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第4章 伝えられること
〝これから〟は変えられる。
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キリハたち一行は、躊躇うことなく中央区へと入っていく。
道行く人々がキリハたちの行列に驚き、中には慌てて逃げていく者もいた。
しかしキリハはそれに構わず、子供たちを連れて歩き続ける。
「到着っと。」
そんなキリハの声を聞いた子供たちは、柵の向こうに広がる景色に今日一番の興奮を見せた。
「広ーい!」
「見たことない遊具がたくさん!」
やはりこの年頃の子供には、デパートなんかよりもこっちの方がいいみたいだ。
「おっと。まあまあ、とりあえず落ち着いて。」
我先に中へと入ろうとする子供たちをなだめ、キリハは辿り着いた公園の様子を眺める。
広い公園にはいつものように、竜使いの子供たちが集まっていた。
今日は休日だからか、ちらほらと保護者らしき大人の姿も見える。
皆は自分たちの出現に瞠目し、こちらのことを警戒しているようだった。
予想通りの反応。
むしろ、こうでなくては困る。
キリハは笑い、その腕を天高く掲げた。
「さあ、遠足のメインイベントだ。思いっきり遊ぶぞーっ!!」
「おおーっ!!」
キリハの号令で、子供たちが怒濤の勢いで公園に駆け出していく。
その後ろを追いかけようとしたキリハだったが、突然襟首を掴まれて引っ張られたせいでそれはできなかった。
「おい! これはなんのつもりだ!?」
キリハの胸ぐらを掴んだルカが、殺気すら含んだ目でキリハを睨み上げた。
「なんのつもりって、ただ遊びに来ただけじゃん。」
「遊びにだって…? 何かあったら、どう責任を取るつもりだ!?」
怒鳴るルカ。
そんなルカの言葉に、キリハは呆れて息を吐いた。
「昨日の今日で何を言ってんだか……」
「なんだと…っ」
「何かあったらって何? 俺の自慢の弟と妹たちだよ? 見てみなよ。」
キリハは顎で公園の中を見るように促す。
それに従って公園の様子を覗いた瞬間のルカの表情の変化は、かなりの見物だったと言えた。
公園の中は、楽しそうな笑顔と声で満ちていた。
孤児院の子供たちだけではなく、竜使いの子供たちまでもが楽しそうに公園を駆け回っているのだ。
未だに警戒している様子の子供たちも、周りの楽しそうな空気に触発されてか、体がむずむずと動いている。
「一緒にあそぼ!」
羨ましそうにこちらを見つめる子供に気づいたのか、孤児院の子供がその子供に向かって手を差し伸べる。
すると。
「うん!」
その子供は表情をパッと明るくして、皆の輪の中に入っていった。
そんな風に一人、また一人。
竜使いの子供たちは、警戒心を解いて遊び始める。
「うそ…」
目の前の光景をにわかには信じられないのか、カレンが茫然と呟いた。
「そんなに驚くこと? 子供の基本なんて、遊ぶ、食べる、寝る、でしょ? どんな子でも、そんなの変わらないって。」
本当は誰だって、ああやって何も考えずに遊びたかったはずだ。
それを、この町を包む警戒心と恐怖が邪魔していただけの話。
『価値観には、価値観をぶつけるしかないんじゃない?』
フールはそう言った。
ならば、単純にこうすればいいと思った。
自由を奪う空気など、楽しさで壊してしまえばいいのだと。
「色々考えたけど、俺にできるのはこれくらい。」
ルカ、カレン、サーシャ。
三人と丁寧に目を合わせ、キリハは表情を和らげた。
「俺とルカたちは、同じだけど違う。だから、俺の言葉の全部は受け入れてもらえないと思うんだ。当然だよね。だって、〝今まで〟はもう変えられないんだから。」
もう過ぎてしまった経験を元にできあがってしまった概念を作り替えるのは、途方もない時間と労力を要するだろう。
中には、どう足掻いたって変えられないこともあるかもしれない。
「でも、〝これから〟は変えられる。」
キリハは、仲良く遊ぶ子供たちへと視線を向ける。
竜使いとか、そうじゃないとか。
そんな上辺のことなど関係なく、皆が笑って手を取り合う姿。
当たり前であるはずなのに、この光景がとても尊く見えるのは、これがこの国の普通ではないからだろう。
「別に、全員の認識を変えようだなんて思ってはいないよ。ほんの少し。ほんの少しだけでも、肩の力を抜いてもらえれば……周りは敵ばっかじゃないんだって証明できればいいかなって、そう思ったんだ。」
自分はどこにでもいる一人の人間で、特別な何かを持っているわけではない。
持っている手札だって、きっと皆と変わらない。
フールの言うとおり、価値観には価値観をぶつけるしかないなら、自分ができることはただ語りかけることだけだ。
全てが敵ではない。
歩み寄れる人間が、少なからず皆にもいるのだと。
多くの人を縛る〝普通〟は変えられなくても、こんな小さな町の小さな子供たちの世界なら、変わるきっかけを与えることはできる。
