてくれたミゲルが、一旦引いてきたと同時に訊いてくる。
キリハは前を見据えたまま、目を細めた。
「俺はドラゴンの前に出て攻めまくるから、後ろは任せた。」
「あいよ! ジョー、おれはキー坊と前に出る!」
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「前衛部隊はドラゴンの後ろ側を固めつつ、キー坊たちの援護!」
「はい!!」
ジョーとミゲルのそれぞれの指示に、他の面々が力強く頷く。
「よし、俺たちも行こう!」
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