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第5章 目覚め
好きなの?
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あれから、どれくらい泣いたのだろう。
視界はぼやけ、頭が鈍い痛みを発している。
それでも涙はまだ止まらず、自分でもそのことに驚いてしまう。
(人って、こんなに泣けるのね。)
ぼんやりとそんなことを思いながら、サーシャは目を閉じる。
ふっと肩の力を抜くと、頭上から優しい声が降り注いできた。
「落ち着いてきた?」
柔らかく、まるで壊れ物を扱うかのように頭をなでられて、自分がメイに膝枕をされる形で泣き伏していたのだと自覚する。
もう少し、この温かさに触れていたい。
そう願う自分がいたが、サーシャはその願いを押しのけてゆっくりと体を起こした。
「ごめんなさい……」
謝ると、メイは目元を和ませて首を振る。
「どうして謝るの? 怖いものは仕方ないでしょ。」
サーシャの目の端に浮かぶ涙をそっと拭いながら、メイはいつかのキリハと似たようなことを口にした。
メイの胸に泣きついてから、長い時間をかけて何が起こったのかを話した。
涙声だったし、話の流れはめちゃくちゃだし、きっと要領を得ない話だったことだろう。
それでもメイは、最後まで話を聞いてくれた。
それが嬉しくて安心できて、口が勝手に今まで溜め込んできた感情を吐露していた。
こんな姿、親にだって見せたことがないのに……
サーシャが唇を噛んでいると、部屋のドアが静かにノックされてから、音を立てないように開いた。
入ってきたのはナスカだ。
「あ、よかったぁ。もう体を起こしても大丈夫なの?」
「はい。本当にすみませんでした。」
「もう、気にしないで。誰だって、思い切り泣きたい時くらいあるわよ。」
深々と頭を下げるサーシャにナスカは笑い、トレーに乗っていたカップを差し出した。
「飲めそう?」
「あ、ありがとうございます。」
カップを受け取り、サーシャはゆっくりとそれに口をつける。
温かい紅茶は少しだけ喉に沁みて、どれだけ自分が泣いていたか分かる。
「……ごめんなさい。私、逃げてきたのに、こんな……」
飲み込んだ紅茶は、涙と心を落ち着けてくれる。
涙に訴える激情が引いていけば、代わりに押し寄せるのは後悔と気まずさだ。
泣きそうな顔でカップを握るサーシャ。
しかしサーシャは、この後のメイの発言に思わずカップを取り落しそうになってしまった。
「でも、逃げちゃいけないと思うからここに来たんでしょう?」
「……え?」
まさかそんな言葉をかけられるとは思っていなかったので、サーシャはぱちくりと瞬きを繰り返す。
メイは笑って先を続ける。
「だって私たちは、あなたのお話を聞くことはできるけど、あなたをかばうことはできないわ。本気で逃げたいなら、もっとふさわしい場所があったでしょう? ……それとも、キリハにここに逃げ込めって言われたのかしら?」
「えっ!?」
唐突にキリハの名を出され、サーシャは思い切り動揺してしまった。
「い、いえっ。キリハは、そういうことは言ってなくて……キリハは―――」
脳内に鮮やかによみがえる、キリハの笑顔。
それに意識を向けるとなんだかほっとして、サーシャはここに来て初めて微笑を浮かべた。
「キリハは……なんだか不思議な人だなって、そう思うんです。キリハの隣にいると、口が勝手に色んなことをしゃべっちゃって…。でも、キリハはどんな私にも笑ってくれて、どんな私にも手を伸ばしてくれるんです。彼と一緒にいると、どんな自分でも好きになれそうに思えた。ここに来たのは、そんなキリハの何かに触れたかったからなのかもしれないですね……」
優しく笑ってくれるメイやナスカからも、こんなに色濃くキリハの面影を感じることができる。
それにどうしようもなく安堵している自分がいて、キリハの存在の大きさを知る。
彼の存在はいつの間にか、こんなにも自分を支えていたんだって。
「サーシャちゃん……」
ふと名を呼ばれる。