「これが、俺に伝えられる精一杯のことだから。」
言葉どおり精一杯の気持ちを込めて、キリハは笑みを深めた。
道行く人々がキリハたちの行列に驚き、中には慌てて逃げていく者もいた。
しかしキリハはそれに構わず、子供たちを連れて歩き続ける。
「到着っと。」
そんなキリハの声を聞いた子供たちは、柵の向こうに広がる景色に今日一番の興奮を見せた。
「広ーい!」
「見たことない遊具がたくさん!」
やはりこの年頃の子供には、デパートなんかよりもこっちの方がいいみたいだ。
「おっと。まあまあ、とりあえず落ち着いて。」
我先に中へと入ろうとする子供たちをなだめ、キリハは辿り着いた公園の様子を眺める。
広い公園にはいつものように、竜使いの子供たちが集まっていた。
今日は休日だからか、ちらほらと保護者らしき大人の姿も見える。
皆は自分たちの出現に瞠目し、こちらのことを警戒しているようだった。
予想通りの反応。
むしろ、こうでなくては困る。
キリハは笑い、その腕を天高く掲げた。
「さあ、遠足のメインイベントだ。思いっきり遊ぶぞーっ!!」
「おおーっ!!」
キリハの号令で、子供たちが怒濤の勢いで公園に駆け出していく。
その後ろを追いかけようとしたキリハだったが、突然襟首を掴まれて引っ張られたせいでそれはできなかった。
「おい! これはなんのつもりだ!?」
キリハの胸ぐらを掴んだルカが、殺気すら含んだ目でキリハを睨み上げた。
「なんのつもりって、ただ遊びに来ただけじゃん。」
「遊びにだって…? 何かあったら、どう責任を取るつもりだ!?」
怒鳴るルカ。
そんなルカの言葉に、キリハは呆れて息を吐いた。
「昨日の今日で何を言ってんだか……」
「なんだと…っ」
「何かあったらって何? 俺の自慢の弟と妹たちだよ? 見てみなよ。」
キリハは顎で公園の中を見るように促す。
それに従って公園の様子を覗いた瞬間のルカの表情の変化は、かなりの見物だったと言えた。
公園の中は、楽しそうな笑顔と声で満ちていた。
孤児院の子供たちだけではなく、竜使いの子供たちまでもが楽しそうに公園を駆け回っているのだ。
未だに警戒している様子の子供たちも、周りの楽しそうな空気に触発されてか、体がむずむずと動いている。
「一緒にあそぼ!」
羨ましそうにこちらを見つめる子供に気づいたのか、孤児院の子供がその子供に向かって手を差し伸べる。
すると。
「うん!」
その子供は表情をパッと明るくして、皆の輪の中に入っていった。
そんな風に一人、また一人。
竜使いの子供たちは、警戒心を解いて遊び始める。
「うそ…」
目の前の光景をにわかには信じられないのか、カレンが茫然と呟いた。
「そんなに驚くこと? 子供の基本なんて、遊ぶ、食べる、寝る、でしょ? どんな子でも、そんなの変わらないって。」
本当は誰だって、ああやって何も考えずに遊びたかったはずだ。
それを、この町を包む警戒心と恐怖が邪魔していただけの話。
『価値観には、価値観をぶつけるしかないんじゃない?』
フールはそう言った。
ならば、単純にこうすればいいと思った。
自由を奪う空気など、楽しさで壊してしまえばいいのだと。
「色々考えたけど、俺にできるのはこれくらい。」
ルカ、カレン、サーシャ。
三人と丁寧に目を合わせ、キリハは表情を和らげた。
「俺とルカたちは、同じだけど違う。だから、俺の言葉の全部は受け入れてもらえないと思うんだ。当然だよね。だって、〝今まで〟はもう変えられないんだから。」
もう過ぎてしまった経験を元にできあがってしまった概念を作り替えるのは、途方もない時間と労力を要するだろう。
中には、どう足掻いたって変えられないこともあるかもしれない。
「でも、〝これから〟は変えられる。」
キリハは、仲良く遊ぶ子供たちへと視線を向ける。
竜使いとか、そうじゃないとか。
そんな上辺のことなど関係なく、皆が笑って手を取り合う姿。
当たり前であるはずなのに、この光景がとても尊く見えるのは、これがこの国の普通ではないからだろう。
「別に、全員の認識を変えようだなんて思ってはいないよ。ほんの少し。ほんの少しだけでも、肩の力を抜いてもらえれば……周りは敵ばっかじゃないんだって証明できればいいかなって、そう思ったんだ。」
自分はどこにでもいる一人の人間で、特別な何かを持っているわけではない。
持っている手札だって、きっと皆と変わらない。
フールの言うとおり、価値観には価値観をぶつけるしかないなら、自分ができることはただ語りかけることだけだ。
全てが敵ではない。
歩み寄れる人間が、少なからず皆にもいるのだと。
多くの人を縛る〝普通〟は変えられなくても、こんな小さな町の小さな子供たちの世界なら、変わるきっかけを与えることはできる。
「これが、俺に伝えられる精一杯のことだから。」
言葉どおり精一杯の気持ちを込めて、キリハは笑みを深めた。
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