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第3章 竜使いであること
見ちゃった…(汗)
しおりを挟む「いやぁ、わざわざごめんね~? よかれと思って見せたけど、キリハには都合が悪かったかなぁ?」
シミュレート室から十分に離れたところで、フールが口を開いた。
その声はもう、いつもの軽い口調に戻っている。
「まったくだ。見たくなかったよ。」
キリハは肩をすくめる。
今後、ルカとどういう態度で接しろというのだ。
そう考えると頭が痛いが、別に悪いものを見たとは思わないので、キリハの声はそこまで暗くはなかった。
「えへへ、ごめんね。でも、実はもう一個謝んないといけないことがあるんだよね。」
「はあ? この期に及んで何さ?」
今さら、謝罪の一つや二つが増えたところでどうということもないだろう。
キリハは笑みすらたたえて、フールに問いかける。
「ルカの前ではかっこよく、キリハだけに目をかけてるわけじゃないって言ったけど……あれ、本当は嘘なんだよ。」
フールは虚空を見つめて、何を見るでもなくそう話し始めた。
「……嘘?」
どんなことを言われても受け止める心づもりだったのだが、この告白は予想外だ。
パチパチと瞼を叩くキリハに一つ頷いて、フールは先を続けた。
「うん。キリハは、今までの子たちにはないものをたくさん持ってる。宮殿の中にも、キリハの影響を受ける人が増えてきてると思うんだ。だからかな? どうしても、キリハに期待したい自分がいるんだ。キリハなら、未来を変えてくれるんじゃないかって。」
ゆっくりと向けられた視線に、キリハは戸惑ってしまった。
見た目はぬいぐるみのくせに、今フールの目に込められた眼差しは不思議な光を宿しているように見えた。
普段どれだけふざけていても、彼は《焔乱舞》への案内人なのだ。
こんな不思議な目でそんなことを言われてしまうと、この先に巨大な壁が立ちはだかっているのではないかと、妙な危機感を抱いてしまう。
ただただ感じるのは、逃げたくなるような嫌な予感。
キリハは何も答えることなく、自室に向かって階段を上る。
そこで、階段を上った先に人影が見えるのに気づいた。
階段を上がりきった先にあるのは、共用のバルコニーだ。
誰かいるのだろうか。
そう思いながら、キリハは躊躇わずに歩みを進める。
おそらくバルコニーに誰かがいるのだろうが、誰がいつどこで何をしていようと自由だ。
自分がわざわざ口を出すことでもあるまい。
だが、さっさとそこを通り抜ける予定だったはずの足は、バルコニーの様子を視界の端に捉えた瞬間に止まってしまう。
バルコニーに立っていたのはサーシャだった。
彼女はバルコニーの柵に手を置き、雲一つない夜空に浮かぶ月を見つめている。
柔らかな月光を浴びるその姿は、どこか幻想的で吸い込まれそうで……
うっかり見惚れてしまった。
そしてそのことを、キリハはこのすぐ後に全力で後悔することになる。
月を見ていたサーシャの頭が、ゆっくりと下がっていく。
感情をこらえるように細い両手と肩が震え始めて、数秒後。
「う…」
微かな嗚咽が耳を打った。
(あっちゃー…)
反射的に窓から身を隠し、キリハは思わずその場にしゃがみ込んで顔を覆った。
ことごとくタイミングが悪い。
どう考えても、今のは見てはいけないものだ。
「どうしよ…?」
嘆いても、目撃してしまった後ではもう遅い。
キリハは深々と吐息をつく。
そこに。
「キリハ……どうやら君は、面倒事を引き寄せちゃうタイプみたいだね~。」
この場においては最も聞きたくない、面白おかしそうな声がとどめを刺してきた。
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