それに首を傾けると、メイは突然こんなことを訊いてきた。
「キリハのこと、好きなの?」
視界はぼやけ、頭が鈍い痛みを発している。
それでも涙はまだ止まらず、自分でもそのことに驚いてしまう。
(人って、こんなに泣けるのね。)
ぼんやりとそんなことを思いながら、サーシャは目を閉じる。
ふっと肩の力を抜くと、頭上から優しい声が降り注いできた。
「落ち着いてきた?」
柔らかく、まるで壊れ物を扱うかのように頭をなでられて、自分がメイに膝枕をされる形で泣き伏していたのだと自覚する。
もう少し、この温かさに触れていたい。
そう願う自分がいたが、サーシャはその願いを押しのけてゆっくりと体を起こした。
「ごめんなさい……」
謝ると、メイは目元を和ませて首を振る。
「どうして謝るの? 怖いものは仕方ないでしょ。」
サーシャの目の端に浮かぶ涙をそっと拭いながら、メイはいつかのキリハと似たようなことを口にした。
メイの胸に泣きついてから、長い時間をかけて何が起こったのかを話した。
涙声だったし、話の流れはめちゃくちゃだし、きっと要領を得ない話だったことだろう。
それでもメイは、最後まで話を聞いてくれた。
それが嬉しくて安心できて、口が勝手に今まで溜め込んできた感情を吐露していた。
こんな姿、親にだって見せたことがないのに……
サーシャが唇を噛んでいると、部屋のドアが静かにノックされてから、音を立てないように開いた。
入ってきたのはナスカだ。
「あ、よかったぁ。もう体を起こしても大丈夫なの?」
「はい。本当にすみませんでした。」
「もう、気にしないで。誰だって、思い切り泣きたい時くらいあるわよ。」
深々と頭を下げるサーシャにナスカは笑い、トレーに乗っていたカップを差し出した。
「飲めそう?」
「あ、ありがとうございます。」
カップを受け取り、サーシャはゆっくりとそれに口をつける。
温かい紅茶は少しだけ喉に沁みて、どれだけ自分が泣いていたか分かる。
「……ごめんなさい。私、逃げてきたのに、こんな……」
飲み込んだ紅茶は、涙と心を落ち着けてくれる。
涙に訴える激情が引いていけば、代わりに押し寄せるのは後悔と気まずさだ。
泣きそうな顔でカップを握るサーシャ。
しかしサーシャは、この後のメイの発言に思わずカップを取り落しそうになってしまった。
「でも、逃げちゃいけないと思うからここに来たんでしょう?」
「……え?」
まさかそんな言葉をかけられるとは思っていなかったので、サーシャはぱちくりと瞬きを繰り返す。
メイは笑って先を続ける。
「だって私たちは、あなたのお話を聞くことはできるけど、あなたをかばうことはできないわ。本気で逃げたいなら、もっとふさわしい場所があったでしょう? ……それとも、キリハにここに逃げ込めって言われたのかしら?」
「えっ!?」
唐突にキリハの名を出され、サーシャは思い切り動揺してしまった。
「い、いえっ。キリハは、そういうことは言ってなくて……キリハは―――」
脳内に鮮やかによみがえる、キリハの笑顔。
それに意識を向けるとなんだかほっとして、サーシャはここに来て初めて微笑を浮かべた。
「キリハは……なんだか不思議な人だなって、そう思うんです。キリハの隣にいると、口が勝手に色んなことをしゃべっちゃって…。でも、キリハはどんな私にも笑ってくれて、どんな私にも手を伸ばしてくれるんです。彼と一緒にいると、どんな自分でも好きになれそうに思えた。ここに来たのは、そんなキリハの何かに触れたかったからなのかもしれないですね……」
優しく笑ってくれるメイやナスカからも、こんなに色濃くキリハの面影を感じることができる。
それにどうしようもなく安堵している自分がいて、キリハの存在の大きさを知る。
彼の存在はいつの間にか、こんなにも自分を支えていたんだって。
「サーシャちゃん……」
ふと名を呼ばれる。
それに首を傾けると、メイは突然こんなことを訊いてきた。
「キリハのこと、好きなの?」
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